サウジ出資「リブゴルフ」が消滅危機 収益上がらず、中東情勢は混乱…大金の甘い誘惑で移籍した選手に“大きなツケ”
資金援助を打ち切られた?
「リブゴルフが消滅する」というニュースが世界を駆け抜けたのは、4月15日(米国時間)のことだった。まだゴルフ界には、ローリー・マキロイのマスターズ連覇の余韻が残っていたが、いきなり衝撃が走り、大騒動と化した。
【写真】状況を察知していた? いち早く“特別待遇”でPGAツアーに復帰した選手
コトの始まりは、英紙「フィナンシャル・タイムズ」と米紙「ウォールストリート・ジャーナル」のこんな報道だった。
「PIFがリブゴルフへの資金援助を打ち切った」
リブゴルフはサウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」の支援を受けて2021年に創設され、2022年6月から試合を開催している。

今年は5年目のシーズンを迎え、2月から3月の2か月間に5試合を開催。そして、今季6試合目のメキシコ大会(4月16日〜19日)の開幕直前というタイミングで、この驚きのニュースが報じられた。
米英双方の経済紙は、PIFから発表された2030年までの投資計画の中に「リブゴルフ」への言及や記載がまったく無いことを見て取り、「支援打ち切り」と報じたという。
その第一報を受けて、SNSでは報道を裏付けるかのように、こんな書き込みが相次いだ。
「今週のメキシコ大会の試合会場には、いつもなら必ず来ているリブゴルフ上層部の幹部スタッフが、1人も来ていない」
「リブゴルフの幹部らは、ニューヨーク・マンハッタンのヘッドクォーターに緊急招集され、今、緊急ミーティングを開いている」
ラームとデシャンボーの深刻な会話
米欧ゴルフメディアは次々に「PIFが支援を打ち切った」「リブゴルフの今週のメキシコ大会は開催されない可能性大」「リブゴルフはシーズン途中で打ち切りか?」「リブゴルフは消滅か?」といった記事を発信。リブゴルフ危機説は“ブレイキングニュース”となって、世界を駆け抜けた。
それから数時間後。リブゴルフのスコット・オニールCEOは、SNSにコメントを出した。
「クリアにしておきたい。リブゴルフの2026年シーズンは、予定通り行われる」
実際、開幕を翌日に控えていたメキシコ大会は予定通りに行われ、オニールCEOの言葉通り、「2026年シーズンは何も変わらず予定通り」という認識はとりあえず広がった。
しかし、オニールCEOの「2026年シーズンは」というフレーズは、逆に別の見方を広げた。というのも、「リブゴルフはこれからも安泰」とは言わず、わざわざ「2026年シーズンは予定通り」と述べたオニールCEOの言葉は、「2027年以降は安泰ではない」という意味に受け取れたからだ。
メキシコ大会の会場では、リブゴルフの「顔」的存在であるジョン・ラームとブライソン・デシャンボーが、練習グリーンの脇で、神妙な表情で長々と話し込んでいたという。「2人の雰囲気が怖すぎて、誰も近寄れなかった」という目撃談も聞こえてきた。
2人の会話の内容は、リブゴルフの今後と自分たちの身の振り方に関すること以外には、まず考えられない。
「これから、どうなる?」は、現在のゴルフ界全員が抱いている共通の疑問に違いない。
サウジはなぜゴルフだったのか
なぜ、今、リブゴルフは消滅の危機に瀕することになったのか。
米メディアの間では、リブゴルフが5年もの歳月を経過しても、なかなか成功しないことに、「PIFがしびれを切らし、ついに見限った」という見方が有力である。
そもそも、サウジアラビアの政府系ファンドであるPIFが、なぜゴルフ界に手を伸ばし、リブゴルフを支援してきたのか。その答えは、PIFのヤセル・ルマイヤン会長が無類のゴルフ好きで、ゴルフ界で主要な立場に立ちたいという野望を抱いていたからだと言われている。
それは、思わず「えー?」「本当に?」と首を傾げてしまいそうな話だ。だが、そんなジョークのような話は、実は表向きの建て前にすぎず、本当の目的は、スポーツ振興に注力することで健全で平和なイメージを醸成し、サウジアラビアという国全体のイメージ向上を目指していたと言われている。
そのためにPIFはリブゴルフに潤沢なオイルマネーを注ぎ込み、世界で最もリッチなゴルフツアーを創設・稼働させてきた。
だが、底なしと言われるオイルマネーも実際は無尽蔵ではなく、投資に見返りが期待されることは言うまでもない。
コスト高、選手脱退、中東情勢
PIFが2022年から2026年始めまでにリブゴルフに投じた金額は53億ドル(約8446億円)。今年2月には、さらに2億6660万ドル(約425億円)を追加投資した。それが「2026年シーズンは安泰」という言葉の根拠だと言っていい。
