楽天・田中将大【写真:荒川祐史】

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打線が活発だった7月のパ・リーグ、オリックスが月間首位

 7月のパ・リーグは打撃が活気づき、6月のリーグ平均打率.234、平均OPS.648から打率.250、平均OPSも.700となった。そんな月の「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出してみる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。まずは、パ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。

○オリックス=15勝9敗
打率.267、OPS.753、本塁打17
先発防御率2.93、QS率50.0%、救援防御率3.01

○西武=12勝10敗1分
打率.240、OPS.696、本塁打21
先発防御率3.30、QS率43.5%、救援防御率2.18

○日本ハム=11勝11敗
打率.233、OPS.637、本塁打14
先発防御率2.60、QS率45.5%、救援防御率3.58

○ロッテ=11勝11敗
打率.246、OPS.692、本塁打17
先発防御率4.59、QS率36.4%、救援防御率4.02

○ソフトバンク=8勝12敗
打率.223、OPS.611、本塁打15
先発防御率4.18、QS率45.0%、救援防御率3.33

○楽天=8勝12敗1分
打率.285、OPS.790、本塁打17
先発防御率3.65、QS率47.6%、救援防御率4.82

 オリックスは安定の投手力だけでなく、吉田正尚、杉本裕太郎、中川圭太、マッカーシーがOPS0.8超えと打線の主軸に活気が出て、月間で6つの貯金を作ることに成功した。また、西武は救援投手陣の防御率が2点台、日本ハムは先発投手陣の防御率が2点台と、投手陣の活躍によって安定した戦いぶりを発揮した。この混沌とした7月パ・リーグにおける、セイバーメトリクスの指標による月間MVP選出を試みる。

新人のオリックス・椋木蓮が優秀な数値も…その上を行くマー君

 投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。ここでのRSAAは「tRA」ベースで算出。tRAとは、被本塁打、与四死球、奪三振に加え、投手が打たれたゴロ、ライナー、内野フライ、外野フライの本数も集計しており、チームの守備能力と切り離した投手個人の失点率を推定する指標となっている。各チームの「RSAA」上位2選手は以下の通り。

○西武 水上由伸2.75、本田圭佑1.91
○楽天 田中将大4.68、岸孝之4.35
○ソフトバンク モイネロ3.40、千賀滉大3.15
○オリックス 椋木蓮4.36、ワゲスパック3.40
○ロッテ オスナ2.51、東條大樹2.36
○日本ハム ポンセ3.66、池田隆英2.98

 7月7日に1軍デビューしたオリックスの椋木蓮は2戦目の7月20日、日本ハム戦で9回2死まで打者28人に対してノーヒットピッチング。あと1人抑えれば、1987年の近藤真一(中日)以来の新人ノーヒットノーラン達成だったが、29人目の打者、佐藤龍世に高めのスライダーをセンターに運ばれ、大記録達成はならなかった。

 ただ7月2試合の成績は優秀で、登板2、14回2/3で防御率0.00、QS率100%、被本塁打0、奪三振率11.05、K/BB3.60、被打率.065、被OPS.222、WHIP0.55、空振り率16.7%を残している。スライダーとフォークを武器にしており、フォークでの空振り率は31%に達している。

 そして、7月のパ・リーグ投手陣の中で最もチーム貢献度が高かったことを示したのは、楽天の田中将大だ。登板4、2勝0敗、26回、防御率1.73、QS率75%、被本塁打0、奪三振率7.27、K/BB2.63、被打率.178、被OPS.504、WHIP0.92、空振り率10.9%。打たれた打球の58.6%がゴロ打球と、しっかり打ち取った投球内容が光った。勝ち星には恵まれなかったが、7月のセイバー目線で選ぶ月間MVPに推薦する。

打者は楽天・島内宏明とオリックス・吉田正尚のハイレベルな争い

 打者部門の評価としては、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。各チームの上位2選手は以下の通り。

○西武 森友哉6.41、山川穂高4.77
○楽天 島内宏明8.73、茂木栄五郎4.75
○ソフトバンク 柳田悠岐3.91、甲斐拓也3.08
○オリックス 吉田正尚8.55、杉本裕太郎6.73
○ロッテ 荻野貴司7.73、岡大海4.42
○日本ハム 松本剛4.83、近藤健介3.38

 7月のパ・リーグの打者記録を見てみると、以下の2選手が拮抗している。

○島内宏明 80打数28安打、打率.350、本塁打3、OPS.961、BB/K0.77
○吉田正尚 87打数28安打、打率.322、本塁打4、OPS.982、BB/K1.58

 公式の月間MVPではオリックス月間首位の立役者として吉田正が選ばれる可能性が高いだろうが、最も「wRAA」が高くチームへの貢献が大きかったという意味で楽天の島内を推したい。勝利確率を上昇させる場面で効率的に結果を残した島内宏明を、セイバー目線で選出する7月の月間MVPパ・リーグ打者部門に推薦する。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせなどエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。