「何かの前兆!?」河口湖で29年ぶりの大減水…SNSがザワつく異常事態の”本当の原因”
29年ぶり! 大減水の原因は
連日の少雨で各地のダムの貯水率低下が話題を呼ぶなか、日本有数の観光地・河口湖でも信じられない光景が広がっている。普段はポツンと浮島のように見える「六角堂」に、なんと歩いて行ける日々が続いているのだ。
水位低下は−4.1mと、実に29年ぶりの異常事態。SNSなどでは「富士山の湧水が涸れた?」「何かの前兆?」とザワついているが、本当の原因は全く別のところにあるという。専門家が明かした「河口湖ならではの事情」と、今後の見通しに迫る。
「河口湖の水位は、3月6日現在−4.1m。4m以上水位が下がることは滅多になく、1997年以来、29年ぶりです。去年は梅雨が短く、台風もあまり来なかった。これは少雨による影響だと思われます」
こう言うのは、 富士山火山防災研究センター 主任研究員の山本真也氏。
だが、河口湖をはじめ、富士五湖の水は富士山からの湧水が流れ込んでいるのではないのか。
「河口湖に流れ込んでいるのは、富士山からの湧水ではなく、北側にある御坂山系の地下水、御坂山系を源流とする寺川や、今は涸れ沢になっている川の下を流れる伏流水です。降水量が少なくなると、流れ込む地下水や伏流水の量も減り、水位が低下してしまうのです。
年間降水量が1300mm以下になると、大減水する傾向がありますが、’25年の年間降水量は1080mmほどだったので、水位が下がっていると考えられます」
しかし、地下水は山の中などを通って、何十年何百年もかけて湧き出てくるもの。去年の降水量が、今年の大減水とどう関係するのだろうか。
「確かに去年降った雨が地表に流れ出るのは何十年何百年後です。しかし、地中にたまった水は、去年降った雨水によって押し出されるように湧き出してくる。降水量が少ないと地下水は押し出されにくくなって、湖に流れ込む量が減り、結果大減水となるのです」
去年は、本来なら降水量が多くなる梅雨の時期が短く、台風もあまり来なかった。そのため、夏に水位が上昇しないまま冬の水位低下時期に入ってしまい、4mも水位が下がってしまったのだという。
なぜ河口湖だけ水位低下?
降水量が原因なら、富士五湖のほかの湖も減水していなければおかしい。しかし、4mも水位が下がっているのは河口湖だけだ。これはなぜ?
「厳密には東西で降水量は変わります。駿河湾から上がった水蒸気が富士山にあたって雨を降らせるので、東側は雨が多い。なので、山中湖あたりにいちばん多く雨が降ります。次に多いのは、気圧配置によって西回りで雲が入ってくる西湖や精進湖。河口湖がある北側は雨を降らせたあとの雲が流れてくるので、雨が少ないのです」
農業・観光業への深刻影響
山本氏によると、水位が低くなるのは、降水量が少ないほかに2つ原因があるという。
1つは漏水。河口湖は溶岩でできている湖だが、溶岩は空隙が多い。そのため水が染み込みやすく、自然の漏水のようになる。
「しかし、この量はごくわずか。これによって減水になることはありません」
もう1つは人工的な排水だ。河口湖は溶岩で堰き止められ、流出口がないため、大雨が降るとあふれてしまう。明治時代、たびたび増水が起き、周囲の村落は浸水被害に悩まされていた。それを防ぐために排水トンネルが造られ、現在では2本が使われている。春になると、そのトンネルを利用して下流の地域に農業用水として湖の水が送られる。だが、トンネルの下部より湖の水位が低くなると水を送ることができなくなり、農業に影響が出ることも考えられる。
農業だけではなく、浅瀬が続くとボートも出せなくなり、観光業も打撃を受ける。
このまま水位が低い状態が続いて大丈夫なのか?
「春になって雨が降るようになれば大丈夫でしょう。実は’17年も水位がマイナス3.7mになったことがありました。4m以上水位が下がったのは29年ぶりですが、’17年も今と40センチしか変わらない。10年に一度は大きく水位が下がることがあるのです」
六角堂へ陸続きになった映像はショッキングだが、ここ10年、降水量が少なくなる冬〜春先にはほぼ毎年見かける光景なのだとか。
「地元の人たちも、私たちも冬になれば見かける光景なので、心配していません。ただ、昔は冬は−10度、−15度になることはよくあり、河口湖や山中湖も全面結氷になることがありました。けれど、最近は−10度を下回ることは滅多にありませんし、湖も凍らなくなりました」
暖かくなったことと水位は無関係と山本氏は言うが、少雨が温暖化の影響という説もある。夏、満々と水をたたえた河口湖を見ることができるだろうか。
▼山本真也 山梨県富士山科学研究所 富士山火山防災研究センター 主任研究員。堆積物中の有機化合物や、その安定同位体比の分析から過去の環境変動を読み解く研究。特に、富士五湖の堆積物を対象に富士山の噴火の歴史や噴火による環境への影響を探る研究を行っている。また、富士山の自然環境の現状を明らかにするため、地球化学的手法を用いた富士五湖や富士山の地下水の調査・分析も行っている。
取材・文:中川いづみ

