ドワンゴが主催する「The VOCALOID Collection」

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2021年は、VOCALOID(ボーカロイド、通称ボカロ)をはじめとする音声合成ソフトウェアで作曲された楽曲に大きな注目が集まった。ニコニコ動画に「VOCALOID」タグをつけて投稿されたミュージックビデオのうち、11作が年内で100万再生を超えた。

今年で15周年を迎えた「ニコニコ動画」を運営するドワンゴの栗田穣崇・専務取締役は、ゲームやイベントの影響だという見方を示している。

2013年以来の盛り上がり

ボカロとは、厳密にはヤマハが開発した音声合成技術、及びその応用製品の総称を指す。インターネット上では、UTAUやCeVIO含む様々な音声合成ソフトウェアを指す語としても用いられている。こうしたソフトで楽曲を作る人は「ボカロP(プロデューサー)」と呼ばれる。

2021年にはボカロで制作された多くの楽曲が再生された。ニコニコ動画で「VOCALOID」タグをつけて投稿され、年内に100万再生を達成したのは次の11曲だ。(曲名/投稿者)

ヴァンパイア/ DECO*27キュートなカノジョ/ syudouフォニイ/ ツミキエンヴィーベイビー/ kanariaパメラ/須田景凪 バルーン神っぽいな/ピノキオピーマーシャル・マキシマイザー/柊マグネタイトシネマ / Ayaseトンデモワンダーズ/ sasakure.UK群青讃歌/Eve限りなく灰色へ/すりぃ

栗田さんが2021年12月16日にツイッターに投稿した「投稿した年内に100万再生を突破したボカロ曲一覧」によれば、投稿年内に100万再生を達成した曲数が二桁となるのは2013年以来。過去2年はそれぞれ4曲だった。

なぜ2021年、ボカロが盛り上がったのだろうか。

ゲームやイベントがボカロを盛り上げる

ボカロが盛り上がった背景について栗田さんは、ゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク(通称プロセカ)」やイベント「The VOCALOID Collection(ボカコレ)」の影響があるとみている。

プロセカは、ColorfulPalette(東京都渋谷区)とセガ(東京都品川区)が2020年9月30日に協業でリリースしたスマートフォン向けアプリゲームだ。ボカロ楽曲によるリズムゲームと、ボカロ「初音ミク」たちが登場するアドベンチャーゲームを楽しめる。公式ツイッターによれば21年7月の時点で、ユーザー数は500万人を超えた。

リズムゲームには、2000年代から最新のボカロ曲までが配信されている。人気曲の追加が発表されると、曲名がツイッターのトレンドに浮上し、元動画の注目も高まった。

ボカコレは、ドワンゴが開催するボカロのオンラインイベントだ。2020年冬から年2回のペースで開催されており、動画作品を投稿し、各種カテゴリでランキング順位を競うイベントが人気を博している。

栗田さんは、ドワンゴがニコニコ動画でボカロに着目する背景をこうツイートしている。
「ニコニコがボカロを推してるのは、個人が作った一曲の創作物から歌ってみた、踊ってみた、演奏してみた、描いてみた、MMD、などさまざまな2次創作への展開の可能性がニコニコというUGCプラットフォームと相性が非常に良いからです。ボカロがなければ正直ニコニコはこんなに長く続かなかったと思う」

栗田さんがこう述べるように、ボカコレではボカロを用いて制作された楽曲だけでなく、ボカロ曲を「歌ってみた」ものや「踊ってみた」ものなどにも焦点があたるよう、細かなカテゴリーランキングを設けている。また2年以内に活動を始めたボカロPのみのランキング「ボカコレルーキーランキング」は、新人発掘の場として機能している。

ドワンゴの発表によれば、21年10月に実施されたボカコレには、約4000作品が投稿され、約67万7000人がアクセスした。

多様なアーティストの活躍が目立つ

こうした盛り上がりがあってか、100万再生された11曲の作者の経歴は多様だ。

DECO*27さんやsasakure.UKさん、ピノキオピーさんは、2000年代からボカロ曲を投稿し続けており、古参のアーティストとして根強い人気を博す。一方で2020年から活動を始めたkanariaさんや柊マグネタイトさんは、新世代のボカロPとして注目を集める。

ボカロ以外での活躍が目立つアーティストもいる。Eveさんは、人気アニメ「呪術廻戦」のオープニング主題歌「廻廻奇譚」の作詞・作曲から歌唱までを担ったことでも大きな注目を集めた。Ayaseさんはバンド「YOASBI」のメンバーとして2020年、第71回NHK紅白歌合戦に出場したことでも知られている。

以前ボカロ界隈が盛り上がった2013年、年内に100万再生された11曲のうち7曲は「カゲロウデイズ」などで知られるじん(自然の敵P)さんの楽曲だった。それに対して2021年は、古参から新参、またボカロに限らない様々な活動を行うアーティストがボカロ界隈を盛り上げた。