三井不動産社長・植田俊の「ライフサイエンス・宇宙・半導体の産業コミュニティを」
同社は2016年、台湾に現地法人を設立し、中国信託フィナンシャルホールディングスが進める街づくりに参画する形で、『ららぽーと』などの商業施設やホテル、住宅建設を進めてきた。
そうした活動・つながりを通じて、台湾の国立陽明交通大学とも連携。同大学は2021年、台湾の理工系有力校・交通大学と医療系有力校・陽明大が統合してできた大学で、台湾半導体が世界で飛躍する基となったサイエンスパークをつくった研究開発機関である。
日本の産総研(産業技術総合研究所)に似た研究機関ともいわれる。こうした内外の〝頭脳〟や研究機関とのネットワークがあってこそ成り立つ産業コミュニティである。
街づくりから、産業コミュニティづくりへ
三井不動産はデベロッパー(不動産開発)業界でトップの座にある。2026年3月期は売上高(営業収益)約2兆7000億円(前期比2・8%増)、純利益約2650億円(同6・5%増)の見通し。
同社株式の時価総額(11月7日時点)は4兆5655億円。PER(株価収益率。株価が1株あたり純利益が何倍の価値になっているかを示す数値)は17・50倍。市場では、17倍以上が高評価される。
PBR(株価純資産倍率。1倍であれば企業の解散価値と株価が同じ水準と見なされる)は1・42倍。ROE(自己資本利益率。株主が出資した資金を元手に、どれだけの利益をあげているかを数値化したもの)は7・95%。8%が目安とされるが、最近では10%を目指す企業が多い。
ちなみに、業界2位の三菱地所は時価総額約4兆2541億円と三井不動産のそれをやや下回る。PERは21・17倍、PBR1・68倍、ROE7・63%という数値。三井不動産が成長してきたのは、単なる街づくりから産業づくりへと、自らを変革させてきたことと無縁ではない。
かつての高度成長期は東京湾岸の埋め立て事業を手がけ、オフィス環境を整えるために、霞が関ビルのような超高層ビルも建設(1968年開業)。また働く人たちのためのクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)向上のために、住宅供給、『ららぽーと』などの商業施設を展開。
そうした街づくりは日本経済の発展と共に進化してきたが、産業コミュニティづくりは、日本の産業競争力向上に直結する。2016年にスタートした産業デベロッパーとしての事業も、2026年10月で10年が経つ。変革の時にあって、三井不動産にとってもここは正念場だ。
植田氏が社長に就任(2023)して2年余。コロナ禍最終局面での社長就任で、この間、在宅勤務などのリモートワークが浸透し、人々の生き方・働き方も多様化。
そうした変化の中で、東京ミッドタウンなどの新しいオフィスづくりを進めてきて、思うことは何か? との問いに「コロナ禍が終わってみたら、リモートもできたよねということで、その有効性は皆さん確認できましたね」と植田氏は言いつつ、「もっと付加価値の高い仕事をするためには、やはりリアルのオフィスが大事だと分かってきましたね」とオフィスの重要性を強調。
〝失われた30年〟はいくら付加価値を付けても、「付加価値が表現されずに、最後は安いものが勝つ」という時代であった。つまり、「イノベーションが起こる環境になかった」と氏は振り返る。
しかし今は、環境が変わった。
「やはり、フェイス・トゥ・フェイス(Face to Face)で顔を合わせて、出会うことによって、人と人との対話の中で、付加価値は生まれてくるのだと思います」
オフィスにしても、産業コミュニティにしても、人と人のつながりや対話が重要で、そこから付加価値の高い事業を生み出そう─という植田氏の産業デベロッパー論である。
