●笑いの大きいポイントを押さえるため「常に怒号」
生放送の漫才賞レースで、笑いの瞬間を逃さないために何が行われているのか――。結成16年以上の漫才師たちがしのぎを削る『アサヒ ゴールド presents THE SECOND〜漫才トーナメント〜2026』(グランプリファイナル:フジテレビ系、16日18:30〜 ※一部地域除く)で今年から総合演出を務める角山僚祐氏が語るのは、第1回大会から受け継がれる「漫才師ファースト」の哲学だ。

「漫才中は漫才しか見せない」という演出の裏には、芸人とお笑いファンを裏切らないための緊張感があった――。

『THE SECOND〜漫才トーナメント〜2026』総合演出の角山僚祐氏

○「総合演出が代わって“つまらなくなった”と言われるのは…」

『THE SECOND』の立ち上げから総合演出を務めてきた日置祐貴氏がフジテレビを退社したことを受け、今回からその役を引き継いだ角山氏。自身も第1回から演出として参加し、「日置さんとずっと二人三脚でやってきました」ものの、お笑いファンの間では「『THE SECOND』はどうなるんだろう…」と大きな変化を警戒する声もある。

そうした反応を受け止めながら、角山氏は「総合演出が代わって“つまらなくなった”、“盛り上がらなくなった”と言われるのは、来年、再来年もやっていく上で一番避けたい」と、プレッシャーを率直に明かす。

日置氏は今年も番組に携わっており、「一緒にやっていく中で、審査員の選び方やお笑いマニアとしての目線など、改めて勉強になるところは大変多いです」と助言を受けながら、ここまで大会運営を進めてきた。

漫才賞レースの象徴的存在である『M-1グランプリ』が結成15年以内という条件を設けていることを踏まえ、キャリアを重ねてから花開く漫才師たちに新たなスポットライトを当てようとスタートした『THE SECOND』。これまでの3大会を通じて、「世に出ていないけど面白い漫才師の皆さんが、こんなにいるんだということは、伝わってきたと思います」と、果たしてきた役割への手応えを語る。

○初回から形式が確立された背景にあるフジのノウハウ

様々なお笑い賞レースが立ち上げ時から審査方法やファイナリストの人数など形を変えながら回を重ねる中で、『THE SECOND』は第1回から大枠のフォーマットを変えずに、今年もグランプリファイナルを迎える。

初回から形式が確立された背景には、『爆笑ヒットパレード』『THE MANZAI』『ENGEIグランドスラム』など、数々のネタ番組を放送してきたフジテレビの蓄積がある。角山氏は「技術さん、美術さんもそこで育っている人が多いので、ノウハウが十分あったのだと思います」と分析。

その具体例として挙げるのが、美術チームの力だ。昨年、フジテレビを巡る一連の騒動のため制作費が削減され、第1回、第2回と比べてスタジオセットがスケールダウンしたが、世間の反応を見る限り、「しょぼくなった」「安っぽくなった」という声は意外なほどなかった。限られた条件の中で見劣りしないセットを作る美術チームに、角山氏は「脱帽です」と語る。

技術チームにも「本当にミスが少ない」と信頼を寄せる。スイッチングのタイミングでテロップが遅れるような基本的なミスもなく、漫才中も顔が面白い時は寄りのカメラに切り替えるなど、あうんの呼吸で生放送が進行される。

漫才中は基本的に全身2ショット、バストショット、ナメの画があれば成立するが、動きの多い漫才や、舞台の地面を使うネタの場合は、事前に何度も選考会やノックアウトステージの映像を見直し、技術チームと共有。

出囃子が流れる登場時にハンディカメラが漫才師に一気に寄り、即時に引いていく動きは、ハードなカメラワークになるため、「転んでしまったら大変なので、ニューテレス(技術会社)の若手の登竜門になっているそうです(笑)」とのことだ。

そんな中で、角山氏には今も悔やんでいる場面がある。第1回大会で、タイムマシーン3号がセットの一部にあったプロペラのようなものを突然イジった際、カメラワークが一瞬遅れてしまったのだ。

その経験もあり、生放送中は笑いの大きいポイントでスイッチングを切り替えられるよう、「常にスイッチャーさんと怒号を飛び交わしています」と、緊張感を持って臨んでいる。

角山氏は『芸能人が本気で考えた! ドッキリGP』や『何か“オモシロいコト”ないの?』など、芸人の瞬発力や人間味を引き出す番組にも携わってきた。その経験は『THE SECOND』にも生きているという。

特に『ドッキリGP』の現場は、ミスをしたら取り返しがつかないという点で生放送に近い。「絶対にドッキリとバレてはいけない、ドッキリ自体の仕掛けも百発百中で成功するようにしないといけない…そこまで持っていくための段取り力、何度も繰り返すシミュレーション、想定外のトラブル対策など、何が何でも成功させるという『ドッキリGP』の仕事環境は、長時間生放送の進行に大いに生かされていると思います」と捉えている。





