「外国スパイ防止」の実現の鍵は、まだ議論の俎上にも上がってもいない「あるタブーの解禁」にあった

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前編「高市政権が着手したインテリジェンス強化の本当のヤマ場は国家情報会議・情報局設置のさらにその先にある」で解説したように、スパイ防止法関連の政策の困難はこれからの議論の中にある。その運用段階で、野党やメディアの抵抗が予想される分野に踏み込まなければならないのだ。その施策とは……

「スパイ防止」は何をどう守るのか

インテリジェンス・スパイ防止関連法制については、情報収集の根拠となるインテリジェンス基本法と、日本国内で諸外国のスパイ活動を監視するための外国代理人登録法や外国活動透明化法、といった二本立てで考える必要がある。ただし前者は対外情報庁にも関係するので、こちらは後述する。

近年、日本政府は情報漏洩への対策を進めてはいる。2013年には「特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)」が制定され、防衛・外交・テロ・特定有害活動分野で、漏洩すると「我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがある情報(諸外国ではTop Secret、またはSecretに相当)」を保護することができるようになった。また2024年には「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律(重要経済安保情報保護法)」が成立し、国と民間企業の共有する情報で、漏洩すると「我が国の安全保障に支障を与えるおそれがある情報(諸外国ではConfidentialに相当)」が保護されるようになった。さらに不正競争防止法では、民間企業の持つ営業秘密の漏洩も処罰の対象となる。既述のソフトバンクや積水化学の事件では、この法律が適用されている。

これら法律では、情報の不正取得や取得のための働きかけやそそのかし(教唆)も処罰の対象となったため、一見、外国の情報機関による情報の不正窃取に対応できる仕組みにも見える。しかしこれら法律は基本的には、漏らす側、つまり日本の国家公務員や民間企業の従業員に焦点を合わせたもので、外国の政府機関を念頭に置いているとは言い難い。なぜなら情報を取りにくる行為を未然に防ごうとするなら、その行為を監視する必要性があるが、特定秘密保護法などはそのような監視行為を規定しているわけではないからである。その結果、我が国の秘密保護法制は、情報流出の防止という本来の目的を果たしておらず、漏らした側への罰則規定という視点から運用されているのである。既述した情報流出の事例においても、情報を取りに来た側は逮捕されていない。

終戦直後のスパイ事案では、日本に密入国してくる北朝鮮系の工作員が想定されていたため、これら事件のほとんどは出入国管理令や外国人登録法で対処することになった。しかし中露のスパイとなると摘発が難しくなり、ほとんどの場合は事件が発覚した後に警察の出頭要請を無視して出国してしまい、手が出せなくなるのである。

他方、欧米のスパイ防止においては、機密や行為を規定し、漏洩させた場合だけでなく、情報流出の防止のため、情報を取りに来る側を監視し、その兆候があれば迅速に対応する。それに対して我が国の現状の法体系では、外国スパイの監視によって情報漏洩を未然に防ぐことができないため、スパイ防止法を検討する際にはこの点を突き詰める必要がある。

参考は米国や豪州の外国人の政治活動制限法

監視の対象は、日本国内の外国人となるが、闇雲に行っているわけではない。まず可能性が高いのは大使館や領事館に外交官の身分で赴任し、情報活動を行う情報員や軍人であるので、それら外交官は既に監視の対象となっている。これらのスタッフは公館に勤務しているので、監視を行うのはそれ程難しくはない。

問題は民間人に偽装しているスパイ(Non Official Cover: NOC)であり、彼らは普段、ジャーナリスト、学者、企業の従業員の肩書で働いているが、本業は国家機関に所属する情報員である。NOCの場合は、誰がスパイなのか、そしてどこで勤務しているのかがわかり難いため、その監視は容易ではない。そのため欧米では、外国代理人登録法なるものが存在している。

この種の法律では、米国の外国代理人登録法(FARA)がよく知られており、これは米国以外の国籍で、米国に在住し、外国勢力や団体の利益のために活動する者を外国人代理人と定義し、司法省に登録する制度である。このデータベースは国防総省にも共有されており、監視の必要があれば、実際に連邦捜査局などが監視活動を行うことになっている。登録の拒否、虚偽の登録等を行った場合は、外国代理人届出義務違反罪によって罪を問える。

また近年、中国の浸透工作に悩まされてきた豪州は、2018年に外国人影響力透明化法を制定しているが、こちらは外国人が豪州の政治家や政府関係者への接近を厳しく制限するものである。このように諸外国では、それぞれの国内で外国人が政治的に活動することを制限しているのである。

最大のハードルになるか、通信傍受

他方、日本国内における諸外国の情報機関の監視は、各省庁で実施しているが、その監視手段は基本的に目視による監視と尾行である。しかしこのような監視活動は膨大な労力がかかる割に、相手の意図等を事前に調べることができない。これに対して欧米諸国では通信傍受による情報収集が基本となっている。ここでいう通信傍受とは、平時から情報収集のために行う行政傍受のことである。情報機関による行政傍受は、基本的に自国民に対して行われるものではなく、スパイ活動を行う可能性のある外国人やテロリストに対して行われている。

日本では行政傍受の導入については未だ議論の遡上にもない。既述の自民党案でようやく「必要な法制や実施体制についての論点整理と検討を早急に進める必要がある」と提言されているのみである。行政傍受は個人のプライバシーが侵害される恐れがあるとして、日本国内の世論やマスメディアは慎重な姿勢を崩さない。また通信傍受の実施は、日本国憲法第21条の「通信の秘密」にも関わる事項であるため、広範な議論が必要になってくる。

ただしここで通信傍受の対象となるのは、日本の秘密を非合法に得ようとする外国政府勢力、もしくは外国政府の利益のために働く外国エージェントが対象であるため、大部分の日本人にとっては直接的な影響はないだろう。基本的に調査機関が日本人の通信を傍受することは想定されていないが、もし外国人エージェントとの接触を認められた場合は、裁判所の許可を得て実施することも検討しなければならない。

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