味噌ラーメン生誕の地・札幌で新時代を築いた名店 「けやき」をラー博が「すみれ」卒業後に選んだ理由とは

新横浜ラーメン博物館(横浜市)は、30周年を迎える2024年へ向けた取り組みとして、過去に出店した約40店舗が2年間かけて3週間のリレー形式で出店するプロジェクト「あの銘店をもう一度」を2022年7月1日から始めています。このプロジェクトにあわせ、店舗を紹介する記事の連載も同時に進行中。新横浜ラーメン博物館の協力を得て、「おとなの週末Web」でも掲載します。
テーマは「五感に訴える一品料理としてのラーメン」
第25弾は「五感に訴える一品料理としてのラーメン」をテーマに、札幌味噌ラーメンの新たな歴史を作った札幌「けやき」さんです。
【あの銘店をもう一度・第25弾・「けやき」】
出店期間:2023年11月21日(火)〜2023年12月11日(月)
※かもめ食堂は4週間の期間限定出店です
出店場所:横浜市港北区新横浜2-14-21
新横浜ラーメン博物館地下1階
※第23弾「かもめ食堂」の場所
営業時間:新横浜ラーメン博物館の営業に準じる
・過去のラー博出店期間
2004年12月11日〜2009年3月31日

岩岡洋志・新横浜ラーメン博物館館長のコメント「創業5年のお店を誘致するのは初めてのこと。25周年を迎えた『けやき』さんは凄いお店」
コラムにも書きましたが、1994年の開業から出店していただいた札幌「すみれ」さんは、2004年に卒業することとなりました。そのいきさつはコラムを読んでいただければと思いますが、札幌の味噌ラーメンは外せなかったため、次に入っていただくお店は色々と悩み、一から食べ歩くこととなりました。
けやきの創業者である似鳥栄喜さんと初めてお会いした時、私は出店のことは一切話さず、ラー博を何故始めたのか、どのようなお店を選定しているのか、将来はこうしていきたいみたいな話をし、似鳥さんも始めた経緯や今後のビジョンについて語ってくれました。その後、何度かお会いする中で、食事に行くことになりました。最後お会計をしようとしたとき似鳥さんから「ここは私が払います。横浜に行ったときにご馳走してください」とおっしゃっていただき、正式に出店のオファーを出させていただきました。
当時、札幌は味噌ラーメン誕生の地にもかかわらず、味噌を提供するお店が年々減っていっていました。そんな中で似鳥さんは味噌ラーメン専門店として既成概念にとらわれない新しい味噌ラーメンを作り上げ、地元から支持を得ていました。ラー博の歴史の中で、創業5年のお店を誘致するというのは初めての事でした。20年続くお店は3%と言われておりますが、あれから20年が経ち、25周年を迎えた「けやき」さんは、今もなお繁盛しており、やはり凄いお店を誘致したのだと、あらためて感じました。
18文字のキャッチコピー「味噌ラーメン新時代。ラー博が出した答え」
「味噌ラーメン新時代。ラー博が出した答え」というコピーは、札幌「けやき」さんがラー博に出店する際のキャッチコピーです。わずか18文字ではありますが、この言葉には様々な想いや決意が込められていました。
札幌「けやき」さんが出店したのは2004年の12月。その年の10月末までは札幌「すみれ」さんが1994年の開業時から出店していました。
結論から申しますと「ラー博が出した答え」とは、「すみれ」卒業後の店舗は、札幌味噌ラーメンの文化を繋いでいくお店として、ラー博が「けやき」を選んだという意味が込められています。

