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「ついに『ポツンと一軒家』が視聴率20%を突破した」テレビ朝日が大々的にそう発表しても、なぜか業界関係者は冷ややかだ。その理由が「視聴率」の内情を細かく分析することで見えてきた。

広告収入はなぜか減少

〈編成部から嬉しいお知らせです。昨日の『ポツンと一軒家』の視聴率が20%を超え、ゴールデンで断トツのトップを獲得しました〉

東京・六本木のテレビ朝日本社では今年4月以降、午前10時になるとほぼ連日、こんな景気のいいアナウンスが、番組名と数字を替えて館内に響き渡る。

テレ朝の視聴率(ビデオリサーチ社調べ、関東地区。以下同)はここ数年、朝のワイドショー『グッド!モーニング』『羽鳥慎一モーニングショー』や人気ドラマ『相棒』『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』、バラエティ『ポツンと一軒家』などを起爆剤に絶好調。

開局60周年記念の連続スペシャルドラマ『白い巨塔』が放映された5月第4週は6時から24時(全日)、19時から22時(ゴールデン)、19時から23時(プライム)の3つの時間帯ですべて1位となり、日テレを抜いて「視聴率週間三冠王」に。23時から翌1時までのプライム2を入れると「週間四冠」となった。

これを受けて今年度第1四半期(4−6月)の世帯視聴率は7.5%と、5年連続トップを走る日本テレビと肩を並べた。このままいけば「年間視聴率での三冠」という宿願も達成可能。だが、テレ朝社内からはこんな声が聞こえてくるのだ。

「視聴率は伸びているのに、広告収入が落ちている。営業部門の人間は、『いま、テレ朝はリーマンショック級の深刻な事態に見舞われている』と認識しています」

こう明かすのは同社の営業部門の幹部だ。テレ朝は'19年3月期の連結決算で民放5社の中で唯一減収減益。

それ以降も不振は続いており、今年度のスポット収入(番組に関係なく流れるCMの総収入)は4月に前年同月比5.3%減、5月に同5.5%減、6月に同9%前後の減少見込みと、月を追うごとに減少幅が拡大しているという。

詳細は後述するが、今回本誌が入手した内部資料に目を通せば、視聴率が上がっているにもかかわらず、業績が振るわない理由が浮き彫りになる。

実はテレ朝が好調だと喧伝する視聴率は、テレビ所有世帯のうちの「何世帯がその番組を見たか」を示す「世帯視聴率」のこと。'62年に導入された指標で、あるテレビ番組が、一定の地域内のどれだけの世帯で見られたかを示す数字だ。

かつてはこの数字こそが絶対的なものとされてきたが、一家そろってテレビを見ていた時代に比べ、いまは「テレビは一家に複数台」「家族それぞれが異なる時間帯に異なる番組を見ている」という状態が当たり前。

「世帯視聴率にはテレビ視聴の実態が正しく反映されていない」とまで言われている。

高齢層に支えられるテレ朝

そこでテレビ番組の視聴率を調査するビデオリサーチ社は、テレビ所有世帯のうち、その番組を「その家庭内で何人が見たのか」を示す「個人視聴率」調査を導入。これによって各番組の視聴者の性別や年齢層まで正確に算出されるようになった。

テレ朝とは別の民放キー局幹部が解説する。

「数年前から『世帯視聴率ではなくもっと正確な数字を出してほしい』というスポンサー企業からの要望が強くなった。

テレビ局のなかには反対する声もあったが、昨年4月より、個人のリアルタイム視聴率に、CM枠を含めた放送後7日以内の録画視聴率を加えた新たな数値が使われるようになった。

スポンサーが民放キー局5局にスポット広告を出稿する際の指標にするのは主にこちらの数値です。10月からは、関西地区と中京地区でも利用が始まります。個人視聴率の計測は来年4月以降、全国に拡大するため、新指標の利用も拡大する見通しです」

テレビ局がつまるところ、スポンサーからの広告料で成り立っているのは、いまも昔も変わらない。スポンサーが重視する「個人視聴率」で見た場合、絶好調のテレ朝はどう評価されるのか。

