「コロナ禍の葬儀で出くわした滑稽で不条理な出来事をもとに」香港コメディ映画の「新旧2大巨匠」が共演し大ヒットを記録した『旅立ちのラストダンス』はこうして生まれた
香港映画界を代表する2人の喜劇俳優、ダヨ・ウォン(『毒舌弁護人〜正義への戦い〜』)とマイケル・ホイ(「Mr.Boo! ミスター・ブー」シリーズ)が32年ぶりに共演。香港映画興収歴代1位となる大ヒットを記録し、香港電影金像奨で5部門受賞、米アカデミー賞国際長編映画賞の香港代表にも選出された話題作の公開を前に、同作のアンセルム・チャン監督にリム・カーワイ氏がインタビューした。
【画像】香港コメディ映画の「新旧2大巨匠」が共演し大ヒットを記録した『旅立ちのラストダンス』の場面写真をすべて見る

アンセルム・チャン監督(左)
『旅立ちのラストダンス』あらすじ
ウエディングプランナーのトウサン(ダヨ・ウォン)は、コロナ禍で多額の負債を抱え、葬儀業者への転身を余儀なくされる。しかし結婚式と葬式は大きく違い、様々な困難に直面する。最大の難関は、共に葬儀を取り仕切る「葬儀道士」であるマン師匠(マイケル・ホイ)に認められること。利益の追求が第一のトウサンと、伝統を重んじるマン師匠は、考え方の違いから絶えず衝突し、二人の関係は最悪に。だがマン師匠一家と関わるうちにトウサンのわだかまりは徐々に消え、葬儀で行う儀式「破地獄」の真の意味に気づいていくのだった。
コロナ禍で祖母や親戚を多く失って
リム・カーワイ(以下、リム) コロナ禍のときにこの映画を構想したと聞きましたが、なぜこの題材を選びましたか?
アンセルム・チャン(以下、チャン) コロナ禍で祖母が亡くなりました。その期間中、家族や親戚も多く失いました。たくさんの葬式や、さまざまな形式の葬儀に参列しているうちに、生と死について深く考えるようになりました。
私たちは人間としてこの世に生まれて、いったいどんな目的や責任を持つべきなのか。生まれた時からカウントダウンが始まり、死ぬことでようやくそのサイクルが終わります。しかし一方で、我々と周りの人との関係や感情は、終わりに向かうのではなく、むしろ毎分毎秒少しずつ深まっていきます。
この矛盾は本当に驚くべきことだと思います。人と人との関係や感情が増していく一方で、それに応えようとした時には、すでに終わりに近づいており、別れなければならなくなる。そう考えているうちに、生死をめぐる映画を書きたくなりました。
リム 原題『破・地獄』は道教の葬儀儀式ですが、なぜこのタイトルをつけましたか?
チャン 毎回参列した葬式、あるいは自分の親戚の葬式を行う時には、必ず「破地獄」というセレモニーが行われます。これは香港独自の風俗で、香港人なら誰でも知っています。
この「地獄」が指すのは、果たして死後の世界だけなのでしょうか。あるいは、死ななくても、私たちは日々地獄のような生活を送っているとも言えるのではないか。そうした疑問を映画に取り入れることで、自分の死生観や命に対する思いを反映できると思い、このタイトルを付けました。
コメディ映画の新旧2大巨匠に出演依頼
リム テーマと内容はかなりシリアスだと思いますが、喜劇というスタイルで表現されたのはなぜでしょうか?
チャン 生と死をテーマにした映画をそのまま作ると、どうしても暗くて重くなるのではないかと思いました。僕はもともとコメディ映画の脚本家・監督でもあるので、シリアスな題材であっても、もっとリラックスして、笑いながら観られる形にできるはずだと考えていました。
実際にさまざまな葬式に参列する中で、不条理でおかしな出来事に出くわすことも多くありました。そうした滑稽さを表現するためには、喜劇というスタイルが必要ではないかと思います。
リム そのため、香港コメディ映画の新旧2大巨匠、マイケル・ホイとダヨ・ウォンに主演をお願いしたわけですね?
チャン そうですね。この2人が揃って映画に出てくれた以上、観客もこの映画が決して暗い映画ではないと想像できたはずです。
リム 最初から2人に出演を依頼する前提で脚本を書きましたか?
