判定に一喜一憂するが…(写真はイメージ)

写真拡大

 どんなスポーツにも「ルール」はつきもの。私たちに身近な野球も、実に細かいルールがあります。特にプロ野球の場合、「興行」としての要素を重視することから、一般のルールとは別の決まりもあり、日々、進化しています。今ではおなじみの「リクエスト」ですが、新制度に問題点はないのか? ラジオで35年間、プロ野球を実況してきた村上和宏さんが解説します。

【写真特集】平成を彩った、「異色の野球人」たち

プロ野球で用いる「ルール」

 スポーツ競技は「ルール」に沿って競われます。競技にもよりますが、ルールは絶対不可侵なものではなく、時代とともに変更が加えられアップデートされています。

 私たちに馴染みのある競技だと、バレーボールにおける守備に特化したポジション「リベロ」の新設のように、試合進行そのものに影響を与える変更などがわかりやすい例だと思います。

判定に一喜一憂するが…(写真はイメージ)

 私たちの世代は、学校の体育の時間で6人制バレーをする場合、グルグルとポジションを6ローテーションしていました。1998年にリベロが正式ルールとなり、ローテーションに加わらない選手ができたのですが、身長の低い選手にも活躍のチャンスを広げるのが目的だそうです。

 プロ野球でも「野球規則」というルールをもとに、日々の試合が行われています。「野球規則」も毎年見直され、細かい改正が行われています。改正点はNPBのホームページで公開され、誰でも閲覧することが可能です。さらにプロ野球では「野球規則」とは別に、「アグリーメント」という、もう一つのルール的な取り決めが存在します。

 アグリーメントで触れているのは「延長戦は何回まで」、「キャッチャーが1試合でタイムをとれる回数」といった、試合運営に関する事項だけでなく、北海道日本ハムファイターズのホーム球場・エスコンフィールドで、オープン直前になって問題となった「ホームベースからフェンスまでの距離」など。また、クライマックスシリーズ実施にあわせ「クライマックスシリーズの勝者をリーグ優勝とする」規定、試合で使うボール(かつては球団ごとにメーカーを選べたが、現在はミズノ製の統一球)の反発係数など、野球規則顔負けの細かい「ルール」が定められており、野球規則と同様に毎年、見直しが行われ変更されます。

「野球規則」と「アグリーメント」の関係性ですが、プロ・アマ統一で使われる「野球規則」だけでは、「興行」としてのプロ野球の運営に不充分なので、「アグリーメント」でその部分を補う、またはプロ独自の規則を定める――わかりやすく言うとこういうことになると思います。

 アグリーメントに沿って適用されるルールの代表例を挙げると、ピッチャーが投げたボールが、打者の頭部に当たると一発退場になる「頭部死球」、バックホームされるボールをキャッチャーが捕球する際、クロスプレイを防ぐためにランナーの進路を開けなければならない「コリジョン」などがあります。

 実況アナウンサーはこうしたルールの変更点を頭に入れたうえで、春のキャンプではルール変更に合わせた練習が行われるので、実際のプレーを見て具体的にどのようなプレーなのかを確認します。また、変更の影響を受ける選手やコーチに直接取材することも欠かせません。時には判定を下す審判員にも判断基準などについて話をききます。

 新しいルールの導入や変更は、多くの場合、メジャーリーグ(MLB)の変更に合わせて行われる場合がほとんどです。今年のグラウンド上で目立つ変更点は、何といっても1〜3塁ベースの大型化でしょう。今年から一辺が約7.6センチ大きくなったベースは、MLBでは2023年に採用されました。遅れること3年、NPBでも採用されたことになります。

 この他にもMLBアメリカンリーグで1973年から採用されたDH(指名打者)制度はパ・リーグで2年後の1975年から、コリジョンルールもMLBが2014年、NPBは2016年というように、だいたいMLBでの導入から2〜3年後にNPBでも導入されるという傾向があります。

