■ソ連時代のスタジアムの地下プールを改築した、世界有数のテクノクラブ

『ファッションウィーク・トビリシ』に世界中から集まったクリエイターを楽しませるのは刺激的なファッションだけではない。西欧とは異なったファッションの文脈を楽しんだゲストたちは、その背後にあるトビリシの文化にも目を向ける。

トビリシに数あるクラブのなかでも、国際的にその名を轟かせているのが、トビリシ最大のスタジアムの地下にあるソ連時代のプールを改装した3フロアのクラブ「バシアーニ(Bassiani)」。

1,200人を収容する巨大なクラブは、「世界一のクラブ」とも言われるベルリンの「ベルグハイン(Berghain)」に比される存在となり、世界でも有数のテクノクラブとして知られる。

また、旧ソ連時代の建築物とポストモダンな建築が入り混じったカオティックな街の風景も、トビリシの魅力のひとつだろう。

2000年代に大統領に就任したミヘイル・サアカシュヴィリの肝いりで、市内には、まるで繭のようなデザインを施された「平和の橋」や、イタリア人建築家のマッシミリアーノ&ドリアナ・フクサスによる「音楽ホール」、大きなキノコのような「市合同庁舎」など、トビリシでしか見られない個性的な建築物が立ち並んでいる。

これらが旧ソ連時代の無骨な建物と入り混じり、生み出される独特の風景。2018年からは『トビリシ建築ビエンナーレ』も開催されており、トビリシは建築の街としてもじわじわと注目を高めつつある。

■新旧の建築だけでなく、ヒップホップ、グラフィティカルチャーも充実

トビリシのカオティックな魅力は、建築だけでなく、その壁面からも感じ取れる。街中のいたるところに、完成度の高いグラフィティが描かれているのだ。日本では器物破損罪に問われるグラフィティも、ジョージアでは大切な表現のひとつとして、多くの市民に受け入れられている。

羊のアイコンを使った「LAMBシリーズ」を手掛けるMishiko Sulakauri(ミシコ・スラカウリ)は、トビリシで活躍するグラフィティアーティストのひとり。

ジョージア辺境の山岳部にルーツを持つ家系出身のMishikoは、自らのアイデンティティーに向き合いながら、山岳部におけるシンボルである羊をアイコンとして描く。「アメリカやヨーロッパの借り物ではないLAMBにこだわりたい」という彼にとって、羊を描くことは、そのままジョージアを描くことを意味するのだ。

いまジョージアは独立から30年を経て、若者の大部分は、ソ連時代を知らない世代となった。若いジョージアのアーティストたちは、西欧のマネにとどまらず、自らの「ジョージア人」としてのアイデンティティーに向き合いながら表現に取り組んでいる。

ジョージアというアイデンティティーに向き合ったもうひとつの象徴的なアーティストが、ヒップホップユニット「KayaKata」。ローカルの若者にとってのリーダー的な存在だ。

ライブが即日ソールドアウトするほど若者に影響力のある彼らは、ジョージア語で、ジョージア人に向けた音楽を発表することにこだわる。過去にYouTubeに投稿された”Polo Palace”のMVは、現在1,100万回の再生数を記録する。

KayaKataメンバーのひとりであるDillaは1985年生まれ。幼少期に内戦に遭遇し、難民キャンプのなかで「ギャングのルールで生活し、警察に殴られながら毎日を生き抜いてきた」という過去を持つ。

ジョージアの暗黒を象徴するような暗い過去を立脚点としながらも、そのトラウマにとらわれることなく、音楽活動のほかにもLGBTQ+運動のサポートやクラブに対する警察の不当な捜査への抗議活動にも加わっている。絶望的な時代を生き抜いてきた世代による活動はいま、ジョージアの若い世代へと希望をつないでいる。