3月1日、ロイター通信の取材に応えるゼレンスキー大統領。祖国の連帯を呼びかけ続ける姿に、多くのウクライナ人が勇気づけられている(写真・ロイター/アフロ)

「ヨーロッパは目を覚まさなければならない。爆発が起きたら、すべてが終わる。ヨーロッパの終焉だ。それは、ヨーロッパから人類がいなくなるということだ。ロシア軍を止めることができるのは、ヨーロッパの即時行動のみである」

 3月4日に、ロシア軍がウクライナのザポリージャ原発を攻撃したことを受けて、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領(44)は、早速インスタグラムを更新。

 ヨーロッパの決起を呼びかけ、多くのウクライナ人が「Найкращий президент(もっとも優れた大統領)」とコメントを寄せた。この言葉は、ゼレンスキー大統領の投稿にたびたび寄せられるキーワードだ。

 ある在日ウクライナ人女性が語る。

「東日本大震災の際、テレビに出続ける当時の官房長官の枝野幸男さんに対して『#枝野寝ろ』というハッシュタグが流行りましたが、私たちが使っている『Найкращий президент』は、それ以上に切実なものです。祖国がいつ崩壊するかわからないなか、ゼレンスキー大統領の力強い演説は私たちの心の支えなのです」

 ゼレンスキー大統領の支持率は91%を突破。だが、勇敢なイメージとは裏腹に、彼のキャリアはひょうきんなコメディアン・俳優として知られている。

 共産圏のエンタメ事情に詳しいテレビ局関係者が語る。

「彼の出発点は、『КВН』という旧ソ連圏で愛されている長寿コメディ番組です。日本でたとえるとコメディ版の『高校生クイズ』のようなもので、学校や地元の友人で組んだチームで番組に参加し、大喜利に答えて点数を競います。ロシアのエンタメ業界には同番組の出身者がたくさんいて、影響力の高さが窺えます」

 2006年ごろに同番組に出場し、ゼレンスキー氏の活躍を間近に見ていたあるロシア人は、彼の印象をこう語る。

「彼のすごいところは、これといった持ちネタや個性はないのに、あらゆるお題に対してウイットに富んだ返しで場を沸かせるところでした。

 誰に対しても陽気で愛想がよく、番組の司会者のイマイチなジョークもきちんと拾うから気に入られているばかりか、楽屋でも大勢を笑わせていました。

 服装は今と同じで、デニムにTシャツのようなシンプルなものが多かった。いま思えば、あの天性のコメディアン気質が、国民を率いるのに役立っているのでしょう」

 前出のテレビ局関係者は、彼の隠れた魅力として “下ネタ芸” を挙げる。

「『КВН』を卒業したゼレンスキー大統領は、メンバーとコメディや演劇の制作会社を立ち上げました。彼らの番組でもっとも有名なのが、ゼレンスキー大統領が披露した『男性器でピアノを弾く』という衝撃的なネタです。

 下ネタ芸も辞さないインテリのエンタメ人として重宝された彼は、2009年にロシア版の『SEX AND THE CITY』に出演し、あられもない姿を披露していました。日本でいうと、志村けんのような存在でしょうか」

 2015年にはひょんなことから大統領になることになる教師を演じたドラマ『国民の下僕』がブレイク。やがて国民的俳優として出馬した大統領選挙で、本当に大統領になった。

 ユーモアと下ネタ芸で身を立てた、侵略に立ち向かうヒーロー。戦禍を乗り越え、彼の「男性器ピアノ」を拝める日が待たれる。