米では「チャレンジ」、日本では「リクエスト」

 これもMLB発のルールですが、微妙な判定についてリプレイ映像での検証を求めることができる「リクエスト」制度があります。MLBでは2014年から「チャレンジ」という名称で始まり、NPBでは2018年に「リクエスト」と名前を変えて採用されました。

 日本では「すべてをリプレイに頼るのは、審判員の技術向上に反する」という、審判からの慎重意見が強かったため、導入までに時間が掛かった経緯があり、審判への「挑戦」ではなく「お願い」という、やわらかい表現になったということでしょうか。

 その「リクエスト」が、今年から大きく変わりました。

 去年までは各球場の審判室にモニターが用意され、その球場で撮られた映像を審判員が確認する方法で行われていましたが、今年からNPB事務局内に「リプレイセンター」を設置、このセンターで一括して検証が行われています。

 センターには1軍の審判員2人と映像機器の操作担当者1人が常駐し、各球場から送られてくる映像のスロー再生やズームなど、より詳細な検証が可能になったとのことです。

 しかし残念ながら、センターを設置しても、先行するMLBの「インスタント・リプレイ・レビュー・システム」に肩を並べたとはとても言えません。

 MLBがニューヨークに置いているオペレーションセンターで行われている「インスタント・リプレイ・レビュー・システム」とは、全30ヵ所から送られてくる試合映像を球場別にリプレイディレクターと呼ばれる現職の審判員が、1球場最低でも12台のカメラが捉えた様々なアングルからの映像を基に判定を行います。このシステム構築のために、MLBは7年の歳月と、日本円にして20億円近い費用をかけたそうです。

 日本と違い、アメリカでは各球団ではなくMLBが放送権を一括して管理していることもこうしたシステムを構築できた一因でしょうが、新制度導入にいかにお金と時間をかけたかがわかります。

 日本の「リプレイセンター」との大きな相違点は(1)MLB全30球場の5分の1とはいえ、全6球場を2人の審判員と1人の映像機器操作者だけで賄っている(2)カメラの台数は各球場バラバラで、台数が少ない球場の判定を行う場合、そもそも判定に使える素材が不足している――この2点です。

 球場ごとにそれぞれ専任の審判員を配置することは人手の問題もあり、一朝一夕に改善できないのかもしれませんが、公平性を担保するためにも一日でも早く実現してほしいものです。

映像判定の問題点

 問題は(2)で挙げたカメラの台数です。

 現在、パ・リーグは「パ・リーグTV」を立ち上げ球団映像を制作しています。一方、セ・リーグは球団によって球団映像の制作方法がまちまちで、資本関係があるテレビ局に委託するか、地元放送局の中継映像を購入するといった形がとられています。

 このため、中継に何台のカメラを使うのかはテレビ局の裁量に任されていて、特に近年厳しさを増すテレビ業界にあっては「カメラの台数を増やしてほしい」と言われても簡単には応じられない状況になっています。

 MLBのカメラ12台というと、日本の場合オールスターゲームや日本シリーズなど大きな試合での台数なので、球場からの映像が判定に十分なアングルから撮られているかと問われると甚だ心許ないと言わざるを得ません。

 かつてはホーム、ビジターともにほぼ全試合中継されていた巨人戦の放送権料で儲けてきたセ・リーグの球団の古い体質が、いまだに続いているのが一因です。もはや巨人戦のテレビ中継で稼ぐビジネスとしては破綻した今、球団の体質改善とあわせアメリカのようにNPBが一括管理する方向へシフトしていく時期ではないでしょうか。

 MLBでは今年、さらに一歩進みストライク、ボールの判定までリプレイが適用されています。審判の権威はどこへ、と言いたくなる時代ですが、次回は審判について取り上げます。

村上和宏(むらかみ・かずひろ)
フリーアナウンサー。1967年、広島県出身。専修大学法学部卒業後、91年に東海ラジオ放送入社。制作局アナウンサーとして、主にスポーツ実況を担当。2025年の退社まで、プロ野球をメインに多くの番組制作に携わった。

デイリー新潮編集部