「朝から泣きやがって」障害者施設の利用者の顔面に“膝落とし”、片目失明させた元職員に有罪判決
障害者福祉施設で利用者に暴行を加え、片目を失明する大ケガを負わせたとして、傷害罪に問われた元職員の20代男性に対して、神戸地裁は3月10日、拘禁刑3年(求刑:拘禁刑4年)、執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。
福祉施設で暴行事件が起きた場合、背景として職員のストレスや過酷な就労環境に着目され、事件自体は許されないものの、一定の同情が向けられることもある。しかし本件の公判で明らかになったのは、あまりに短絡的な動機だった。(裁判ライター・普通)
●顔面に右膝を落とすように打ちつけた
スーツ姿で細身、長身の被告人は、公判を通じて終始どこか落ち着かない様子が印象に残った。
起訴状によると、被告人は勤務していた障害者福祉施設で、布団の上で仰向けに横たわっていた20代の利用者に対し、立った状態から顔面に右膝を落とすように打ちつけた。被害者は左目を失明する大ケガを負った。
被告人は起訴事実を認めている。
●被害者と被告人は相性がよくないと思われていた
検察官の冒頭陳述などによると、被告人は高校卒業後からこの施設で働き、約5年が経っていた。
被害者は事件の2年ほど前に入所。重度の身体麻痺があり、車椅子で生活し、排泄の介助が必要だった。発達障害や知的障害もあり、自身の気持ちを伝える際には「イヤ」と声を出したり、相手をつねったりすることがあったという。
被害者は女性職員とは比較的コミュニケーションを取りやすい一方、男性職員には突然泣き叫ぶこともあり、特に被告人とは相性が良くないと周囲から見られていた。
供述調書では、被告人は被害者について「この人とはわかり合えない」と感じていたと語っている。
その不満は次第にエスカレートし、事件以前から、車椅子を蹴る、つねり返すといった行為を繰り返していた。事件当日も、オムツ交換の際に声を上げられたことに苛立ちを募らせたという。
●職場のストレスに自傷行為
弁護側は情状として、被害者に対して損害賠償金400万円が支払われていることを主張した。また、被告人は現在、精神科に通院しており、医師からは「注意欠陥・多動性障害(ADHD)の疑いがある」と指摘され、心理的ケアを受けているという。
情状証人として出廷した母親によると、事件当時は別居しており、月に数回連絡を取る程度だった。被告人はもともと自分の気持ちを言葉にするのが苦手で、仕事の悩みを打ち明けることはほとんどなかったという。
ただ、その兆候とみられる出来事があった。被告人が自傷行為により救急搬送されたことがあったという。
その際、被告人は「職場のお局に偉そうに言われて、外に吐き出せないから自分で切って抑えている」と説明したと母親は証言した。
今後は家族で同居し、精神科通院に付き添うなどして再犯防止を見守っていくとした。
●「朝から泣きやがって」
被告人質問では、事件当時の心情も語られた。
利用者への介助がうまくいかず悩むことがあっても、「こういう職場なので、みんな同じだろう」と考え、同僚や上司へ相談することはなかったという。
被害者については、介助の際に手をつねられたり抵抗されたりすることがあり、「またやりやがって」と思うようになった。その感情は「怒り」だったと表現した。
しかし、その感情を周囲に相談することも、他の職員の対応方法を確認することもなかった。
事件当日、早朝のオムツ交換のために部屋に入ると、被害者は「イヤイヤ」と泣き出した。
それを見た被告人は「朝から泣きやがって」と怒りを爆発させ、オムツ交換を終えて床で仰向けになっていた被害者に対し、立った状態から膝を落とした。
被害者は大声で泣き出し、左目から出血していた。しかし被告人は事態を受け止められず、血を拭いただけで看護師に報告することもなくその場を離れた。
その後、施設管理者の聞き取りを拒否したり、否認を続け、逮捕されるまでの約3カ月間、施設で勤務を続けた。
被告人は「逮捕まで事態を受け止められなかった」と供述したが、その間どのような心境で働き続けていたのかは明らかにならなかった。
最後に、精神科への通院を続けることを誓い、被害者への謝罪の言葉を述べた。
●被害者の親が問う「どういう志で介護職を選んだのか」
裁判の最後には、被害者の親による意見書が検察官によって朗読された。
被害者は幼少期から何度も手術を受けてきた。本人はもちろん、親も必死に支えながら生きてきたという。
被害者の楽しみはテレビや動画を見ることだった。しかし今回の事件によって、視聴が一部制限されることになり、落ち込んでいるという。
親は、「子どもが安心して生活できるようにと選んだ施設で恐ろしいことが起き、そこを選んだ後悔から、ふと涙が溢れることがある」とした。
そして被告人に対し、こう問いかけた。
「どういう志で介護職を選んだのか」
「職責を理解していたのか」
●もともと介護職に興味はなかった
検察官の被告人質問では、次のようなやり取りがあった。
検察官:もともと介護職に興味は?
被告人:ありませんでした。
検察官:職場に相談する人もいなく、興味もなく辞めようと思ったことは?
被告人:ないです。
検察官:それはどうして?
被告人:辞めたあと、他で就職できるか不安でした。嫌でも続けると自分に言い聞かせていました。
●社会復帰の場として選ばれる「介護職」
捜査段階でも被告人は「資格がない自分でも雇ってくれるかも」と就職当時の心境を語っている。
介護業界の人材不足は、日々ニュースで報じられている。社会復帰の場として介護職を選ぶケースもあり、その動機が安易に聞こえることも少なくない。
しかし、利用者やその家族の思いは切実だ。
人手不足が長年指摘されながら抜本的な解決が進まない中、真剣に介護に向き合っている人たちが報われる環境は実現できないのか──。
介護業界が事件現場となった裁判を傍聴するたび、そう考えさせられる。
