結婚や離婚は仕事にどう影響する?

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 最近、「働き方改革」の5文字を目にしない日はないと思いませんか。それもそのはず、働き方改革の関連法(労働基準法など)が施行されたのは2019年4月。メディアは約1年かけて、「これでもか!」というほど「働き方改革」を連呼したのだから。

 もともと、働き方改革は「長時間労働の解消」「非正規社員と正規社員の格差是正」「高齢者の就労促進」の3本柱だったはず。しかし、難しいことは置いておいて分かりやすさを優先し、そして、男性より女性ウケを優遇したため「働き方改革=夫の仕事を減らし、家事育児を増やす」というイメージが定着した印象です。

 具体的には、時間外労働(残業や休日出勤など)の減少と育児休暇の取得奨励です。例えば、24時間営業の見直しを検討したり、元旦営業を廃止したりするコンビニ、営業時間を短縮するファミレスなど各業界で動きが出ています。

 働き方改革には功罪両面があります。例えば、上司に「定時なんで」と言えば、営業部のノルマが未達でも残業を断れるし、顧客に「息子のお迎えが」と言えば、前々から約束していた商談を延期できるし、取引先に「政府の方針なので」と言えば、代々続いていた接待ゴルフも中止できる…働き方改革はまるで水戸黄門の印籠です。

 もちろん、浮いた時間を子どもの送迎や家事の分担、そして、行事への参加などに回す清廉潔白な夫ばかりなら結構です。しかし、これは夫婦関係がある程度、円満な場合に限られます。もし、一つ屋根の下に住んでいるのにほとんど会話はなく、できるだけ顔を合わせないように気を付け、どこで何をしているのかも知らず…妻とすれ違ってばかりの夫が働き方改革で時間を余らせたらどうなるでしょうか。

 早く仕事が終わったら、飲みに行ったり、キャバクラで遊んだり、妻以外の彼女を口説いたりするだけです。働き方改革のせいで残業代がカットされ、小遣いが減ったのでギャンブルで穴埋めしようとパチンコやスロットにハマることも予想されます。性欲や金欲の薄い草食系夫は漫画喫茶などで時間をつぶすでしょう。

 一方で、働き方改革によって、妻子が寝静まるまで家に帰りたくない夫、「フラリーマン」が生まれることが懸念されます。仕事の時間を減らし、家庭の時間を増やせば仕事のやる気が増すというのが理想的な展開ですが、そもそも、妻子の存在は仕事にどのような影響を与えるのでしょうか。

 今回は、筆者の男性相談者103人に聞き取り調査を行いました(回答者はすべて仮名)。まず「結婚が仕事に与えたのは良い影響、悪い影響のどちらか」の問いに対して、37人(36%)が「良い影響」、66人(64%)が「悪い影響」があったと回答しました。注目すべきは、全体の6割以上が結婚したせいで「仕事がうまくいかなくなった」と感じていることでしょう。

 具体的なエピソードを見ていきましょう。

 1人目は「家庭を持ったことで仕事がはかどらなくなった」と答えた笠井順平さん(42歳、長野市、結婚9年)。「仕事用のメールアドレスへ、妻からの不愉快なメールが多く入ってくるのですが、そのせいで職場でのパフォーマンスが下がったと感じています」。家のこと、子どものこと、ささいな愚痴まで妻は順平さんにメールで送ってくるようで、いちいち気が取られてなかなか仕事に集中できなくなってしまったそう。

 それだけではありません。順平さんは続けてくれました。

「なるべく娘と過ごすため、仕事はさっさと切り上げるようにしています。今はだいぶ慣れましたが、最低限のことを済ませるにとどまっています。でも正直、がっかりすることも多いですよ。この前も急いで帰宅したのに娘は疲れて就寝していたり、せっかく一緒に風呂に入ろうと思っていたのに、妻と先に入っていたりするとね」

 2人目は「損してばかりです」と言う高橋和樹さん(45歳、茨城県古河市、結婚15年)。「妻と同じ職場なのですが、人事異動のときに、そのことが私にとって損になりました。私がある部署に行きたいという希望を出しても、妻がその部署にいる限り配属してもらえないのです」。既に同じ課に12年も所属しているので、仕事へのやりがいもうせてしまったそう。

「絶対に同じ職場の女性と結婚しない方がいいですよ! 何かにつけて自分にとってマイナスになります。妻が同じ職場で仕事を続ければ、なおさらです」と、和樹さんは力強く断言します。

離婚で「良い影響」は73%

 次は、子の誕生です。「子の存在が仕事に与えたのは良い影響、悪い影響のどちらか」の問い(回答者78人)に対して、37人(47%)が「良い影響」、41人(53%)が「悪い影響」があったと回答しています。

「同僚たちに自分の分の仕事を頼まざるを得ませんでした」と語るのは岡照也さん(45歳、愛知県豊田市、結婚9年)。

「当時は、家事や育児を手伝うために早く帰らなければなりませんでした。特に同年代で独身の同僚には負担を強いており、迷惑をかけていたと思います。そんな感じで、次第に人間関係がうまくいかなくなり、最終的には子会社への出向を命じられました」