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本誌が入手したテレ朝の内部資料('19年4月1日から7月9日までの世帯および世代別視聴率表)をもとに、まずは世帯視聴率を見てみよう。

6時から24時(全日視聴率)ではテレ朝が7.5%、日テレが7.5%とタイ。19時から22時(ゴールデン)ではテレ朝10.5%、日テレ11.1%と日テレが僅差で勝利。

19時から23時(プライム)、23時から翌1時(プライム2)ではテレ朝がそれぞれ10.6%、5.3%、日テレが10.8%、6.1%。全日を除いて日テレが勝ってはいるが、差はわずか。

このところ数字を伸ばしているテレ朝が「日テレを抜いて年間視聴率三冠!」と意気込むのもわかるだろう。

しかし、「世代別の視聴率」でみると、まったく事情が違ってくる。たとえば20歳〜34歳の女性の視聴率。テレ朝は4つの時間帯(全日、ゴールデン、プライム、プライム2)で〈1.1%、2.3%、2.3%、2.1%〉。

一方の日テレは〈4.3%、7.4%、7.4%、4.0%〉と、テレ朝は大きく水をあけられているのだ。

35歳〜49歳の女性も同様で、テレ朝が全日2.9%、ゴールデン4.9%、プライム5.1%、プライム2で3.7%であるのに対して、日テレがそれぞれ5.9%、9.0%、8.9%、5.0%、とここでもはっきりと差がつく。この傾向は同じ年齢層の男性でもまったく変わらない。

これが50歳以上の男女になると、形勢は完全に逆転する。まずは男性50歳以上。テレ朝がそれぞれ〈5.9%、8.0%、8.1%、3.0%〉に対して、日テレが〈3.9%、6.2%、5.8%、2.7%〉。テレ朝の完勝だ。

女性50歳以上でも、テレ朝は〈7.2%、10.6%、10.4%、3.4%〉。日テレは〈5.6%、8.1%、7.8%、3.9%〉と、23時から翌1時台を除いてテレ朝が大きく勝利。つまり、テレ朝の好調を支えるメインの視聴者層は、男女とも50歳以上なのだ。

局員たちの危機感

さらに具体的な番組を例に挙げて比較してみよう。「日曜夜の日テレの鉄板ラインナップに風穴を開けた」と話題になった、テレ朝の『ポツンと一軒家』(制作は朝日放送テレビ)。

日テレの『世界の果てまでイッテQ!』を上回る高視聴率を常に獲得するようになったといわれるが、確かに内部資料を見ても、7月7日の世帯視聴率は『ポツン』が20.6%と、『イッテQ』の16.6%を4ポイント上回っている。

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ところが、世代別の数字を見ると、女性20歳〜34歳では2.6%対11.9%、男性20歳〜34歳では0.9%対10.0%と、『イッテQ』の圧勝となるのだ。その上の世代をみると、女性50歳以上では23.1%対9.0%、男性では21.0%対10.1%と、再び『ポツン』が逆転する。

テレビ朝日の「好調」は、高齢の視聴者に支えられてのもの、ということがはっきりするだろう。下の表を見るとわかる通り、この傾向は朝の番組『モーニングショー』と『スッキリ』でも同じだ。

世代に偏りがあるとはいえ、長らく「視聴率万年4位」と揶揄されてきたテレビ朝日が、『科捜研の女』『相棒』『アメトーーク!』などの人気番組を続々と立ち上げ、著しく数字を伸ばしてきたのは事実。

若者に比べて、50代以上の層は番組に安心感を求める傾向が強い。時にマンネリと言われても、安定的に高視聴率を稼げる番組を作ってきたのは、テレ朝の最大の強みだ。

しかし、スポンサーの見方は厳しい。テレ朝の営業局の社員が明かす。

「商品を買い替えることも少なく、嗜好も保守的な年配視聴者より、消費意欲が旺盛で、かつ『長く自社製品のファンになってくれる若者向けに広告を出したい』とスポンサーが思うのは当然。