札幌の食通たちが推した人気店「けやき」
「すみれ」さんの卒業が決まった後、私たちはあらためて札幌中のラーメンを食べ歩きました。インターネットはそこそこ普及していましたが、まだまだ足で情報を稼ぐ時代で、老舗から新しいお店まで実に20軒ほどのラーメンを食べ歩きました。
1960年代から「味噌ラーメン」として名前が売れた「札幌」は、次第に観光化と量産化が進みました。そんな中、90年代後半頃から起きた「一大ラーメンブーム」により、札幌でも味噌以外の様々な味を提供するお店が続々とオープンし始めました。しかしそこには「いろいろな味わいを楽しめるのはうれしい反面、味噌ラーメンのお店が減っていくのはさびしい。やっぱり味噌ラーメンが食べたい」という声も聞こえていました。
私たちは開業時から郷土料理のように自然発生的に根付いた食文化としての”ご当地ラーメン”に着目していたこともあり、今回の店舗は、味噌ラーメン生誕の地「札幌」だからこそ、味噌ラーメン専門店を誘致しようという結論に至りました。
そんな中、食に精通する札幌の方々が以前から「札幌に来て、もし時間があるのならここの味噌ラーメンを食べてほしい」と口を揃えてオススメする店がありました。そのお店が「けやき」でした。

私たちも2000年に初めて食べ、その時のメモによると「オープンしてまだ新しいお店ですが、新時代を象徴する味噌ラーメン専門店」と書き残していました。そして2004年、初めてけやきの創業者である似鳥栄喜さんにお会いすることとなりました。
和食店を手放し、1999年11月に創業
「けやき」の誕生は1999年の11月。創業者の似鳥栄喜さんは、ホテル・レストラン等での料理経験を経て、1983年に創作和食店「わびさび」を開業します。

そして「わびさび」は地元の人たちからも支持を受け、一躍人気店となります。そんな似鳥さんが、繁盛店となった「わびさび」を手放し、「けやき」をはじめた理由はどのような背景があったのでしょうか?
似鳥さんによると「当時、観光で来るお客さんから、立て続けに味噌ラーメンの美味しい店を聞かれたのがきっかけで、それならば自分が納得できる味噌ラーメンを作ってみようと。しかし、いざラーメンを作ってみるとこれが非常に難しい。味はどんどん変化していくし、全く安定しない。最初は店の締め料理としてくらいの気持ちでしたが、その奥の深さに魅せられ、気づいたら2年もの時間を費やしてしまいました。その間、常連さんには迷惑されるほど試食をしていただきました。私はラーメンほど奥が深く、難しい料理に出会ったことがありません。味噌ラーメンの聖地で味噌ラーメンを極めたいという想いが強くなり、ついには“わびさび”まで手放してしまいました」と当時を振り返っていただきました。

「ビートルズのような本当に味のある店に」けやきの屋号に込められた想い
けやき−欅。この屋号には「欅の幹のように太く硬く、根がしっかりしていて揺るがない、1本の木のようにありたい」との想いが込められており、またその想いは店内でも表れています。

それは店内に流れる「ビートルズ」のBGMです。「ビートルズは解散して50年以上過ぎた今でも、幅広い層に支持されています。見たとおり『けやき』はまだ若いけれど、これから長い年月を経て、ビートルズのような本当に味のある店にしていきたい」と、似鳥さんは目を輝かせて想いの深さを語ってくれました。
「こんな印象のラーメンは初めて」2004年時の岩岡館長の感想
「けやき」のラーメンを一言で表現するのは実に難しいです。筆者の表現力が乏しい事もありますが、それだけではありません。あえて表現するならば「もう一度確認してみたくなる味」です。
この味を生み出した似鳥さんに聞いてみると、そのテーマは「五感に訴える一品料理としてのラーメン」とのこと。確かにその一言に集約されているように思えます。
下記の文章は筆者が2004年当時にけやきさんを食べた時の感想です。
運ばれてくるラーメンを見たとき、およそラーメンらしからぬ盛り付けにまず驚かされました。キャベツ、にんじん、キクラゲ等の野菜と、その上に白髪ネギが彩り鮮やかに盛られ、すでに視覚だけで胃は刺激されます。