 照也さんいわく、子会社への出向で仕事の量がだいぶ減ったことで以前より楽になったようですが、当然ながら、給料もだいぶ減ってしまったとのこと。しかも、先ほど挙げた「同年代で独身の同僚」は出世しているのに、いまだに出向先から抜け出せず…家事や育児に熱心なイクメンだったせいで、今まで積み上げたキャリアや地位、信用を失ってしまったのです。

 そして、照也さんは9年間の結婚生活に終止符を打ったのですが、当時を振り返ってくれました。

「毎日、育児や家事、仕事で時間に追われていましたが、今思えば完璧にやろうとしすぎたのかもしれません。妻といろいろ話していたら、こんなふうにならなかったかもしれません。とにかく時間に追われすぎていました。もう少し肩の力を抜いて『ほのぼの家族』を目指すべきでした。とにかく心の余裕が必要だと思いました」

 離婚についても取り上げましょう。離婚という一見、人生の汚点になりかねない出来事は仕事にどのような影響を及ぼすのでしょうか。回答者(48人)のうち、35人(73%)が「良い影響」、13人(27%)が「悪い影響」があったと回答しました。どういうことでしょうか。

「家事や育児の手伝いを優先すると、どうしても仕事がおろそかにならざるを得ません。結果としてボーナスが下がってしまったのですが、そのせいで妻から罵倒され、精神的につらかったです」と苦しい胸の内を明かしてくれたのは松木雅美さん(46歳、北海道旭川市、結婚22年目で離婚)。

「だからといって、仕事を優先しようとしたら家庭がめちゃくちゃになり、結局、仕事のことでも家庭のことでも妻から罵倒され、どうしようもなかったのです」と言いますが、どんなに仕事を頑張っても、家事や育児を頑張っても、妻がねぎらいの言葉をかけてくれたことはなかったそう。これでは、雅美さんが結婚生活に絶望して離婚を視野に入れるのも無理はないでしょう。

 そして、雅美さんが別れを切り出してから10カ月で離婚が成立したようですが、妻の罵倒によって今の仕事へのやる気を完全に失っていたので、心機一転、離婚と同時に転職に踏み切ったそうです。

「仕事をどんなに頑張っても、家に帰れば、どうせ妻に罵倒されるに決まっているので、仕事に対するモチベーションも低かったです。しかし、今の会社に入ってからは久しぶりに仕事に対する熱が湧いてきて、良い仕事ができているなと実感しています」

 雅美さんは、22年間の結婚生活をこんなふうに振り返ってくれました。「僕の場合は、パートナーが理解ある人でなかったため、仕事と家庭、どちらも中途半端でどちらも集中できませんでした。パートナーと仕事について、そして家庭について話し合いをしっかりしておけばよかったと今ではそう思います」。

「家内は1年の3分の1は実家に帰って過ごしていました。これでは一体、何のために結婚したのか分かりません」と語気を強めるのは内藤隆文さん(42歳、福島県郡山市、結婚6年目で離婚)。結局、妻は実家に居つくようになり、別居状態に。隆文さんは精神的に耐えられず、仕事に集中できなかったそうです。

 しかし、結婚6年目でついに離婚が成立。精神的にスッキリして仕事に集中できるようになったといいます。「離婚を決めたら早めに行動した方がいいですよ。もたもたしていると余計な費用もかかるし、精神衛生上よくないです」と同じ悩みを抱える男性に向けてエールを送ってくれました。「女性ばかりの職場なので、離婚したことで『苦労人』として扱われ、同情票をもらい、うまくやっています」と。

家庭がうまくいかないからこそ仕事?

「嫁の実家の手前、家を購入したのですが、時期尚早でした」と反省の弁を口にするのは、秋田純一郎さん(51歳、熊本市、結婚17年目で離婚)。そのせいで、純一郎さんは趣味を諦めざるを得なかったのですが、妻から家計のやりくりで文句を言われるので「おかしいのではないか!」と首をかしげたそう。

「嫁や嫁の実家から頼まれ事が多く、そのせいで、会社での集中力や身の入れ方に大きくマイナスが出ました」と思い出すように語ってくれました。

 純一郎さんは辛抱に辛抱を重ねたものの、ついに我慢の限界に達し、結婚17年目で離婚。「家に敵がいないし、親戚付き合いしないで済みます。買い物を気にせずにできるのも大きいです」と言いますが、結婚と独身それぞれのよさがあるので、両方経験してみると、実感することも多いそう。

「だから今、自分が置かれている状態をよしとする方が幸せです。いまだに独身の友人もいますが、そいつらには必ずそう言い聞かせています」と人生で無駄な経験はないことを力説してくれました。

 ここまで、6人の男性の証言をもとに妻子の存在が夫の仕事に与える影響を見てきましたが、家庭がうまくいかなければ仕事もうまくいかないのは当然といえば当然です。一方で逆のパターンが存在するのも見過ごせません。例えば、家庭がうまくいかないからこそ、その反動で仕事を頑張ろうとする。仕事がうまくいかないからこそ、その反動で家庭を大事にしようとするケースです。家庭と仕事が必ずしも比例するわけではありません。

 家庭が平和な方が仕事を頑張る人、家庭が不和な方が仕事を頑張る人が存在するということですが、働き方改革の恩恵を無駄にしないよう、仕事も家庭も良好な人生を目指してほしいです。