第1試合:金属バットvsヤング

●昨年より30分長い放送時間への対応は




第2試合:タモンズvs黒帯

これまでフジテレビの代表的なネタ番組に携わってきた角山氏だが、ネタ番組と賞レースでは意識が大きく異なる。ネタ番組は漫才やコントの並べ方、数多あるネタから何を選ぶかというセンスが問われる一方、賞レースは「いかに大会を盛り上げていくかというシステムとルール作り」に重きが置かれる。

中でも『THE SECOND』は、観客審査という市井の人々に勝敗の大きな部分を委ねる賞レース。そのため、「その人たちから嫌われない、不快に思われない、疲れさせない環境作り」を強く意識しているという。

クライマックスの決勝戦において、疲れで笑いが削がれてしまうのは避けなければならない。特に今年は放送時間が昨年より30分長くなる。観客は前説を含めると5時間以上スタジオで座ることになるため、CM中に立ったり伸びをしたり、トイレに行ってもらったりできるようにするのは例年同様だが、今年はパイプ椅子で背もたれを設け、少しでも疲労感を軽減させる。

ちなみに18時30分からの冒頭30分では、各ファイナリストがノックアウトステージでどのように勝ち上がってきたのか、そのプロセスを厚く扱う予定。ただ、この時間帯をネットする局は半数程度で、実質的に大会がスタートするのは全国ネット放送が開始される19時であることから、テンポ感や段取りは例年と大きく変えない方針だ。





第3試合:シャンプーハットvsリニア

○必然的に決まった漫才中のカット割り

賞レースのネタ中の場面で毎回議論になるのが、審査員を映すカットが入る頻度。SNSでは、ネタを披露する芸人を見続けたいという声が上がり、最近でも他局の特番でザ・ドリフターズの名コントを見るスタジオ出演者のカットが不要だという指摘が相次いだ。

視聴者への“ガイド”としての役割を担う演出手法だが、『THE SECOND』では第1回大会から「漫才中は漫才しか見せない」ことを徹底している。審査員が芸能人ではなく一般募集で顔を映せないことに加え、「スイッチングの間にネタの大事な部分や笑いどころが起きてしまう可能性があり、生放送である以上、ネタの展開を完全に読むことは難しい」という理由からだ。前述のタイムマシーン3号のプロペラの件は、まさにその事例と言える。

お笑いに詳しくない視聴者にとっては、東野幸治や有田哲平、博多華丸・大吉、さらにはスーパーオーディエンスの著名人たちが笑っている顔が映ることで安心して見られる面もあるかもしれない。

それでも角山氏は「番組にはお笑い愛の強いスタッフが集まっているので、ここは芸人さんファーストという観点からすると、必然的にそうしたカット割りになりました」と話す。

一方で、大会を長く続けるためには、お笑いファンだけに向けた番組であり続けるわけにもいかない。第1回、第2回でお笑いファンには認知してもらうフェーズを経て、前年の第3回からは裾野を広げるべく、前述のスーパーオーディエンスを導入し、今年は猪狩蒼弥、鳥谷敬、花澤香菜、松村沙友理の4人が担当。様々なジャンル、世代の人たちに“広報担当”の役割を担ってもらうことで、お笑いに強い関心がない人でも、「この人が出ているなら見ようかな」「あの人が応援しているなら見ようかな」という入口が生まれる。

さらに今年は、SNS用のプロモーション映像も制作。若い世代を中心に支持を受けるYOASOBIがカバーしたRADWIMPSの名曲「会心の一撃」に乗せ、これまでの選考会やノックアウトステージの戦いぶりと漫才師たちの悲喜こもごもを描いた4分のショートムービーとなっており、コアなファンを裏切らず、同時に間口を広げる施策に取り組んでいる。





第4試合:ザ・パンチvsトット

●制作チーム全員の共通意識「嫌な思いをしないかな」
角山氏は『THE SECOND』について、「芸人愛、お笑い界への愛みたいなものが根底に流れている番組」と語る。構成を考える時も、「これって出場者の方々はどう思うんだろう」「お笑いファンの方々は嫌な思いをしないかな」という意識を、制作チーム全員が共有しているという。

近年、テレビ各局でお笑いの賞レースが次々に生まれているが、『THE SECOND』の存在意義は、賞レースで優勝したことがない芸歴16年以上のプロ漫才師という出場資格そのものにある。角山氏は、ある意味で「一生参加できる大会」と表現し、「選考会からずっと見ていると、まだこんなにも日の目を浴びていない面白い漫才師がいるのかとビックリします」と驚きがあるという。

そんな大会に、「携われる限りやり続けたいと思っています」という角山氏。その言葉には、単なる賞レースの演出を超えた、漫才師たちへの敬意と、大会を未来へつなげる覚悟がにじんでいた。





●角山僚祐1985年生まれ、大阪府出身。09年に京都大学卒業後、フジテレビジョン入社。『爆笑レッドカーペット』『爆笑レッドシアター』などバラエティ番組のADを経て、『THE CONTE』『THE MANZAI』『爆笑ヒットパレード』などの総合演出を担当。現在は『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』『何か“オモシロいコト”ないの?』などを担当し、今年から『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』の総合演出を務める。