5Gに新型コロナウイルスが与えた影響とその価値について考える

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●苦難の門出となった5Gサービス
第5世代移動通信システム「5G」は、移動体通信事業者(MNO)サービスを行うNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社で正式スタートし、このゴールデンウィークで約1カ月を迎えます。

各社それぞれに5G専用の料金プランやサービスを用意し、対応スマートフォンもラインナップされました。
一方、新型コロナウイルス感染症で緊急事態宣言が出されたことで、各社ともに予定していた宣伝や販売が行えない状況が続いています。

本来であれば、5Gの環境整備と対応端末の販売に全力を傾けている段階であり、このゴールデンウィークが最初の大きな商戦となるはずでした。

しかし、テレビを始めとした大手メディアの話題は新型コロナウイルス感染症の現状や対策で埋め尽くされ、5Gのメリットやサービスを啓蒙する機会すらなくなっています。

そのため、5Gについて正しく理解されていない消費者も多いように思われます。

5Gとは、そもそも何か?
5Gによって私たちの生活はどう変わるのか?
外出自粛要請と緊急事態宣言の中、5Gが役立つことはあるのか?

5Gの価値について、通信技術の側面から改めて考えます。


未曾有の災禍の先で、5Gが果たす役割と価値について考える



●5Gとは何か
まずは基本のおさらいです。5Gとは一体何でしょうか。

前述のように、5Gとは「第5世代移動通信システム」のことです。
第5世代、というからには、それまで大きく4つの通信世代が存在しました。

・第1世代(1G):最初期のアナログ式広域無線通信システム
・第2世代(2G):デジタル化された世代。
日本では主にPDCという通信規格が用いられた
・第3世代(3G):高速化が図られた世代。
W-CDMAやCDMA2000 1xなどの通信規格がある
・第4世代(4G):3Gの発展としてさらなる高速化が図られた世代。
正式に4Gと呼べる規格はLTE-AdvancedとWiMAX2だが、商用的には3.5G世代のHSPA+や、3.9G世代のLTEおよびWiMAX、AXGPなどもこの世代として扱われる

これまでの通信世代は細かな規格の違いこそありますが、第2世代から愛4世代までは、ほぼ「通信速度の向上」に重点が置かれてきました。

そのためテレビやメディアでも、5Gの通信速度が向上する話ばかりが取り上げられること多いようです。

しかし5Gは、これまでの通信規格とは全く異なる進化を遂げている規格なのです。


5Gは単なる通信回線の高速化ではない


5Gによってもたらされる無線通信技術の進化とは、
・高速大容量
・低遅延
・多数同時接続
この3つに集約されます。

一般に広く認知されているのは「高速大容量」です。
この特徴は、スマートフォンユーザーが最も恩恵を得やすいメリットでもあります。
しかし、そのほかの「低遅延」「多数同時接続」も、実は大きなメリットがあります。

例えば、現在世界中で深刻化している新型コロナウイルス感染症問題では、患者数の爆発的増加による医療崩壊が危惧されています。
深刻な医療崩壊を引き起こす大きな要因の一つが医師不足です。
人口の多い大都市ほど感染爆発が起こりやすく、ひとたび感染爆発が起きれば、医師不足から医療崩壊を招くリスクは一気に上がります。

こういった状況でも、5Gの「低遅延性」があれば、オンラインによるリアルタイムでの遠隔医療を行うことが可能となり、医師不足を補うことができます。
5Gであれば、高速大容量を活かした鮮明な映像や音声、各種データなどを低遅延のまま相互に通信可能であり、将来的には遠隔操作での施術すら可能になるとされています。

遠隔地で専門医が不在の地域でも、専門医がビデオチャットを使った遠隔診断や遠隔施術により、医療現場の補助が可能となります。
こうした遠隔医療技術とそれを支える通信技術は、地方や遠方でなくとも、感染症のように人との接触を極力避けなければいけない医療においても大きなメリットとなります。

また5Gの「多数同時接続性」の高さも、テレワークによるトラフィックの増大で通信が繋がりにくくなる、といった状況を生みづらく、緊急事態でも安定した通信環境を確保しやすいというメリットになります。

世界の大混乱を見るたびに、この5Gを活用した数々のテクノロジーがあと数年早く普及していたならば……と、考えざるを得ません。


NTTドコモが2018年に公開していた、5Gを用いた遠隔医療システム「モバイルSCOT」



4Gでは実現できなかった鮮明な映像をいつでもどこでも確認でき、その施術指示も超低遅延で行える



●弱点の多い5G
残念ながら、こうした遠隔医療技術に5Gが本格的に用いられるようになるのは、まだあと数年待たなければいけません。

5Gの正式サービスはスタートしましたが、各社のエリア展開状況は東京や大阪、福岡といった各地の主要都市の、さらにごく一部の施設に限られており、その整備やエリア拡大はまだまだこれからといった状況です。

