かつて「喫煙所」は“第二の会議室”として扱われていた…30年で大きく変貌を遂げた“タバコと職場”の関係を振り返ってみる
喫煙者の肩身がどんどん狭くなっている昨今である。私の周囲には「オレが何の罪を犯したんだ! ただ、タバコを吸っているだけだなのに!」と嘆く50代後半男性喫煙者もいる。世の中で「タバコヘイト」の機運が高まり、それに追い討ちをかけるようにタバコ税が上がっていき、そうした動きに反比例するようにタバコの販売本数が右肩下がりとなっている。【取材・文=中川淳一郎(ネットニュース編集者)】
【画像】もともと少数派の上に近年さらに減少傾向に…煙を燻らす女性愛煙家たちの姿
2000年までは会議室でタバコ吸い放題だった
日本たばこ協会データを見ると、紙巻きタバコの販売数量と販売代金は1990年は3220億本・3兆5951億円だったのが、2024年は828億本・2兆2160億円となっている。凄まじい落ち込みようである。

しかし数字をよく見ると、不思議なことも見えてくる。紙巻きタバコの販売数量は90年と比べ25.7%まで落ち込んでいるのに対し、販売代金は61.6%、4割減で踏みとどまっているのだ。これは、税率の向上もあるが、タバコ自体の価格の値上げと、それにもめげず、どんなに高くなっても、紙巻きタバコを吸いたいという熱心な固定客がいることの証左なのだろう。
それではどのくらい値上がりしているのか。セブンスターと激安タバコとして知られたゴールデンバットの価格推移を見る。
私が大学生だった1994年時の価格は、ゴールデンバットが、20本入りで90円、セブンスターは220円だった。その後たばこ税が上昇し、ブランドが消滅した2019年にゴールデンバットは330円、セブンスターは510円である。そして2026年1月現在、セブンスターは600円。
タバコについてはすさまじき値上げとなっているが、それでもやめない人は心底タバコが好きなのだろう。その一方で、タバコをやめた人々に、その理由を聞いてみた。健康への配慮や、喫煙者が差別されるという「社会の状況」の変化が大きな理由だが、より具体的に言えば、会社内における「喫煙室文化の衰退」というのことのようである。
私が会社に入った1997年から退社するまでの2000年まで、執務室のデスクと会議室でタバコを吸うのは自由だった。デスクの灰皿に溜まった大量の吸い殻は、翌朝掃除の業者が捨ててくれた。会議室は1時間でも使うと灰皿は満杯となり、会議中常に煙幕が張っていることが普通だった。
喫煙室文化の消滅
さほど昔でもない時代にはそこまで喫煙者が大手を振っていたわけだが、今やその影はない。当時常にタバコを吸っていた人も遠慮をしているし、もはやタバコは吸わないと言いだしている。50代広告会社社員男性のA氏はこう語る。
「元々、仕事の雑談や簡易打ち合わせのようなことは会社の喫煙室で喋っていたのですが、これは男の文化でした。案外この時間で仕事の方針が決まったりしていたんですよ。だから有意義だと思われていたのですが、タバコを吸わない人からすれば『なんで喫煙者だけが長時間席を外していて許されるのですか?』となります」
これは当然のことではある。「喫煙室で打ち合わせをしています!」と主張したいのだろうが、「いや、席やその辺の打ち合わせコーナーで話をしてもいいでしょ? そこにタバコが必要なんですか?」という反論の余地がない意見が出る。さらにはジェンダーの問題も出てきた。A氏が続ける。
「喫煙室の男文化で仕事が進む様子を見た少数派の女性もそこに加わるようになりました。彼女は、喫煙室で仕事が円滑に進む様を見ていると、その『喫煙所仲間』になろうとするのですね。元々その方はタバコを吸っていたのですが、『私も一緒に行きまーす!』なんてことを言いながら一緒に喫煙所に行く様を見た他の女性からは『男に媚びている』と批判されていました」
昔がおかしかっただけ
一方で、男性社員が無理矢理タバコを理由に女性社員を喫煙所に連れ込んでいるといった批判が巻き起こるようにもなったのだという。そのため、ジェンダー平等の観点から、喫煙所での雑談が下火になり、そもそも喫煙室を廃止する会社も多くなった。そして、職場だけでなく、飲み会や会食の場でも喫煙者は肩身が狭くなっていった。飲み会好き男性B氏(50代)はこう語る。
「飲み会や会食の時、外へ喫煙に行くのがそもそも面倒くさくなりました。そして、喫煙のために5〜7分ほど、それを2時間に3〜4回もやるのは失礼だと感じ、タバコはやめました。一旦やめると決意すれば全然苦痛じゃないですね。オレは酒飲んでおけば幸せです」
元々喫煙をする行為というものは「不良に見える」「大人の象徴」「アウトロー的」といった理由があった。本気でタバコを好きだった人がどれだけいるかといえば、ここまで値上がりした今でも吸い続ける人だけだろう。それ以外の喫煙者の多くは、あくまでも、自分をイケていて、ワルそうに見せるツールとしてタバコを使っていたのだ。
タバコの煙を肺まで入れず、灰皿に置きっぱなしにし、さらには口をつけたとしても少し吸って「プハーッ」と吐く人間は大勢いた。これはタバコがイケてる人間の象徴かつ、不良の象徴だった時代の話。だが、今ではタバコを吸うこと自体がイケてる行為とは見なされづらい。単に「珍しい嗜好を持った人」扱いされているのかもしれない。
ネットニュース編集者・中川淳一郎
デイリー新潮編集部
