「なぜジョーダン?」セレソン新ユニ騒動の真相。それでもほぼ完売状態【現地発】
ブラジルの伝統的なファースト・ユニホームは、あの有名なカナリア色だ。「カナリーニョ(カナリア色)」、もしくは襟の緑と合わせて「ヴェルデ・オロ(緑と黄金)」と呼ばれる。この色が定番となったのは1954年から。それまでは白のユニホームでプレーしていたが、1950年、自国開催のワールドカップにおいて事実上の優勝決定戦となったウルグアイ戦に逆転で敗れるという一大悲劇が起こる。
この試合はブラジル人にとって大きなトラウマとなり、当時着用していたユニホームさえ見るのが辛い――。そこで心機一転、カラー変更が決断された。以降、セレソンはカナリア色を象徴とするチームへと変貌を遂げていく。
一方、アウェーで着用するセカンド・ユニホームは、長らく青が定番だった。ところが1年前、ある噂がブラジル国内を駆け巡る。2026年ワールドカップのセカンド・ユニホームが、なんと赤になるというのだ。ブラジルの国名の由来とされる「ブラサ(ポルトガル語で熾火)」をイメージしたものと説明されたが、セレソンの伝統にもナショナルカラーにも属さない、まったく縁のない色だった。
実は当時、赤いユニホームはすでに生産段階に入っていたという。しかし、反応は最悪だった。ファンは激怒し、SNS上でも大騒動に発展。スポーツコメンテーターたちは「緑と黄色」の勝利の伝統に対する侮辱だと批判を強めた。
さらに問題を複雑にしたのが政治的背景だ。赤は当時、政権を握っていた左派政党「労働者党」の象徴色でもあった。代表ユニホームの“政治利用”と受け取られかねない今回の案を、多くのブラジル人が受け入れることはなかった。
結局、ブラジルサッカー連盟(CBF)の新会長サミール・シャウドは世論に配慮し、この計画を全面的に中止する。表向きの理由は、国旗の色をユニホームカラーに規定している連盟規約に抵触する可能性があるというものだった。こうして赤は消え、従来どおり青が残ることとなった。
もっとも、その“復活した青”もまた新たな議論を呼んでいる。ブラジル代表のテクニカルスポンサーは長年にわたりナイキだが、今回のセカンド・ユニホームは、そのナイキ傘下のジョーダンブランドからリリースされた。胸に配されたのはおなじみのナイキのロゴマークではなく、「ジャンプマン」――バスケットボール史に名を刻むマイケル・ジョーダンのシルエットである。
サッカーを“宗教”とまで捉えるブラジルにおいて、これは微妙な受け止められ方をしている。なぜバスケットボールの象徴が、しかもワールドカップ最多優勝を誇るブラジル代表のユニホームに――。そうした違和感は少なくない。なお、ジョーダンブランドを採用したサッカークラブとしてはパリ・サンジェルマンが知られるが、代表チームではブラジルが初のケースだ。
一方で、デザインそのものはおおむね好評だ。今回の青は従来のものよりやや濃く、黒のアクセントが施されている。これはアマゾンに生息するコバルトヤドクガエルから着想を得たものだという。
鮮やかな色彩と強い毒性を併せ持つこの生物にちなみ、コンセプトには「ジョガ・シニストロ(相手を恐れさせるプレー)」が掲げられた。従来の「ジョガ・ボニート(美しく魅せるプレー)」よりも、より攻撃的で威圧的なニュアンスが強い。
このユニホームは3月26日、ボストンで行なわれたフランスとの親善試合(1-2で敗北)で初披露された。売れ行きも好調で、ブラジルやアメリカではすでに完売状態にあるという。
取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子
【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとして中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFAの広報担当なども務め、ジーコやカフー、ドゥンガなどとの親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。
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