「とにかく、選手との距離が近いんです。W杯より迫力があって、試合後には触れ合えるトップリーグを皆さんに見てほしい」

 

そう柔らかな表情で語るのは、トップリーグリーダー会議幹事長でNTTコミュニケーションズ シャイニングアークスの現役選手である栗原大介選手。日本中が歓喜に沸いたラグビーW杯の熱を、どのようにしたら2020年1月12日に開幕するトップリーグまで持続させることができるのか選手目線で考える中心人物のうちひとりです。

 

W杯が閉幕を迎えるわずか4時間前に開催された、ラグビーの在りたい未来像を検討するトークセッション「ノーサイドダイアログ」に参加して感じたことはなにか、ラグビーの未来のために取り組んでいくべきことはなんなのか、お話を伺いました。

 

W杯でようやく見えた「ラグビーのフィロソフィー」

ラグビーW杯日本大会は、予想以上の盛り上がりを見せてくれました。この要因は日本代表による予選リーグの快進撃にももちろんあると思います。でも、それ以上に各自治体のホスピタリティに助けられた部分が大きいのではないかと考えています。キャンプ地となった都市では、元日本代表の廣瀬さんが始めたスクラムユニゾンの取り組みの成果もあってか、日本人がその国の国歌やラグビーアンセムを歌ってお出迎えしました。ニュージーランドがキャンプをした柏市ではオリジナルの柏ハカを披露し、ウェールズ代表がキャンプを下北九州市では公開練習にファンが押し寄せてスタジアムを満員にしていて。直前まで誰も予想していなかったことですよね。

 

W杯が開幕してからも、開催都市のラグビーを盛り上げたいという気持ちや来てくれた選手をサポートしたいという気持ちがものすごく伝わってきました。そんなホスピタリティ、いわば日本のおもてなしの心が積み重なったからこそ、大会の中身もいいものになったのではないかと考えています。

 

試合では、選手たちがラグビーのフィロソフィーである“ノーサイド”の精神を体現していました。試合終了のホイッスルが鳴ったあと、悪口を言うのではなくてお互いを称え合う。勝ったチームが花道をつくって負けたチームを送り出す。こういった姿勢は「見せた」というよりも、今大会で「見えた」という方が正確なように思います。

 

 

これまでラグビーは皆さんに見てもらう機会が圧倒的に不足していました。接する機会が少ないのがラグビートップリーグの、ひいてはラグビー界全体の一番の課題だったんです。日本代表の田村選手がアイルランド戦後に「誰も僕らがどれだけ犠牲にしたか知らない」と言っていましたが、まさにそのとおりだなと。W杯が民放で放送されたことや、東京駅近辺が『丸の内15丁目プロジェクト』でラグビー色に染まったことで、皆さんにようやくラグビーを身近に感じ、目にしてもらえるようになりました。

 

ラグビー熱を“twitter”で維持

ラグビーW杯で日本中がフィーバーした熱を、このままトップリーグに持っていきたいと思っています。前回のW杯後も日本中のラグビー熱が上昇しました。トップリーグのチケットも前売りで完売したと言われていました。でも、いざ試合となると空席だらけ。チケッティングに失敗し、ラグビー熱は再び下火になってしまいました。

 

だからといって、今回はどうしろと言うつもりはありません。僕はトップリーグに所属するチームの代表によって構成されている『トップリーグリーダー会議』で幹事長を務めていますが、代表を務める稲橋選手(稲橋良太 クボタスピアーズ所属)選手と共にチケッティングのことは気にしないようにしています。いち選手の立場で動いてどうこうなる部分ではないと思っているので。

 

ただ、何も考えていないのではなくて、選手ができる範囲内で策を考えています。例えば、Twitterの「#(ハッシュタグ)」。参考にしているのはバレーボール界です。W杯バレーがラグビーW杯と同時期に開催されていたのですが、閉幕後に「#Vリーグはバレーだよ」とのハッシュタグを選手発信で始め、トレンド入りを果たしていました。

 

ラグビーW杯はTwitterでもかなり盛り上がっていましたよね。そのとき呟いてくださった方たちを「#つぎはトップリーグだ(仮)」に連れて来ることができれば、トップリーグへの興味関心が醸成されて、ラグビー熱が来年の開幕まで持つのではと思っています。

 

選手発信以外にも、Twitterの施策が動いています。僕の所属するNTTコミュニケーションズ シャイニングアークスの公式Twitterは、トップリーグに言及しているツイートにリプライを送っているんですよ。「トップリーグっていつやっているの?」「チケットはどこで買えるの?」「ラグビー用語の意味は?」などといった内容に回答しています。せっかく興味をもって調べようとしてくれているのに、情報がないでは話にならないですもんね。

