引退会見を行なったT・アルスラン。今後は広島の強化部で新たなキャリアを刻む。写真:寺田弘幸

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 Jリーグにも大きなインパクトを残した本物の実力者が、ユニホームを脱ぐことを決めた。今シーズンをもって現役引退を決意した広島のトルガイ・アルスランが6月3日、引退会見を行なった。

 ドイツで生まれ、ボルシア・ドルトムントの下部組織で育ってプロサッカー選手になったMFは、両親のルーツがあるトルコで長く活躍してチャンピオンズリーグにも出場し、ウディネーゼで3シーズン、プレーしてカルチョの国でも力を存分に示した。

 豊かな創造力と卓越した技術を兼ね備え、どんな重圧もはねのける強いメンタリティを培い、ヨーロッパで13シーズンにわたって活躍すると、オーストラリアへ渡ってメルボルン・シティで1シーズンを過ごした後、24年夏に広島のユニホームに袖を通して、Jリーグにもその名を刻んだ。

 広島の選手としてプレーしたのは50試合で、決めたゴールは13。決して多くはないが、T・アルスランは記録よりも記憶に強く残る選手だった。Eピースが開場した24年シーズンの夏に加入してすぐにファン・サポーターが愛したのも、勝利のために戦う姿に魅了されたからだった。
 
 その輝かしいキャリアに幕を閉じるT・アルスランは、晴れやかな表情で語った。

「本当にこれでいいのか自問自答しましたけど、クラブもしっかりとサポートしてくれ、家族、友人、チームメイトのサポートもあって、今は本当にすがすがしい気分です。最終的には自分の感覚に正直にいることと、クラブにとっても自分にとっても一番良い選択肢は何かを考えて、この決断をしました」

 そして、「自分にとって特別なクラブであるサンフレッチェで引退できることは、すごく大きな意味を持ちます」と語り、その特別な理由を語った。

「良い時も悪い時もいろんな時期を過ごしましたけれど、特に怪我をしてしまった悪い時期に、本当にここには大切な人々が周りにいてくれるんだと実感しました。多くの方が私に愛を与えてくれたことが、自分の中では心に残っています。

 ここに来たことの後悔はまったくしていませんし、逆にもっと早くこのクラブに出会えていればな、もっと早くここに来れれば良かったな、という思いもあります」

 喜びだけでなく、辛いことも分かち合うことで愛は深まった。だからこそ紫のユニホームを着て、プレーできる時間が2年しかなかったことへの切なさも募るが、T・アルスランと広島の関係はこれからも続いていく。
 
 広島でまだ何も成し遂げていない。何か違う役割でもいいのでクラブに残りたい。T・アルスランは素直に思いを打ち明けてクラブと話し合いを重ね、今後は強化部の国際部のスタッフとして働くことが決まった。

「これまでの経験やコネクションを活用して、何かができるんじゃないかという思いで提案させてもらいましたし、栗原強化部長と何度も何度も話を重ねていくなかで、彼の仕事に対する姿勢にすごく感銘を受けたので、まず彼から多くのことを学んでいきたい。

 そして、サンフレッチェは選手が引退したら、戻ってきたいと思えるようなクラブだと思うので、もっとそういうクラブにしていきたい。自分にできることもいっぱいあると思うのでクラブと一緒になって探していければなと思っていますし、本当にワクワクしています」
 
 T・アルスランはこれからもサンフレッチェとともに戦い、サンフレッチェの発展をサポートしていく。

 日本に来て、好きになった言葉は? と問われると、『縁』だと言った。

「会長からも社長からも同じ言葉を聞いたんですけど、『縁』という言葉に感銘を受けました。自分の信念にも合うなと思う『縁』という言葉がすごく好きです」

 これまでも縁を大切にしてきたから、T・アルスランはたくさんの人々に愛されるプレーヤーになったのだろうし、広島とT・アルスランが手を取り合って紡いでいく新たなストーリーが楽しみでならない。

取材・文●寺田弘幸

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