そしていつも通りスープをひと啜り。一見、濃厚に思えるスープは、思ったより、あっさりと仕上がっています。しかしこの後、麺を持ち上げた瞬間、今までに体験したことのない香りが、嗅覚を刺激しました。
「何だろう、この香りは?」小麦の香り?いや、小麦を炒ったような芳ばしささえ感じます。そして麺をひと啜り。先ほどの麺の香りと共に、記憶にある札幌ラーメン特有の食感と共に、微妙な弾力感と麦の味、いや「とりたての麦の味」とでも言うべきか、そんな味わいが口いっぱいに広がりました。

そしてまたスープを飲む。最初に飲んだスープのアッサリした印象から一変、麺とスープの出会いによる、なんともいえない味わいに変化します。
その後、1/3ほど食べた頃、さらにそのスープは大きな変化を遂げます。食べ進むうちに徐々にコクが増すのです。一般的にラーメンを食べたときの感覚は、最初にインパクトを感じ、その味に慣れてきて食べ終わるのですが、けやきのラーメンは全く違ったのです。コクが増すといっても、決して脂っぽいという訳ではありません。
そして気づいたらスープを飲み干していました。その食後感は、とてもサッパリとした後味の良い、いや、切れ味のある味でした。

これまでに全国各地のラーメンを食べてきたつもりですが、こんな印象を受けたラーメンは初めてでした。しかし、結局ラーメン一杯をいただいたものの、人にどう伝えてよいのか分かりませんでした。
ただ、少なくとも「五感」が刺激された事だけは間違いありません。
けやきの味噌ラーメンの特徴「約10時間かけうまみを抽出」「一週間寝かせた麺」

巨大な寸胴鍋で取るスープは厳選された豚のゲンコツや背脂、丸鶏、数種類の野菜やシイタケなどが原料です。スープは約10時間をかけ、じっくりとうまみを抽出しますが「日によって骨の状態が違うので仕上げに再度、必要な部位の骨を足して、一定の味を保っています」という徹底ぶりです。

みそだれに使用するみそは、大豆みそや麦みそなど3種類のみそに野菜の甘みをプラス。まろやかさ、ツヤの良さ、深いコク、キレのよさを兼ね備えています。

麺は、1週間寝かせて成熟させた、中太の縮れ麺でスープが程よく絡みます。プリプリとした食感がやみつきになります。

中央にこんもりと盛られた具は白髪ネギやキャベツの青み、ニンジンの赤、キクラゲの黒など、彩りも鮮やか。

「けやき」には味噌ラーメンを食べて育った生粋の地元の人々から、味噌ラーメンを札幌のご当地と感じていなかった若者、そして美味しい味噌ラーメンを求めてやってくる観光の人々まで、幅広い人々に愛されています。
【札幌味噌ラーメン専門店 けやき すすきの本店】
住所:札幌市中央区南6条西3丁目 陸ビル1F
TEL:011-552-4601
https://www.sapporo-keyaki.jp/
営業時間:平日10時半〜翌3時 (LO 2時45分)、日・祝10時半〜翌2時 (LO 1時45分)
札幌「けやき」のラーメンがラー博で食べられるのは実に14年ぶり。札幌味噌ラーメンの新たな歴史を作った「けやき」さんのラーメンを、五感で味わっていただきたいです。
出店期間は2023年11月21日(火)〜12月11日(月)です。皆様のお越しをお待ちしております。
『新横浜ラーメン博物館』の情報
住所:横浜市港北区新横浜2-14-21
交通:JR東海道新幹線・JR横浜線の新横浜駅から徒歩5分、横浜市営地下鉄の新横浜駅8番出口から徒歩1分
営業時間:平日11時〜21時、土日祝10時半〜21時
休館日:年末年始(12月31日、1月1日)
入場料:当日入場券大人450円、小・中・高校生・シニア(65歳以上)100円、小学生未満は無料
※障害者手帳をお持ちの方と、同数の付き添いの方は無料
入場フリーパス「6ヶ月パス」500円、「年間パス」800円
※協力:新横浜ラーメン博物館
https://www.raumen.co.jp/

