「AIですぐ終わりました」とドヤ顔の新入社員がまったく使い物にならない...AI時代の「不都合な真実」

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新人はAI使用禁止

生成AIが当たり前のツールになりつつある今、そんな逆行とも見える判断をする企業が出てきている。

きっかけは、あるIT企業で起きた出来事だった。配属されたばかりの新人がAIを使って開発を進め、「1週間で完成しました」と報告。しかし中身を確認すると、そこには800件以上のエラーが積み上がっていた。

本人はAIが書いたコードをほとんど理解しておらず、どこを直せばいいのかも分からなかったという。

いま、若手の仕事はAIで驚くほど速くなった。資料の要約も、無難なメール文面も、すぐにそれらしい形になる。だが、仕事が早く終わることと、その人がビジネスパーソンとして育つことは同じではない。

見栄えのいい成果物が増える一方で、試行錯誤する機会は失われていく。では、AI時代に人が育つ職場には、何が必要なのか?

MBAと医学博士号を持ち、東京成徳大学経営学部で次世代リーダー育成にも携わる、行動神経科学の専門家・板生研一氏に聞いた。

「仕事が速い新人」ほど育たないワケ

職場でAIの話題になると、「若手に自由に使わせるべきか、それとも基礎力をつけるために禁止すべきか」という極端な二択の議論になる。しかし、本質はそこではない。

例えば、AIを使って短時間で完璧な体裁の企画書をまとめた新人がいたとする。上司に進捗を聞かれ、「AIですぐ終わりました!」と自信たっぷりに返す。アウトプットの見た目は立派だ。しかし、企画書が完成するまでの間に、本人はどれだけ頭に汗をかいたのか。

膨大な情報の中から重要なポイントを掴み、相手の知りたいことを想像し、何を削るか本気で悩む。そうした泥臭いプロセスを経ずに、ただAIの出した答えをコピペしてフォントを整えただけなら、本人の力にはまったく身についていないのです」(板生氏、以下同)

それなのに、今の職場では「スピード」が何より評価される。

何日も悩み、何度も考え直した人よりも、AIを使って短時間で形にした人のほうが「仕事が速い」と褒められる。そうした評価基準が当たり前になれば、若手が自分で頭を使う前に、AIへ丸投げするようになるのも無理はない。

人が本当に育つためには、すぐに答えが出ない空白の時間が必要です。どうすればいいか迷ったり、とりあえず試してみたり、失敗してゼロからやり直したりする。そうした回り道のなかで、自分なりの考え方や仕事の『型』が、少しずつ身についていきます

この「すぐに答えが出ない状態に耐える力」は、創造性とも深く関係しているとか。

パリの研究チームによる研究(Creativity and Tolerance of Ambiguity: An Empirical Study)では、曖昧さへの耐性が高い人ほど、拡散的思考などの創造的パフォーマンスが高いことが明らかになっています

つまり、正解が見えない状況にとどまり続けられる人ほど、新しい発想や自分なりの解を生み出しやすいということだ。

ですが、最初から正解らしきものがすぐに出てくる環境では、その過程を飛ばして仕事が終わってしまいます。人の成長を支えるのは、正解を出した量ではなく、試行錯誤の量です。人はうまくいった成功体験だけで育つのではありません。うまくいかなかった経験をどう受け止め、どう処理したかによって育っていくものなのです

AIが奪う、若手の“ある力”

AIが人間の仕事を奪うと言われるとき、多くの人は「ゼロからイチを生み出すような大層な創造性」を想像する。だが、日々の職場で実際に削り取られているのは、もっと手前にある日々のちょっとした工夫だ。

例えば、気難しい取引先へのメール一通をとってもそうだ。「この担当者さんは前回こういう点を気にしていたから、言い回しを少し柔らかくしよう」「結論を急ぐと反発されそうだから、先に背景から丁寧に説明しよう」。仕事はこうした小さな判断の積み重ねで前に進んでいく。

しかし生成AIは、最初から「70〜80点の誰に出しても怒られない無難な答え」を瞬時に返してくる。大崩れしないぶん、自分で赤字を入れて直す余地が極端に減る。結果として、若手は「考えなくてもなんとかなる」という状態に慣れきってしまう。これは仕事の感覚や手触りを磨く機会を奪っているのと同じだ。

ビジネスの現場で毎日求められるのは、画期的なアイデアではなく、『リトルC(小さな創造性)』です。自分なりに問いを立てて、少しだけ表現を変えたり、手順を改善したりする。その積み重ねが、仕事へのやりがいや当事者意識につながっていきます。

最初からAIに答えを出させると、この小さな創造性を発揮する出番がなくなってしまいます。つまり、若手が伸びないのはAIというツールのせいではなく、“自分で考える余地が残されていない職場”の問題でもあるのです

AI時代に消える人、残る人の決定的な差

だからといって、AIを使うなという話ではない。同じAIツールを与えられていても、数年後に圧倒的な差がつくのは「使う順番」だ。

何も考えずにプロンプトの画面に向かい「〇〇について教えて」と丸投げする人がいる。一方で、先に「自分はこう思うが、抜け漏れはないだろうか」という自分の仮説や論点を作ってから、AIを優秀な壁打ち相手として使う人もいる。

両者の数年後には残酷なほどの差が開く。前者はただAIから答えを受け取ってコピペするだけの作業員になり、後者はAIから足りない視点を引き出してプロジェクトを動かす指揮官に育つ。

成長につながるのは、AIから『答えをもらう』のではなく、AIと『思考を深める』使い方です。自分の中に仮説がある人ほどAIをうまく使えます。全部をAIに渡してしまうと自分の頭を通らないので、考えが定着しません。AIは思考の代わりではなく、思考を広げるために使うべきです

AIでラクな職場ほど、社員が不幸になる?

AIの導入でたしかに残業は減った。だが現場からは「仕事の意味や達成感がなくなった」「効率化されたのに毎日がつまらない」という声が出始めている。

自分で試行錯誤して壁を乗り越え、プロジェクトを進めたという実感がなければ、人はやりがいを保てない。AIが作った完璧な文章を読み、問題がなければ承認ボタンを押すだけの仕事なら、自分がそこにいる意味はない。効率化が、必ずしも働く人の幸せにつながるとは限らないのだ。

まず自分で考える。次にAIを使って広げる。最後に人間が検証する。若手育成で本当に必要なのはAIを禁止することではなく、この『育つ順番』を守ることです。ただ数値を追って効率化するのではなく、人が考える余白を意図的に残す組織設計が求められています

とはいえ、現場の若手やマネージャーの個人の意識だけでこの理想的な使い方を徹底するのは難しい。全社的なルールや目的がなければ、AIはたちまち手抜きの温床や重大な品質事故につながる。

では、企業は生成AIをどう導入し、どんなルールを作るべきなのか。

後編記事『「AIを導入すれば勝てる」と盲信する50代経営陣の悲劇…現場を凍りつかせた“大きな誤解”と、独り勝ちする企業の「意外すぎる共通点」』では、2500社以上の導入支援を行ってきた企業の代表に、「AIを入れただけで終わる企業」と「最後に勝つ企業」の決定的な違いを聞いていく。

【つづきを読む】「AIを導入すれば勝てる」と盲信する50代経営陣の悲劇…現場を凍りつかせた”大きな誤解”と、独り勝ちする企業の「意外すぎる共通点」