「お待たせいたしました。お待たせしすぎたかもしれません」。

そんな独特のセリフを駆使する、伝説のAV監督・村西とおるの半生を描いた『全裸監督』。

8月8日にNetflixオリジナルドラマとして配信が開始されると、SNSを中心に話題が沸騰。あちこちで、あいさつがわりに「全裸監督見た!?」という会話が交わされました(よね?)。

新R25では今回、村西とおる監督へのインタビューに成功。

世間が眉をひそめる活躍をつづけ、幾度もの逮捕や莫大な負債から立ち上がった男に、「不屈の精神」の源を聞きました。

〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉


村西とおる(むらにし・とおる)】1948年生まれ。福島県出身。英会話教材のセールスマンとして優秀な成績を残し、1970年代には「裏本」の制作・販売で財をなし、「ビニ本の帝王」と呼ばれる。1984年からはAV監督として活動。白ブリーフ一丁に、カメラを担いで自ら撮影を行い、数々の独創的な作品で話題を集める。本橋信宏著『全裸監督 村西とおる伝』を原作としたドラマ『全裸監督』が2019年8月よりNetflixで配信され、再び注目を集めている

過去7度の逮捕からの再起…。村西監督はなぜへこたれないのか?

村西監督:
ハイッ! お名前は天野さん? じゃあアマちゃんだね。アマちゃん、参りましょう!

天野:
アマちゃん…


すぐあだ名を付けてくる監督

天野:
今日はインタビューと写真撮影をお願いしたいと思ってまして…

村西監督:
OKOK! でも撮影は、当たり前のアングルで撮っちゃダメ

人を撮るときはね、普通の目線じゃなく、地面に這いつくばって撮るぐらいじゃないとダメなんだよ! ほら、やってみましょう!


やっぱムリがありすぎるのでこの後は普通に撮影します

天野:
気を取り直して…『全裸監督』すごい人気ですね! 迫力ある映像にも圧倒されましたが、監督の経歴を知って驚きました。

これまでに7度も逮捕されるとか、借金が50億円あったとか…

R25世代に向けて、監督のような「へこたれない精神」の持ち方を教えてほしいです。

村西監督:
いいでしょう!

若い人はね、何があっても落ち込む必要なんてないんです。なぜなら、絶望するということは、生きるのをやめることだからです!

精神が落ち込んでいたら挑戦できなくなるでしょう。挑戦しないことは、生きるうえで何よりのリスクなのです。


めちゃくちゃテンション高く話しはじめた監督。“あの口調”で脳内再生してください

天野:
監督は1986年にはFBIに逮捕されて、懲役370年を求刑されたと聞きました。

そんなときも落ち込まないんですか?

村西監督:
そうです! そういう経験から、「ネガティブになることに何の価値もない」ことを知ったんです。



村西監督:
たしかに、懲役370年の求刑をされたり、何度も捕まって前科7犯にまでなったりしている。私は“おぞましい人間”なんです

世間様からは「常識がない」「恥知らず」とも言われつづけてきました。ハンディキャップがある人間ですよ。

天野:
誇ることのできないハンディキャップを抱えていると。

村西監督:
でも、人間にとってハンディキャップとは武器なんです!

恥知らずだからこそ、「はいっ、恥知らずでございますよ!」とンツ一丁でイボ痔のア○ルをお見せしても平気なんですよ。


(イボ痔なのか)

村西監督:
私が常識的に生きている、逮捕歴がない人間だったとしましょう。それでどうなります? ただの古希(70歳)のオヤジがいるだけですよ。そうでしょ?

でもそれは私だけじゃない。みんなそうです。おぞましいハンディキャップがあるから、「ただの人」じゃなくなるんです。

「異端であることで、はじめて生きていける武器ができる」んです!

天野:
世間的に見て異端だったり劣っているところがあったりしても、落ち込む必要はないということですね。

村西監督:
そうです。あなたさまのまわりに、前科7犯の人間なんていますか?