現在の状態は、エリアというよりも「スポット」展開と表現したほうが良いレベルで、これが都市部全体をエリア化するのに半年から1年、さらに全国の居住地域など、全てをエリア化するには、あと2〜3年は必要になります。


5Gエリア展開の道のりは非常に長い


5Gサービスの広域での展開が難しい理由は、その電波特性にあります。
5Gでは、3.7GHz帯や4.5GHz帯、そして30〜300GHz帯など、非常に高周波の帯域を利用します。

これらの周波数帯の電波は高速通信を行いやすいというメリットがある一方で、
・電波の直進性が高く回折性が低い(建物の裏側に回り込みづらい)
・電波浸透性が低い(障害物に弱く建物の中に電波が入りづらい)
・出力減衰性が高い(電波が遠くまで飛ばない)
こうしたデメリットがあります。

そのため5Gの通信エリアを構築するには、4Gよりもアンテナの密度を高く設置する必要があります。エリア化がなかなか進まない最大の要因は、純粋にアンテナの設置場所の確保や設置作業に時間がかかることです。

通信アンテナは、等間隔に置けば良いというものではありません。
建物や障害物の有無によっても置く位置や角度を変える必要があり、屋内ではさらに条件が複雑化します。
設置場所の確認だけではなく、実際に電波を正しく掴めるのか、ほかのアンテナからの電波と干渉しないのか、個々に確認する必要もあります。


5Gアンテナから電波の飛ぶ角度は狭く、アンテナが向いている方向にしか飛ばない



●災禍を乗り越えた先にある5Gの真の価値
5Gサービスを提供するMNO各社は、
・これまで長く使われてきた4G回線を更に高速化
・5Gエリアとの通信をシームレスに行う
こういった手法によって、5Gエリアが十分に広がるまでの間、5Gエリア外であっても快適な通信が行えるように工夫を行っています。

例えばNTTドコモの場合、4G世代として使ってきたLTEおよびLTE-Advancedをさらに高度化・高速化した「eLTE」(enhanced LTE)を5Gエリアとして定義して利用する計画です。
またKDDIでは、一般ユーザーが利用する範囲での快適性を重視し、4Gと5Gを併用しつつ、コンテンツやサービスの充実を計っていくとしています。


KDDIの5G計画。2022年半ばまで4Gと5Gを併用し、その間にエリア展開を完了させて5Gへと移行する予定だ


このように地道なエリア展開が続けられている5Gサービスが本格的に普及するのは、秋以降だと考えられます。

毎年秋〜冬にはアップルのスマートフォン「iPhone」シリーズの最新モデルが発売されます。
今秋〜今冬に発売されると噂される新型iPhoneは5Gに対応するという噂もあり、iPhoneシリーズの市場シェアが大きな日本では、5Gサービスの本格普及での起爆剤として期待しています。

またその頃には、全国主要都市でのエリア展開もかなり進んでいることが予想されます。
現在のように特定の施設でしか利用できない状況ではなく、ショッピングモールや駅中など、人の多く利用する場所が5Gエリアとなっている可能性は大いにあります。

このような予定や想定はあるものの、新型コロナウイルス感染症問題が終息していない現在は、非常に不透明な状況でもあります。

5Gが切り開くはずだった新時代の幕開け。
この興奮は奪われてしまいました。

それでもMNO各社は、明るい未来を信じてアンテナを敷設し続けています。
AI技術やIoT機器と連携し、疫病や災害に強い世界を作るというのは、5Gの目指す未来の1つでもありました。
今まさに、そのような未来に向けた「ぶっつけ本番」での挑戦が行われています。

安定したテレワークを行えること。
遠方の家族とビデオチャットができること。
遠隔授業によって滞りなく勉学が行えること。

新型コロナウイルス感染症の問題は、私たちに多くの社会課題と、そこに関わる通信の重要性を再認識させました。
通信がなければ、正しい情報すら手に入れることはできません。
人々がパニックにならずに平静を保てるのも、常に最新情報を手に入れられる通信環境が維持されているからです。

この災禍を乗り越えた時、様々な問題の解決手段として、5Gの本当の価値が見出されるかもしれません。


執筆 秋吉 健