特に、20歳〜34歳、35歳〜49歳の女性に向けて広告を流したいと思っているクライアントが多い。個人視聴率が新しい指標として広まる中で、うちへの広告出稿について見直す企業が現れています」

実際、「家庭用品」や「事務機器・事務用品」、「化粧品」といった若い年齢層向けの消費財メーカーが、テレビ朝日への広告の出稿を見送る傾向があるようで、「'19年1〜3月期の家庭用品のスポット収入は、前年同期比の60.0%、化粧品・トイレタリーは80.3%と激減しています」(同前)

良い番組を作っても、若い世代に観られなければおカネになりづらい。これが、テレビ朝日を襲う「視聴率好調でも苦境」の内情なのだ。

同局の中堅社員は、「業績に連動しているボーナスは今年夏、30歳で前年比12%減、管理職では同15%も減少しました。数字(視聴率)は絶好調のはずなのに……」とボヤき、さらにこう続ける。

「早河洋会長兼CEO(最高経営責任者)をはじめとする現経営陣は、『ポツン』の世帯視聴率が『イッテQ』を抜いたと大喜びしていますが、営業・制作の現場は現状に強い危機感を覚えている。

他局は『これからは世代別視聴率が重要だ』と、方針転換をはかっているなか、テレ朝だけが『ポツンと一局』目先の数字を追っている、ということになるのでは……と危惧しています」

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一方の日テレは「テレビ朝日の猛追」をどう受け止めているのか。日テレの局員が明かす。

「『イッテQ』をはじめ、うちの番組は若い世代が観てくれているうえ、録画で観ている人も多いというデータが取れているので、上層部は『広告収入もしっかり確保できる』と自信をもっています。

しかし現場には危機感も漂っている。いままでは『5年連続視聴率1位』という看板があったから、広告営業もやりやすかった。もしも陥落すれば『1位だから』と広告を出してくれていたクライアントが離れることだって考えられます」

この局員はさらにこんな「懸念」を明かす。

「テレ朝に抜かれることはもちろん、そもそもまったくテレビを見ない若者が増えていることに危機感を募らせています」

視聴率戦争の終焉

この懸念は杞憂ではない。今年6月12日、幕張メッセで行われた「コネクテッドメディアトーキョー2019」。

メディアのキーマンたちが集まるこのイベントで、「これからの放送はどこに向かうのか」という基調講演に登壇したNHK放送文化研究所の村上圭子・研究主幹が〈テレビはもはや高齢者のメディアになった〉と衝撃的な猗表瓩鮃圓辰燭里澄

出席したキー局の局員が明かす。

「NHKが行った様々な調査結果が発表されたのですが、世代ごとに『毎日テレビを観ている人』の割合を調べた結果、60代以上は73%、50代以上は67%と高い数値だった一方で、20代は40%しか観ていないことがわかったといい、さらに、録画でもネットでも『テレビ番組をまったく観ない』と答えた割合が、10代で14%、20代で18%、30代でも13%にも上ったというのです。

若者がテレビを観ていない、と数字ではっきりと突き付けられると、暗澹たる気持ちになります」

若者のテレビ離れそのものを食い止められなければ、どのテレビ局にだって危機は訪れる、ということだ。

視聴率三冠の座をかけて、デッドヒートを繰り広げるテレ朝と日テレ。しかし、こうした争いが注目を集めるのも、これが最後かもしれない。次世代メディア研究所代表の鈴木祐司氏が指摘する。

「今後、インターネットに接続したテレビの普及に伴い、単純な視聴率ではなく、何歳の人が何分その番組を見たか、はもちろん、どれぐらい真剣に見たか、までわかるようになります。

クライアントの着目点が変わってきているのに、昔ながらの視聴率を持ち出して三冠になった、追い抜かれたと一喜一憂しても、それがどうしたの?と言われるようになるかもしれない。

テレビ局が60年間しのぎを削った視聴率競争は、間もなく終わりを迎えるのではないでしょうか」

混迷の時代に、答えをいち早く映し出すのはどのテレビ局か。

「週刊現代」2019年7月27日号より