新聞記事の内容に誤りがないかをチェックするのが校閲記者の仕事だ。誤字脱字や不適切な表記を直し、読みやすく正確に伝わるよう「ことば」と日々格闘しているという。毎日新聞校閲記者たちのコラムをまとめた『校閲至極』(毎日新聞出版)より、一部を紹介する――。
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■「カマボコを8センチ幅に切る」?

「食卓の一品」から「宇宙の起源」まで、私たちの仕事の守備範囲は果てしなく広いと言っても過言ではありません。

それを実感できるのが、新聞社の校閲らしい「遊軍」勤務です。もちろん繁忙時には必要に応じて「ニュース面」の担当になりますが、平常時には「オピニオン面」「特集面」「くらしナビ面」など、作業が集中して大変そうなところを見計らっては、当日物以外のさまざまな紙面の校閲を黙々とこなす「名脇役」のような仕事です(と私は思っています)。当日は何が読めるのかワクワクしますが、内容によっては塗炭の苦しみを味わうこともあります。

たとえば「くらしナビ面」の校閲を何枚かフォローすると、「食卓の一品」にも必ず目を通すことになります。実はここは校閲の基本が試されるコーナー。まずは「ダイコンの拍子切り」という表記にしっかり(拍子木の形に切るので)「拍子木切り」と赤字直しを入れ、カロリーの数値は妥当か、材料、手順に誤りはないか確認しながら読み進めます。内容を追うあまり、手順が?????となっているのに気づくのは、単純そうで意外に大変です(?は?の誤り)。

以前、「お雑煮の作り方」で「カマボコを8センチ幅に切る」というレシピを見逃し、お餅より大きい豪快なカマボコをのせた一品を出しそうになり、冷や汗をかきました(8ミリ幅に切るが正解)。

■書籍名からサッカー選手の名前まで広く深い

「子どもが読んだ本の名前」を扱った特集面。映画やアニメの原作本などが広く読まれているとの解説とともに多くの作品名が列挙されています。この特集面にも登場しましたが、繰り返し誤る作品・著者名があり、気が抜けません。

『君の名は』(新海誠)、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』(渡航)、『あのとき、僕らの歌声は』(AAA)……ここで3冊共通の誤りに気づいた方はいらっしゃいますか? 実は作品名の最後に「。」が入るのが正解です。

油断していると『きみの膵臓(すいぞう)が食べたい』(住野よる)、『かがみの狐城』(辻村美月)、『蜂蜜と遠雷』(恩田陸)と痛いところをついてきます。まさに薄氷を踏む思いで慎重に乗り越えていかなければならない場面です(順番に『君の膵臓をたべたい』『かがみの孤城』「辻村深月」『蜜蜂と遠雷』が正解)。

「Jリーグ選手名鑑」「日曜くらぶ」「環境面」など違うジャンルのものを読み進めるうちに、あっという間に時が過ぎていきます。

もちろん、掲載日までに複数の目を通すことが大切です。時間に余裕があっても「再発に万全を期したい」という一文が最後まで残り、「再発防止に」の直しがギリギリになってしまうことも。私たちの仕事は広いだけでなく、深いことを思い知らされる日々です。

(2020年4月5日 渡辺静晴)

■品川区にないのに「品川駅」なワケ

10月14日は「鉄道の日」です。新橋と横浜の間に日本で最初の鉄道が開通した1872(明治5)年9月12日(旧暦)が新暦では10月14日に当たることから、この日が「鉄道の日」になっています。2022年は鉄道開業150周年ということで、関連イベントが各地で開催されました。

鉄道開業の日は10月14日とされていますが、先に工事が完了していた品川と横浜の間で仮開業して運行を始めたのは、正式な開業より4カ月ほど前の1872年5月7日(旧暦。新暦では6月12日)のことでした。

鉄道が開通した当時、新橋駅は、今の汐留シオサイトのあたりにありました。また横浜駅は、現在は桜木町駅と名前を変えています。一方、品川駅は当時とほぼ変わらない場所にあり、名前も変わっていません。つまり品川駅は日本最古の駅といえるのです。