チャン はい。この脚本を書いた時には、すでに2人に当て書きしていました。2人のコラボレーションは実に32年ぶりになります。『マジック・タッチ』(1992年)という映画でマイケル・ホイが監督・脚本・主演、ダヨ・ウォンが脚本・出演を担当しました。もし再び2人を共演させることができたら、観客の期待も膨らむのではないかと思いました。
香港の誰もが知っている新旧世代を代表するコメディのスターが、笑いから遠く離れた生と死をめぐる真面目な映画で共演する。それは作り手である僕にとっても大きな挑戦になります。
優秀なコメディアンの素晴らしい芝居を見せたい
リム 2人が出演依頼を引き受けてくれたのはすごいですね。
チャン 実際には、2人にそんなに簡単に出演依頼できたわけではありません。
自分がコメディ映画出身なので、喜劇俳優の考え方はよくわかります。彼らは観客を十分に笑わせるために、本来持っているシリアスな演技の才能をあえて見せてこなかった部分があります。僕は、優秀なコメディアンが真面目なドラマでも素晴らしい芝居を見せることができると観客に証明したいと思い、この脚本を書きました。2人はその点に共感してくれたのではないかと思います。
リム 2人は脚本を読んで、どんな感想を持ちましたか?
チャン 実は2人とも脚本をかなり気に入ってくれました。変更やリクエストはほとんどありませんでした。
最初、マイケル・ホイは脚本に書かれているキャラクターが本人とかなり違うと言っていました。僕はまさに観客が持っている既存のイメージを打ち破りたかったので、このキャラクターを書いたのだと伝えました。
ダヨ・ウォンの場合は、まずなぜこのテーマの映画を撮りたいのかと聞かれました。彼とは死生観や人生について、かなり深く語り合いました。
基本的に2人とも非常に前向きに出演を考えてくれました。コメディアンにとって、意味のある真面目な役に挑戦する機会は、大きな魅力なのだと思います。
牧師に相談したチュー・パクホン
リム 兄妹を演じたチュー・パクホンとミシェル・ワイも素晴らしかったです。まずチュー・パクホンについて教えてください。
チャン チュー・パクホンは舞台劇の俳優としてとても有名です。僕は長編デビュー作以来、彼に出演を依頼してきましたが、そのたびに新しい可能性に気づかされてきました。今回は彼に当て書きして、このキャラクターを書きました。
彼はキリスト教徒で、今回は道教の道士を演じることになります。そのため、この役を引き受けるかどうか、かなり悩んだそうです。牧師に相談したほどでした。
しばらく彼の返答を待つことになりましたが、最終的にはこのキャラクターを演じることを決めてくれました。そして真剣に「破地獄」の儀式の訓練を始めました。撮影現場でも、本物の道士と思われるほど自然に馴染んでいて、大きな成果だったと思います。
ミシェル・ワイは1年前から儀式を練習
リム ミシェル・ワイについてはいかがですか?
チャン ミシェル・ワイとは長年の友人です。私の監督デビュー作からの主演女優で、一緒にやってきた仲間です。僕の2作目でようやく彼女が認められ、香港電影金像奨でも最優秀女優賞にノミネートされました。(*受賞はせず)
おそらくどんな俳優でも、人に見られたいと思っているのではないでしょうか。そして常にチャンスを待っています。そのチャンスとは、良い脚本と良いキャラクターに出会うことだと思います。その作品でようやく認められたので、これからはもっと難しいキャラクターに挑戦したほうがいいと提案しました。次のステップとして、彼女に当て書きをして、本作を彼女の代表作にしたいと考えました。
リム ミシェル・ワイは本作で見事に香港電影金像奨最優秀女優賞を受賞しましたね。この映画はメインの4人とも当て書きしたことになります。
チャン そうですね。最初に構想を考えた時に、この4人のキャラクターは同時に浮かびました。ただ、最初にお願いしたのはミシェル・ワイです。彼女のためにこのキャラクターを作ったと言っても過言ではないかもしれません。
脚本をまだ一文字も書いていない、構想の段階で、すでに彼女には「破地獄」の儀式の練習を始めてもらっていました。最初は体も思うように動かせませんでしたが、最終的には完璧に儀式を行えるようになるまでのプロセスをこなしました。それは1年以上欠かさず練習を続けた結果です。彼女の努力が報われて、多くの女優賞を獲得できたことに、自分もとても感慨深い思いがあります。
『旅立ちのラストダンス』
監督:アンセルム・チャン/出演:ダヨ・ウォン、マイケル・ホイ、ミシェル・ワイ、チュー・パクホン、キャサリン・チャウ/2024年/香港/140 分/配給:ツイン/©2024 Emperor Film Production Company Limited ALL RIGHTS RESERVED/5月8日(金) TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
(リム・カーワイ/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)
