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大事な場面で、なぜか安易な選択をしてしまう。午前中なら冷静に考えられたことが、午後になると「もうこれでいいか」と雑になる――。そんな経験はないだろうか。実は、判断を誤る人と冴えている人の違いは、能力だけではなく「決める時間」にあるかもしれない。1万人以上の患者を診てきた医師が、医学的根拠に基づいて執筆した『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて』から、一部を抜粋・編集しそのヒントを紹介する。

脳は「楽なほう」へ流れてしまう

 決定や判断を繰り返すうちに、考える負担が積み重なり、疲労感やこれ以上深く考えたくないという感覚が強くなっていく。その結果、脳は、これ以上考える力を使うよりも、負担の少ないやり方に切り替えたいと感じやすくなる。

 こうした状態では、選択肢を丁寧に検討するよりも、慣れたやり方や簡単な選択へと流れやすい(*1)。

 この傾向は、実際の意思決定の現場でも観察されている。たとえばイスラエルの仮釈放審査を分析した研究では、判断が1日の時間帯や休憩の前後で変動し、休憩直後に有利な判断が増え、時間が経つにつれて減るというパターンが報告されている(*2)。

 これは観察研究であり、因果関係を断定することはできないが、時間の経過とともに、慎重に検討するよりも現状維持つまり棄却に偏りやすくなる可能性を示す結果として解釈されている。

 医療の現場でも、時間帯によって判断が変わりうることが報告されている。ある外来のデータでは、午前から午後にかけて急性呼吸器感染症に対する抗菌薬の処方率が上昇していた(*3)。診断の内訳が大きく変わらない中でも、時間が進むほど処方が増えていたという。

 これも観察研究であり、診療時間の遅れや患者の期待など複数の要因が絡みうるが、診療が続くにつれて、ガイドラインどおりに丁寧に説明するよりも、とりあえず薬を出して終える選択に傾きやすくなる一例として捉えられる。

 つまり、判断を続けるほど、脳は徐々に楽なほうへと傾きやすい。その背景を説明する枠組みの1つが、見返りと労力の見積もりである(*4)。

 脳は、ある行動の見返りと労力を同時に評価し、差が大きいほど、やる価値があると判断して制御を強め、集中を維持しようとする。逆に差が小さくなると、ここまでで十分だと判断して、力を抜く方向へ切り替えやすくなる。

 職場の意思決定でも同様に、睡眠が取れているときや休憩直後は、同じ仕事でも、続ける価値を高めに見積もりやすい。逆に、睡眠不足や疲労が溜まると、努力にかかるコストが大きく感じられ、結果として、ここまででいいと感じやすくなる(*5・6)。

 したがって、重要で複雑な判断ほど、頭が冴えやすい時間帯や休憩直後にまわすのがよい。

注釈
1. Kool W, McGuire JT, Rosen ZB, Botvinick MM. Decision making and the avoidance of cognitive demand. J Exp Psychol Gen. 2010;139(4):665-82.
2. Danziger S, Levav J, Avnaim-Pesso L. Extraneous factors in judicial decisions. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Apr 26;108(17):6889-92.
3. Linder JA, Doctor JN, Friedberg MW, Reyes Nieva H, Birks C, Meeker D, et al. Time of day and the decision to prescribe antibiotics. JAMA Intern Med. 2014 Dec 1;174(12):2029-31.
4. Shenhav A, Botvinick MM, Cohen JD. The expected value of control: an integrative theory of anterior cingulate cortex function. Neuron. 2013 Jul;79(2):217-40.
5. Libedinsky C, Massar SAA, Ling A, Chee W, Huettel SA, Chee MWL. Sleep deprivation alters effort discounting but not delay discounting of monetary rewards. Sleep. 2013 Jun 1;36(6):899-904.
6. Albulescu P, Macsinga I, Rusu A, Sulea C, Bodnaru A, Tulbure BT. “Give me a break!” A systematic review and meta-analysis on the efficacy of micro-breaks for increasing well-being and performance. PLoS One. 2022 Aug 31;17(8):e0272460.

(本稿は『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて』から一部抜粋・編集したものです。)