『〈メイド・イン・ジャパン〉の食文化史』(畑中三応子之 著)春秋社

 今年の8月、農林水産省が公表した2019年度の食料自給率(カロリーベース)は38パーセント、前年度比1ポイント上昇だがその比較の対象である2018年度の自給率が過去最低とされているのだから、頼りない数字であることに変わりはない。

 本書は、今世紀になってから急激に進んだ「国産食品」「日本食」礼賛の傾向がいかにして形成されたかを検証したものである。

 近代日本では急激な人口増加が生じ、比較的自給率が高い米にしても明治30年代には他国から輸入せざるを得なくなった。

 さらに台湾や朝鮮を植民地化してからは、米供給の海外への依存はさらに大きくなった。その結果、日本人の味覚に合わないインディカ米輸入で生じた「外米」への悪印象が後の国産食品志向の一つの原点となる。

 一方で、やはり明治後期に、食生活の西欧化を批判し、その土地でできたものを食べるのが健康への道だという食養生の思想も勃興し、後世の自然食や粗食の礼賛を準備することになる。

 敗戦で植民地を失ってからは不足分の食料をアメリカからの移入で賄う時期が続き、日本はアメリカの余剰農畜産物処理の場となる。これにより乳製品、パン、パスタなどの消費が増え、食の西欧化が一気に進む。

 だが、1950〜70年代にかけて粗悪な食品添加物や公害による食品汚染の危険性が周知されるにつれ安全な食べ物に対する消費者の希求は強まった。

 また、食べ物と健康の関係への関心が高まるにつれて、戦前の食養生の流れをくむ健康法がリバイバルし、それが1980年、政府の食糧安全保障(自給率増大)政策の中で生まれた「日本型食生活」という言葉と結びつくことで日本食は健康的だというイメージが生まれた。

 さらに80年代から90年代前半のグルメブームの中で国産食品は美味で安全というイメージを付与されてブランド化が進む(その典型例が高級和牛)。

 つまりは現代日本における日本食・国産食品礼賛は、食の自給が困難という現実からの逃避として形成されたものだというわけだ。

 興味深かったのは1977年にアメリカ政府が国民に食生活改善を訴えた「マクガバンレポート」のくだり。単にカロリー・脂質・塩分などの過剰摂取を控えるよう勧める内容で日本にはほとんど言及していないこの報告が、日本では日本型食生活の優位を記した文書として宣伝されてしまったという。

 さて、本書では、日本の食糧管理の脆弱さを批判するとともに、食糧交易の活発さが、食文化の多様性という長所にもつながっていることを指摘する。日本食の「伝統」にこだわると日本の食糧事情の短所も長所も見逃すことになる。食の全体像を俯瞰する上で読まれるべき一冊である。

はたなかみおこ/1958年、東京都生まれ。「暮しの設計」編集長などを経て現在、編集者・食文化研究家。2019年、「食生活ジャーナリスト大賞」ジャーナリズム部門大賞受賞。

はらだみのる/1961年、広島県生まれ。出版社勤務などを経て、偽史研究家。『江戸しぐさの終焉』『偽書が揺るがせた日本史』など。

(原田 実/週刊文春 2020年9月24日号)