 いないでしょう?私なんて、前科7犯のおかげで、前科2犯、3犯という人たちからは憧れの視線で見られているんです

前科者のアイドルと言われてるんですよ。


そんなアイドルがいたとは…

「自分の恥ずかしい部分」をさらけ出せるのはなぜ?

天野:
「腹を割って恥ずかしい部分をさらすことで、面白い人間になれる」「信頼される」という話がありますが、難しいですよね…

監督が自分をさらけ出せるのはなぜなんでしょう? 人前で露出したりすることも、最初から抵抗なかったんですか?

村西監督:
抵抗? ありましたよそりゃ!


あったんだ!!!

村西監督:
それでもなぜパンツ一丁になれたか?と言えば、「自分の人生だから」ですよ。

自分の人生だから、自分でやるしかないの。

天野:
自分の人生…

村西監督:
私がはじめて男優として人前でパンツを脱いだのは、裏本時代です。

裏本でカラミ撮影があるんだけど、当時はちゃんとした男優なんていなかったからね。ヤクザ者を連れてきてやらせたけど、真珠なんか入れてる割には勃たないんだよね!

そこで他人事のように「じゃあできませんでした」と終わっていいのか? 自分がパンツを脱いででもやってやろうと思うのか? 自分の人生を生きるというのはそういうことなんです。

天野:
当事者意識があるからこそ、できる限りのことをやろうとして当然だってことなんですね。



いろいろな職を渡り歩いた監督。自分の天職ってどうやって探せばいいですか?

天野:
監督は英語教材のセールスマン、ゲーム機の販売などを経験し、天職といえる「AV監督」になったんですよね。

「自分の天職」が見つからずに悩む人も多いと思うんですが、自分に合った仕事の探し方などはあるんでしょうか?

村西監督:
みんなよく「自分探しの旅」に出るなんて言うでしょ。アンポンタンかって話ですよ!

地球の裏側まで行ったって、自分なんて見つかりませんよ。



天野:
じゃあどうしたら…?

村西監督:
いいですか? 「自分がどういう人間なのか」を決めるのは自分じゃない。他人なんですよ!

他人に「お前さんの仕事はすごいよ」「この仕事に向いてるよ」と評価されることによってはじめて、「なるほど! 俺という人間はここがすごいのか」とわかる。

自分が何者なのか?は他人が規定してくれるんです


チラッ

村西監督:
(名刺を見ながら)この『R15』が面白いかどうかも、他人が見て「面白いね」と言ってくれるかどうかで決まる。そうでしょ?

天野:
25です…

その通りですね。

村西監督:
私のような恥ずかしい人間でも他人様(ひとさま)に誇れることがあるとするなら、それは感動してくれた人の数ですよ。

他人様に流させた“しずく”を集めれば、山田洋二監督や黒澤明監督より私のほうが多いかもしれない。

しずくの種類は違っても、感動にラベルやレッテルは貼れませんからね。


しずくってそういうことか…

批判に対してはどう思っているのか?

天野:
監督は、これまで多くの批判にさらされてきたそうですが、落ち込むことはないんですか?

最近も『全裸監督』人気の一方で、一部にバッシングが起きています。それに対してはどう受け止めているんでしょうか?


※AV女優・黒木香さんが、引退後の消息を追う雑誌記事に対してプライバシー・肖像権の侵害だとして訴訟を起こしていることから、『全裸監督』にキーパーソン的に登場させることの是非が議論を呼んでいる。また、村西監督をはじめ、当時のAV業界が女性に出演を強要していたとして、エンターテインメント的に扱うべきではないのではという批判も

村西監督:
それは落ち込むというより、むしろ人々の、AVに対する根強い偏見を感じますよ。

AVが女性の性を搾取している、という人もいるけど、必ずそうだとは言えないと思う。

たとえば黒木香さんがテレビなどのメディアに出はじめたとき、世間様からは「女として最低だ」などと言われていたんです。当時、オープンに性について話す女性への偏見はとんでもないものがあった



村西監督:
引退後、黒木さんが雑誌社を相手に訴訟をおこしたのは、メディアから引退して一個人になったのに記者たちが盗撮したり、インタビューを強要したりしたから、それを訴えた。自分の肖像権を守ったんです。

天野:
なるほど…

村西監督:
今、『全裸監督』の作中ですら彼女に触れてはいけない、というのは「彼女はAVに出たことを後悔している、恥ずかしいと思っているはずだ」という決めつけでしょう?

