電気自動車メーカーであるテスラのイーロン・マスクCEOは、2021年1月の決算発表に関する電話会議で「2021年には人間を超える信頼性で車が自動運転できるようになると確信しています」と発言しました。ところが、法的透明性の実現を目指す団体・PlainSiteが新たに公開した文書から、テスラ社員がマスク氏の発言を否定したことが明らかとなっています。

PlainSite :: Documents :: California DMV Tesla Robo-Taxi / FSD Notes

https://www.plainsite.org/documents/28jcs0/california-dmv-tesla-robotaxi--fsd-notes/

Tesla engineer to California DMV: Self-driving may not come this year

https://www.cnbc.com/2021/05/07/tesla-engineer-to-california-dmv-self-driving-may-not-come-this-year.html

Tesla privately admits Elon Musk has been exaggerating about ‘full self-driving’ - The Verge

https://www.theverge.com/2021/5/7/22424592/tesla-elon-musk-autopilot-dmv-fsd-exaggeration



以前からテスラは同社の自動運転技術についてアピールしており、記事作成時点では一部の車両でレベル2のオートパイロット機能を提供しています。アメリカ自動車技術者協会(SAE)が策定した自動運転化レベルによると、レベル2は部分的な運転の自動化が実現されている段階であり、ドライバーが運転の主体でありながらもシステムがアクセル・ブレーキ操作やハンドル操作を部分的に行うことが可能。なお、一定の条件下で全ての運転操作を自動化するのはレベル4、制約なしで全ての条件における自動運転を実現できる段階はレベル5と規定されています。

過去には、テスラ・モデルXのオートパイロット機能によって道路上に倒れた大木に衝突する直前で急ブレーキが作動したことで、計8人もの命が救われたと報じられました。

テスラ・モデルXのオートパイロット機能によって8人の命が救われる - GIGAZINE



ところが、ゼネラルモーターズやフォード、Uber、Waymoといった自動運転車の開発に取り組む企業からは、「テスラの車両はまだ運転者を必要としている」として批判されています。2020年9月にはアメリカの消費者団体・Consumers Unionが一部のテスラ車に実装されている「完全自動運転機能(FSD)」についてのレビューを発表し、「テスラの完全自動運転は名ばかり」として、FSDには多くの問題が残されていると指摘しています。

「テスラの完全自動運転は名ばかり」で80万円超の価値ナシとコンシューマー・レポートが評価 - GIGAZINE



テスラはその後も自動運転機能の改良に取り組んでおり、2020年10月には同社の車両向けに「FSDベータ版」の配信を開始。このアップデートにより、ドライバーは部分的に自動化されたドライバー支援システムにアクセスできるとのことですが、アップデートの配信はソフトウェアのバグを修正するためのテストプラットフォームでのみ行われました。

PlainSiteによって公開されたアメリカ・カリフォルニア州車両管理局の文書によると、2021年3月9日時点でFSDベータ版が配信されるパイロットプログラムに参加しているのは、753人のテスラ従業員と71人の非従業員を含む合計824台の車両のみだとのこと。マスク氏はFSDアップデート配信について「非常にゆっくり、慎重に行っていく」と語っており、ドライバーは依然としてハンドルを握って車両の制御を行う準備をする必要があるとしていました。

一方でマスク氏は、テスラ車における完全自動運転の実現について強気の姿勢を崩していません。2021年1月の決算発表に関する電話会議では投資家に対し、「2021年には人間を超える信頼性で車が自分自身を運転できると強く確信しています」とコメントしています。ところが、PlainSiteが新たに公開した車両管理局の文書には、テスラの自動運転機能は依然としてレベル2であり、マスク氏の発言はテスラのエンジニアリング的な現実に即していないと記されています。

文書によると、車両管理局はテスラでオートパイロット機能のソフトウェア担当ディレクターを務めるC・J・ムーア氏に対し、マスク氏が年末までのレベル5を実現するというメッセージを発したことについて、エンジニアリングの観点から発言するように求めた模様。そしてムーア氏は、マスク氏の発言はエンジニアリングの現実とは一致しておらず、現状のレベル2からレベル5への移行は簡単ではないと車両管理局に語ったそうです。



マスク氏が自動運転技術に関する強気の発言をすることは今回が初めてではなく、過去には「2018年8月には完全自動運転車が登場する」とTwitterで発言したり、「レベル5自動運転の基本的な仕組みが2020年中に完成することを確信しています」とWorld Artificial Intelligence Conference(世界人工知能大会)の開催式で語ったりしています。

なお、記事作成時点ではテスラ車の死亡事故が相次いでおり、連邦政府の道路交通規制当局はオートパイロット機能が作動していたテスラ車が絡んだ24件の事故について調査しているとのことです。