 

トップリーグ公式Twitterの中の人も、ラグビーW杯開幕の少し前に変わりました。それまでとつぶやく内容がガラッと変わったんです。アカウントのホーム画面から遡ると一目瞭然なほどにテイストが異なっていて。W杯の裏側に言及したり、日常で使えるラグビー用語とかいうおもしろネタを仕込んでみたり。日本代表選手のトップリーグ所属チーム一覧画像も作成してつぶやいているので、ぜひ見てみてください(笑)。

 

ラグビーには外からの刺激がもっと必要

今回、ラグビーの在りたい未来像について参加者同士の対話を通じて検討するトークセッション「ノーサイドダイアログ」に参加しスポーツビジネスに携わる方々と話す中で、ラグビーの未来を考えるにはビジョンを定めたり、スポンサーについてくれる企業にとっての魅力を考えたりと今よりも広い視野を持たねばならないと感じました。

 

ここで得られた考えや意見が、僕自身が今まで考えていたこととは全く違っていたので「そんな発想もあるのか!」というのが率直な感想です。今のラグビー界は運営サイドにもラグビー出身者が多くて、僕も含め考え方や発想が似ているんですよね。Bリーグのとあるチームでは運営メンバーを積極的に外部から招いたと聞きました。ラグビー界も外からの刺激をもっと受けるべきだと感じましたね。

 

丸の内KOMINKANで、スポーツビジネスパーソンとラグビー選手が語り合った
(イベントレポートはこちら)

 

特に今話題にのぼっているプロ化構想にあたっては、外部の方の力添えが間違いなく必要だと思います。現在、トップリーグに所属する各チームは、会社の福利厚生のひとつという位置づけ。ですから、スポーツビジネスのノウハウを持っていないんです。もしプロ化して会社からチームを独立させることになったら、チーム単体で収益力を高める施策を打ちつつ、親会社からうまく資金援助を受けられるようにマネジメントできる人材を、外部から全チーム分引っ張ってくる必要があります。

 

プロ化する上での課題は、スポーツビジネスに関するノウハウ不足だけではありません。例えば、選手にとってラグビー選手と会社員の2足の草鞋を履けることは、セカンドキャリア問題への懸念払拭につながっているため「プロ化するなら引退して会社員になる」という選手も出てくるでしょう。

 

また、プロ化するとチームにおける外国人選手の人数制限も緩和されます。そのため海外からスター選手がたくさん来た場合の日本人選手の扱いにも気をつける必要があるんです。海外選手が試合にバンバン出るようになると、日本人選手の出場機会が減りますよね。そうすると選手は育たないし、そもそも選手になろうと思う日本人が減るかもしれない。ラグビーにおける国力が低下して、W杯の結果がボロボロになってしまう可能性があるんです。実は、フランス代表が前回のラグビーW杯で悲惨な結果になってしまった背景が、まさにこれで。

 

その二の舞にならないように、選手会でアンケートを実施して、選手たちの「こうしてほしい」「こうなるのは嫌」という声を協会に提出しています。協会の目指す方向と、選手の目指す方向がうまく融和するポイントを見つけたいですね。

トップリーグは、W杯より近い

今回の「ノーサイドダイアログ」では、お金の動きやビジョンなど大きいところまでスポーツビジネスとして成長するには考えることが重要だと気づかされました。ただその一方で、いち選手にできることには限りがあると感じたのも事実です。僕らは僕らでできることを、直近のトップリーグで皆さんにお見せしたい。

 

選手がトップリーグを盛り上げるためにやっていることに「ファンサービス」があります。試合後に選手全員がバックスタンド側からぐるっと周ってファンの方とハイタッチをするんです。さっきまで目の前で熱戦を繰り広げていた選手が、にこにこ笑っている姿を見られて、しかも触れられると。「この近さはラグビー特有のものだ」とJリーグの方に言っていただいたので、もうやめられませんね(笑)。

 

もちろん、人気の偏りが出てしまうだろうとか、選手の負担が増えるのではという懸念もあります。現在はレギュレーションを検討中ですが、選手の「ファンの方に喜んでもらいたい」との想いから始まった取り組みですし、選手も好きでやっていることではあるので、距離感は変えず近いままでいきたいと思っています。

 

トップリーグはW杯よりもずっと近い距離でラグビーを見ることのできる場です。秩父宮なんて、本当に近いんです。かっこいい姿、血肉おどる祭典をぜひ間近で見てもらいたい。楽しんでもらえるよう、選手一同準備してお待ちしています!