『時すでにおスシ!?』“みなと”永作博美が見つけた原点 “おいしい”がつなぐ未来へ
『時すでにおスシ!?』(TBS系)第9話の重要なキーワードは「未来」。鮨アカデミーの生徒たちは、約3カ月にわたる授業の集大成である“カウンター試験”に臨む。実際にお客さんを招き、鮨を振る舞う実演形式の試験だ。それは、みなと(永作博美)と大江戸(松山ケンイチ)にとって「前向きな未定」から「未定」が取れる大きなきっかけとなった。
参考:『時すでにおスシ!?』脚本・兵藤るりが明かす制作秘話 「本当に全部が挑戦だった」
カウンター試験に向け、念願だったマグロの握りを練習し始める一同。そんな中、森(山時聡真)の体調に異変が。お腹の調子が優れないにもかかわらず、休養よりも授業を優先しようとする森を大江戸はいつになく厳しく一喝する。これから人に食品を提供しようとする者が衛生を怠ってはならないからだ。
みなとたちはこれまで鮨を握る技術を学んできたが、ここからは提供の仕方も大事になってくる。衛生管理はもちろんのこと、お客さんに五感を使って楽しんでもらうための会話、所作や立ち振る舞いなどを大江戸から教わりながら、みなとたちはカウンターに立った時のシミュレーションを重ねた。
大江戸はみなとたちに「鮨職人は握るだけではなく、人に真正面から向き合う仕事でもある」と語りかける。鮨職人になれば、1日に多数の鮨を握り、多数の人と言葉を交わすことになるが、そのうちの1貫が、そのうちの一言がお客さんにとって忘れられないものになるかもしれないことを忘れてはならない。逆もまた然り。胡桃(ファーストサマーウイカ)から印象に残っているお客さんを聞かれた大江戸は「この話は長くなるのでまた今度」と言い淀んだ。
そんな大江戸の様子が気になりつつも、迎えたカウンター試験当日。みなとは営業終了間際に飛び込んできた男性の鮨を握ることに。その人こそ、大江戸が忘れられない客・西川太陽(丸山隆平)だった。
大江戸がかつて営業していた鮨屋に、独立前からの知り合い以外で初めて客として訪れた西山。製薬開発者で、その日は新人の頃から携わっていた薬が10年越しに承認された日だった。そんな記念すべき日に大江戸が振る舞ってくれたマグロの握りが感動的に美味しく、西川は長年の苦労が報われた気がしたのだろう。以来、常連客となり、大江戸とは何度も人生の重要なタイミングが重なったこともあって、自然と近況を報告し合う仲になっていったようだ。その西川が、「おいしいとは未来」という大江戸に大きな影響を与える言葉を残した。
「おいしいと感じると、また食べたいと思う。大切な人にこのおいしいを教えたいと思う。いつか一緒に行って、このおいしいを共有したいと思う。おいしいって未来を考えることなんだなと大江戸さんのお店に来て知りました」
生きるとは食べることであり、食事が人を未来へと運んでくれる。おいしいものを食べたら、それだけで活力が湧いてくる。死のうとしていた人がおいしいものを食べて、生きようと思い直すことだってあるかもしれない。だから、大江戸はカウンターからお客さんに渡す料理、言葉の一つひとつに責任を持つようにと生徒たちに強く言い聞かせるのだろう。その一方で、大江戸の店がなくなってしまったことで、妻や子どもを連れていくという西山の未来は叶わなくなってしまった。でも、西山はその未来を諦めたわけではない。帰り際、西山は「いつか家族で大江戸さんの鮨、食べに行きたいと思ってます。今でも」と大江戸に告げる。
おそらくこれまでの大江戸は従業員へのパワハラ疑惑で、自分の店をしめざるを得なくなり、たくさんの人に迷惑や心配をかけてしまったことへの罪悪感でいっぱいだったのではないだろうか。だが、誰も大江戸のことを責めてなどいなかった。魚を仕入れていた市場のおやじさん(小手伸也)のようにずっと大江戸のことを気にかけてくれている人もいれば、西山のように大江戸が再び握る鮨を心待ちにしてくれている人もいる。
そのことを知った瞬間、大江戸の胸に熱いものが込み上げてくるとともに、進みたい未来が見えた。それは再び店に立ち、鮨を通してお客さんと向き合う未来であり、ひいては鮨アカデミーの講師を辞めることを意味する。葛藤する大江戸に、みなとは鮨アカデミーに通うことを決めたときと同じ場所で、大江戸がくれたのと同じ言葉を返した。「その手で続けていれば、いつか自分のために始めたことが、誰かのために繋がることもあるかもしれない」と。
そんなみなともまた、自分のやりたいことが漠然と見えてきたようだ。実はパート先であるスーパーの店長から、鮨コーナーを充実させた新店舗の店長をやらないかと打診されていたみなと。パート先には渚との暮らしを支えてくれた恩義もあるし、店長昇進の話を受ければ、鮨アカデミーでの学びも活かせる。しかし、みなとはカウンター試験にて渚(中沢元紀)が独立して以来、初めて人に料理を振る舞ったことで、気づいたのではないだろうか。誰かに自分の料理をおいしいと言ってもらえること、それが自分の喜びであり、原点であることに。そしてそのおいしいは渚を育てたり、試験に客として招いた沼田(平井まさあき)や崎田(杏花)に自分も頑張ろうという気持ちにさせたりしてきた。人を未来へと運ぶおいしいを届ける。その点において、みなとと大江戸の進むべき未来は共通しているのではないだろうか。
「もう少しここに一緒にいてくれませんか」という大江戸の言葉を受け、一緒に高台の公園から街を眺めるみなと。2人が「前向きな未定」から「未定」が取れ、ただの「前向き」になった瞬間だ。次週はついに最終回。みなとと大江戸の関係の行方も気になるが、なによりもこのドラマのタイトルが提示する「何かを始めるのに遅すぎるということはあるのか?」という問いの答えを見届けたい。(文=苫とり子)