ところで、この品川駅の所在地が東京都品川区ではなく、東京都港区だということをご存じでしょうか。

品川駅の駅名の由来は東海道最初の宿場だった品川宿ですが、品川駅の所在地はこの品川宿より北になります。当初は品川宿に駅を設けることも考えられていたようですが、一説に駅ができると宿場が廃れるとの反対意見が強かったことなどから、今は港区である高輪になったといわれています。

ただ、品川という地名が著名だったことや、鉄道開設の計画時には高輪が当時あった「品川県」に含まれていたことなどから、駅名は「品川」となったようです。

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■バスタ新宿や新宿高島屋は渋谷区にある

品川駅というランドマークがあることで、駅周辺には品川プリンスホテルや品川税務署など、名称に「品川」を冠しているのに所在地は「港区」という校閲記者泣かせの施設も多く、「品川」と名前のつくものの所在地を丁寧に確認することが必須です。

品川駅のように駅名に自治体名を使っていても、所在地がその駅名と異なる自治体になっている駅は意外と多く、目黒駅(東京都品川区)、南新宿駅(東京都渋谷区)、下板橋駅(東京都豊島区)、厚木駅(神奈川県海老名市)、四条畷駅(大阪府大東市)などがあります。

またJR新宿駅は、所在地は東京都新宿区ですが、駅構内は新宿区と渋谷区にまたがっています。新宿駅南口のあたりは渋谷区に含まれ、南口側にあるバスタ新宿や新宿高島屋の所在地は渋谷区千駄ケ谷になります。このように「新宿」も校閲する際は要注意の地名です。

このような駅や周辺施設の所在地は、鉄道職員が一つ一つ指さし確認をして事故防止に努めているのに倣い、校閲記者も一つ一つ丁寧に確認して校閲の事故を防ぎたいものです。

(2022年10月30日 新野信)

■「ら抜き」言葉を使う人がじわじわ増加中

衆議院議員選挙では新聞社が各政党に、訴えたいテーマなどのアンケートを取っていました。ある政党の回答の一部に「生きれる」という文言がありました。これは「生きられる」が文法的に適切です。

見れる、来れる、出れる……などのいわゆる「ら抜き」は、話し言葉ではむしろ普通になった感があります。事実、2021年秋に文化庁が発表した2020年度「国語に関する世論調査」で、いくつか例文を示し、普段の言い方として「来れますか」「来られますか」のどちらを使うかなどと尋ねたところ、「来れますか」が若干上回りました。同様の調査では、2015年度に「見れた」が「見られた」を逆転。そのときより今回「見れた」の比率は大きくなり、新たに「来れますか」が、「ら抜き」を使う人が多い側に加わったことになります。

複数の国語学者は「ら抜き」は日本語の乱れではなく必然的な変化だという見解を述べています。私なりにまとめると、「ら抜き」の伸長には「合理性」「歴史性」の二つの背景があります。「来られますか」だと尊敬の意味なのか可能の意味なのか分かりにくいので「来れますか」の方が選ばれる、という合理性。歴史性の面では、「行ける」「書ける」などという可能動詞は室町時代から発生したとされ、それが現在「来る」などにも及び始めたということです。

■「生きれる」を読者はどう捉えたのか

ただし、それを説明したうえで『岩波 日本語使い方考え方辞典』は「今のところ、フォーマルな場面や文章では使うべきでないという意識が強い」と記します。だから、新聞では「ら抜き」は避けています。地の文はもちろん、インタビューで話し手が「来れる」と言っても「来られる」と直して記事にしています。

テレビでも同様で、出演者が「見れる」「来れる」などと「ら抜き」を使っても、字幕では大体「見られる」「来られる」と「ら」を入れています。もっとも、どこまで直すのかはその時々の判断のようです。別の言葉ですが、あるバラエティーで番組側のスタッフが「パクった」と言ったのに字幕は「拝借した」と変えられていました。しかしその取材相手である一般の人は「パクらない」と発言そのままの字幕を付けていました。身内の発言は直していいけれど、よそ様の言ったことはそのまま記すべきだという判断なのでしょうか。