しかし、賞金アップや派手な演出等々でランニングコストは年々上昇しており、ここ2年ほどは「シーズン中は毎月1億ドル(約159億円)が必要」と言われていた。
一方で、リブゴルフの収益はなかなか上がらず、TV視聴率は依然、低迷中である。
昨年から今年にかけて、スター選手だったブルックス・ケプカとパトリック・リードが続けざまにリブゴルフから脱退し、PGAツアーへの復帰の道を歩み出した。それと前後して、ヘンリック・ステンソン、ケビン・ナ、パット・ペレスらもリブゴルフから離脱した。
そんなふうにネガティブな事柄ばかりが目立つリブゴルフをPIFが見限ったとしても、不思議ではない。折しも、中東情勢は混乱と混迷が続いており、PIFが「お金の使い方」を見直して再検討を行っているという見方もある。
これまでは、リブゴルフを支援することでサウジアラビア国外に向かってイメージアップを図ってきたが、もはやリブゴルフを支援している場合ではないという結論が出されたのかもしれない。
リブ消滅なら選手たちはどこへ
さて、オニールCEOの言葉通り、リブゴルフが2026年シーズンは予定通りに行われるとして、2027年以降はどうなるのか。
PIFからの資金援助がゼロになるのだとすれば、新たな出資者、支援者が見つからない限り、リブゴルフの維持・運営は困難になる。
リブゴルフのTV中継中、キャスターから「新たな金の工面が必要なのか?」と問われたオニールCEOは「おそらく」と返答。金策がうまく行けば、リブゴルフは2027年以降も生き残れるかもしれない。
だが、PIFと同等の投資が行える新たな支援者が、すぐに見つかる可能性は決して高くはなく、見つからなければ、リブゴルフは今年いっぱいで大幅縮小か、最悪は消滅ということになる。
そうなったら、リブゴルフ選手たちは、どこでプレーすることになるのか。ラームとデシャンボーの長時間の会話は、きっとそういう内容だったに違いない。
ラームは、DPワールドツアーの試合と同じ週に別ツアー(=この場合はリブゴルフ)の試合に出ると科される“罰金”を「支払わない」と言い続け、さらには不当だとして訴訟を起こしている。だが、積み重なっている罰金を全額支払わない限り、ラームはDPワールドツアーのメンバーシップを失うことになる。
そして同様の罰金はPGAツアーからも科され、積算されているはずで、ラームがPGAツアーへの復帰を望むとしたら、ここでも罰金の支払いを求められることになる。支払わない限り、ラームの戦いの場は無くなってしまうだろう。
デシャンボーはYouTuberに?
デシャンボーの身の振り方については、諸説が囁かれている。
デシャンボーとリブゴルフとの契約は2026年いっぱいで満了するのだが、仮にリブゴルフが2027年以降も存続する場合、デシャンボーはリブゴルフに新たな契約金として「5億ドル(約797億円)超を要求するだろう」と見られている。
その要求が満たされない場合、あるいはリブゴルフが2027年以降は消滅してしまう場合、デシャンボーは今後、出場資格がある限りはメジャー4大会に出続けるものの、それ以外は「PGAツアーにもDPワールドツアーにも復帰せず、既存のツアーから引退する」という説もある。
デシャンボーは独自のYouTubeチャンネルを創設し、高い人気を誇っている。すでに、YouTubeゴルフリーグなるものも立ち上げ、かなりの人気と収益を得ているとのこと。それがデシャンボーの今後の「メイン・ジョブ(主要な仕事)」になるという見方は、なるほどと頷ける。
ラームやデシャンボー以外のリブゴルフ選手は、どうするのかと言えば、大半は古巣のPGAツアーへの復帰を希望するだろう。
大金の甘い誘惑と大きなツケ
PGAツアーのブライアン・ローラップCEOは「私の関心は、PGAツアーをファンのため、プロゴルフのため、TVパートナーのために、より良いツアーにすることだ。そのための努力は惜しまない」と語っており、リブゴルフ選手のための復帰の道を開く姿勢を見せている。
とはいえ、ケプカにオファーしたような即時復帰の特別待遇を誰に対しても用意できるわけではない。おそらく、今のリードが科されているのと同じ「1年間の出場停止」は免れないだろう。もちろん、その前に「罰金の全額支払い」は、MUSTとなると思われる。
大金の甘い誘惑でリブゴルフへ移籍した選手たちは、わずか5年後に、こんな形で大きなツケが回ってくることを、まったく予想していなかったのだろうか。
ひょっとしたら、ケプカやリードは、こうなることを予知して、リブゴルフからの脱退を決めたのだろうか。
果たして、リブゴルフに2027年は到来するのか。それとも今年いっぱいで消滅してしまうのか。
謎が、謎を呼んでいる。
舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。
デイリー新潮編集部
