土石流に襲われた現場(2021年7月3日、静岡県熱海市で)

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 静岡県熱海市で盛り土が崩れ、28人が死亡した2021年の土石流災害で、県や市、県の指針を超える高さの盛り土が判明した10年当時の土地所有者(前所有者)、災害時の土地所有者(現所有者)の4者は、いずれも法的責任を否定している。

 遺族らが県などに損害賠償を求めた訴訟は続いており、法廷での4者の主張や裁判資料などからは、防災対策を押し付け合い、有効な手立てが講じられなかった構図が浮かび上がる。(静岡支局 中島和哉、遠藤美奈)

盛り土

 県が設置した第三者委員会の報告書などによると、前所有者は高級別荘地を開発するとして土地を買い、07年に盛り土の計画書を市に提出した。川の源流にあたる山間部の斜面に土砂が積まれ、10年8月に市が確認したところ、盛り土の高さは約45メートル。県指針の3倍に達していた。産業廃棄物も交じっていた。

 土石流は21年7月3日午前10時半頃に起きた。25メートルプール(幅12メートル、水深1メートル)185個分の5万5500立方メートルの土砂が崩れ、一部は約2キロ先の海まで流れ下った。午前10時までの72時間雨量は市内で461ミリ。観測史上最大だった。

 訴訟では、前所有者と現所有者がそれぞれの主張を展開している。

 前所有者は今年2月に出廷。11年2月に土地を売っており、それ以降は現所有者に管理責任があると強調した。現所有者は訴訟の答弁書で、購入時は盛り土の存在を知らず、前所有者から盛り土の量や工法について説明を受けていなかったと主張。今年3月の尋問では「(崩落は)予想していなかった」と述べた。

お見合い

 行政の対応はどうだったのか。県は07年、1ヘクタール超の土地で無許可開発が行われていると判断。森林法を適用して前所有者に盛り土を中止させた。1年をかけ、森林面積の回復や土砂の流出防止措置も実施させた。

 だが、その後に盛り土は再開された。前所有者は09年11月、盛り土した土地を1・2ヘクタールとする図面を市に提出した。

 これ以降、市は県に、県は市に対応を委ねる姿勢を示し、対策が進まない「お見合い」が起きた。

 市は盛り土の面積が1ヘクタールを超え、森林法の適用要件を満たすと判断。09年12月と10年11月、森林法の再適用を県と協議した。これに対し、県は09年12月、「図面は信ぴょう性に欠ける」として適用しない考えを市に伝達。11年3月にも、市で対応するよう求めた。

 県職員は尋問で、「1ヘクタール超」に合致する明確な根拠がなかったと説明。市に正確な面積を調べるよう求めたが、報告がなかったと主張した。

 原告側の杉田峻介弁護士は「県は面積を確認できなかったのではなく、確認しようとしなかっただけだ」と批判する。

チャンス逃す

 県との協議が不調に終わった後、市は県条例に基づく「措置命令」を検討し始めた。土砂の撤去などを命じることができるものだ。

 前所有者は土地を売却した後も、書類上は盛り土を申請した事業者となっていた。このため市は11年6月、措置命令を出す方針を前所有者に伝えた。

 だが、実際の発出は見送った。前所有者が土砂搬入の中止と防災工事を約束したためだ。県指針に沿って盛り土を低くするよう命じることもなかった。

 原告側の池田直樹弁護士は「土石流を防ぐ最後のチャンスを逃した」と語る。実施された防災工事も「小規模で簡易な工事で十分ではなかった」と批判する。

 土石流は今年で発生から5年。母を亡くした田中彬裕さん(37)は「原因を作った人、被害を防げなかった人に怒りを感じる」と語気を強める。