彼女は何も言ってないのに、「AVに出た人や関わった人は、その事実を恥ずかしいと思っているに違いない」という前提で批判している。これが偏見でなくて何なんでしょうか?

私はそう思います。


急に答えにくい質問をしてしまいましたが、ありがとうございます

「お金があったら将来の不安がなくなるというのは、間違い」



天野:
ここからは、監督の「お金」について聞かせてください。監督は、自身の会社が倒産して50億円の負債を抱えたんですよね?

その経験から、R25世代に教えたい「お金の哲学」はありますか?

村西監督:
ビルも、エレベーター付きのクルーザーも、3億円のピンクダイヤも買ったけど、今につながっているものは何もないね。

天野:
ないんですか…

村西監督:
でも、お金があったってロクなもんじゃないということは学ぶことができた。

なんでみんなそんなにお金がほしいんですかね?

天野:
なんでって、やっぱり将来への不安があるからですね。


「それで言うならね…」

村西監督:
お金があったら不安がなくなるというのは、ハッキリ言って間違いですね。

逆ですよ。人間はお金があると情緒不安定になってしまうんです。

私なんかも根が怠け者だから仕事しなくなっちゃうしね。

天野:
お金で不安はなくならない? なぜですか?

村西監督:
お金を持ったって、尊敬されないからです



村西監督:
○○○○○の○さんとか、○○○○の○○さん(※どちらも、日本を代表する経営者でお金持ち)を見てごらんなさい。

何兆円もの財産があるのに、別に尊敬されてないでしょう? 申し訳ないけどね。

天野:
え? どうですかね…(汗)

村西監督:
人間って、お金を持ってて羽振りがいい人を見ても、「この人は運がいいだけだ」って思っちゃうものなんですよ。「それがなんだ! 宝くじに当たったようなもんじゃないか」と。「あの人は、人の5〜6倍働いてえらい」って素直に思ってくれる人なんていないのです。

大金を持ってても、あの世にティッシュ1枚持っていけないんだから、かえって気が狂うってもんですよ。

私も、80年代にはお金があって調子に乗っていた。それが、倒産したとたんにまわりに誰1人いなくなったもの。


時折めちゃくちゃ悲しい目をする監督

天野:
だとしたら、どうやったら尊敬されて、情緒が安定するようになるんですか?

村西監督:
私は本当に恥知らずで、尊敬なんてされる人間ではないかもしれないけど、関わっている人を笑顔にすることですよ。



村西監督:
若い人が仕事や私生活で失敗するでしょう。そのときは、私のことを見てくださいよ。

いくら借金があったって、50億円ほどじゃないでしょう? 失敗したって、前科7犯なんてことはないでしょう(笑)。

下には下がいると思って、笑ってもらえればいいんです。



「落ち込んだら、前科7犯と比べてみて」なんて言えるのは、村西監督ぐらいしかいないでしょう。

とにかく人を圧倒するペースで喋りまくる、御年71歳の監督にパワーをもらいました。

繰り返しおっしゃっていたのが、本文中にも出てきた「人生において、挑戦しないことが何よりのリスクだ」ということ。

読者の皆さんも失敗に落ち込んでしまったりしたら、“パンツ一丁でア○ルを晒す”つもりで、挑戦を続けていきましょう!



〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=池田博美(@hiromi_ike)〉

前科7犯、借金50億「全裸監督」のモデルとなった伝説の男のドキュメンタリー「M/村西とおる狂熱の日々」

11月30日(土)テアトル新宿、丸の内TOEIほか、全国順次本番開始!(配給:東映ビデオ)