三井不動産社長・植田俊の「ライフサイエンス・宇宙・半導体の産業コミュニティを」
近年の同社経営陣もこの方向性に沿って経営のカジ取りを担ってきた。金融危機で有力銀行の倒産が相次いだ1998年(平成10年)から2011年(同23年)まで社長を務め、リートなど、不動産の証券化戦略を開拓し資金調達を行い、新しい街づくりを始めた岩沙弘道氏。
岩沙氏は、現在の同社の産業デベロッパー路線の基礎をつくった人物である。
その岩沙氏の後を受けて社長に就任したのが菰田正信氏(1954年生まれ、社長在任は2011年から2023年まで、現会長)。菰田氏は東京ミッドタウン計画を強力に実行し、産業コミュニティ創設を推進。
菰田氏の後を受けた植田氏が2023年に社長に就任してから2年余が経った。植田氏は、同社が産業コミュニティづくりを始めた動機について、次のように語る。
「これまで、われわれはどうしても受け身で、指をくわえて見ているという立場でした。しかし、今はそれを待っていられないし、われわれもできる事をやろうと、場の提供だけではなく、コミュニティの提供をし始めた」(インタビュー欄参照)。
産業コミュニティづくりとして、まず同社が着手したのは、ライフサイエンス分野。東京・日本橋は江戸期から薬のまちとして発展してきた歴史がある。
ライフサイエンスは、生命現象の複雑かつ精緻なメカニズムを研究・解明する科学領域。そこで得られた成果を医療や創薬に役立て、引いては、食料、環境問題の解決を図っていこうというもの。
昔から、薬のまちとしての歴史を持つ日本橋に、同社がライフサイエンスの産業コミュニティ拠点を置いたのは2016年のこと。
一般社団法人『LINK―J』(Life Science Innovation Network Japan、ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン)がそれである。
「来春で丸10年になります。年内には、会員も1000社を超える組織になります」
そして、注目されるのが宇宙領域に関する産業コミュニティづくりだ。 『LINK―J』から派生、独立した産業コミュニティとして、『クロスユー』が2022年発足した。発足3年しか経っていないが、今や会員数300社超の組織になるなど、産業界で宇宙領域への関心が非常に高いことがうかがえる。
『クロスユー』が生まれたきっかけは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が『LINK―J』に参加していたこと。
JAXAは、宇宙航空分野お基礎研究から開発・利用までを一貫して手掛ける機関だが、無重力ないし低重力状態での物質の作り方、薬の作り方に関心を持っており、『LINK―J』に参加していた。
「宇宙ビジネスはまさに、その国の総合力が問われる分野。その裾野もエンジンや機体から、さらに言うと、宇宙食までいろいろと広いんです。これを1つの産業として活性化させていくためには、産業コミュニティが必要だという話になりました」
『クロスユー』の会員の中に、宇宙ベンチャーの『ispace(アイスペース)』(2010年設立)がいる。同社は、月面へのデータ本体を送るペイロード輸送サービスなどを提供する企業で、米グーグル・グループのGoogle Lunar Prizeに参加して、月面走行車(ローバー)の『HAKUTO』を開発したことでも知られる。
アイスペースは、日本の宇宙ベンチャー企業として、月着陸船『RESILIENCE(レジリエンス)』を開発し、民間初の月面着陸を目指したが、失敗。2025年6月に再度、月着陸を目指したが、その挑戦は再び失敗に終わっている。しかし、挑戦者魂は萎えていない。