それはともかく、冒頭のアンケートはどうしたかというと、「生きれる」のまま載せました。記事に「回答は原文のまま掲載」とあったからです。とはいうものの、これを見て「政党ともあろうものが日本語を大事にしないのか」と、「ら抜き」反対派の票が逃げていくことが全くないともいいきれません。それでも原文のままにした判断がよかったのか、ちょっと気になります。

(2021年11月28日 岩佐義樹)

■「福神漬け」の読み方は2種類ある

カレーの付け合わせとして福神漬けは欠かせません。皆さんはこれを何と呼んでいますか。

「当たり前じゃん」と、愚問に思われたかもしれません。私も『決定版 天ぷらにソースをかけますか? ニッポン食文化の境界線』(野瀬泰申著、ちくま文庫)を手に取るまで、2種類の読み方があるとは思ってもいませんでした。

この本は日経電子版の読者アンケートをもとにしていますが、設問の一つに「『福神漬け』をなんと読みますか?」というものがあったのです。私は思いました。「え、『ふくしんづけ』じゃないの?」

ここで「いや、『ふくじんづけ』でしょ」と思った方、その通り。同書にも書かれてありますが「ふくじんづけ」が圧倒的に多数です。多くの辞書でも「ふくじんづけ」の読みしか示していません。

由来を調べると、この漬物は明治時代に東京・上野の「酒悦」という店の主人が創作したものだそうです。ダイコン、ナタマメ、ナス、レンコン、カブ、ウリ、シソの7種の野菜を漬け込み、上野の弁財天にあやかり七福神と命名。「他に副食がなくても済むから財宝がたまる」と宣伝したとも。だから「七福神」の「ふくじん」が本来の読みだと認めざるを得ません。

写真=iStock.com/karimitsu
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■香川出身の父の影響か、「神」の読み癖か…

ただし、先ごろ第8版が発売された『三省堂国語辞典』には、「関西などの方言」として「ふくしんづけ」も付記されています。それを裏書きするように京漬物の店「大安(だいやす)」が「ふくしん漬」という商品を出していることも知りました。つまり「ふくしん」も間違いというわけではないようです。それにしても、私は関西出身ではないのに、どうして「ふくしんづけ」で覚えていたのでしょう。

毎日新聞校閲センター『校閲至極』(毎日新聞出版)

先述の本にはアンケートに基づく日本地図があり、私の出身地、広島県では「ふくじんづけ」「ふくしんづけ」が拮抗(きっこう)しています。そして父の出身地、香川県では「ふくしんづけ」が「圧勝」とあります。父の影響? でも、父がどう呼んでいたか記憶になく、聞こうにも亡くなっています。

「神」を「しん」と読む似た例としては、村の境や峠に置かれた守り神の像「道祖神」があります――と書こうとしたところ、またしても衝撃が。「どうそじん」でした。「道祖神」が出てくる「奥の細道」の冒頭を音読もしていたはずなのに、なぜか「どうそしん」で覚えていたのです。どうも「神」を「しん」と読んでしまいがちな癖が付いてしまったようです。

毎日小学生新聞は原則としてすべての漢字に振り仮名が付きますので、校閲していると「違う」と直そうとして、念のため辞書を引くと自分の方が間違っていたということが時々あります。思い込みが崩れる衝撃は、しかし新たな発見の喜びでもあります。いささか遅いですけれど。

(2022年1月23日 岩佐義樹)

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毎日新聞校閲センター(まいにちしんぶんこうえつせんたー)
2023年現在、東京本社に東京グループ、大阪本社に大阪グループと分かれ、新聞校閲作業を分担している。校閲部→編集総センター校閲グループ→校閲センターと名称変更を経たが、その間、紙面やウェブサイト「毎日ことば」(現・毎日ことばplus)、雑誌など多様な媒体で情報を発信。ツイッター(現・X)のフォロワーは11万を超える(2023年7月現在)。著書に『新聞に見る日本語の大疑問』『読めば読むほど』(以上東京書籍)、『校閲記者の目 あらゆるミスを見逃さないプロの技術』(毎日新聞出版)。2023年に始めたオンライン講座「校閲力講座」も好評。
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(毎日新聞校閲センター)