ミネラルウォーターやサプリメントなどが毎月一定数届く「定期配送サービス」を、契約期間の途中で解約する人がいる。兵庫県立大学国際商経学部の川上昌直教授は「継続的な収益を確保するためには、ただ商品を送りつけるだけではなく、ユーザーとの『つながり』をつくることが重要だ」と指摘する――。

※本稿は、川上昌直著『「つながり」の創りかた』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/KLH49)

■サブスクはものづくり企業にとって「劇薬」

サブスクリプション(定額制)に代表されるような継続的な収益を実現するリカーリングモデルは、課金を変えるだけでは不十分です。ビジネスモデルを変えたわけではなく、収益の取り方を変えただけになってしまうからです。サブスクリプションについて少し調べただけでも、収益が多角化できたり、継続したりと、経営者にとっては魅力的な文言が並びます。

しかし、特に製品を割安で売り、単品の利益を積み重ねる「売り切りモデル」で成果をあげてきた企業にとって、リカーリングモデルは劇薬です。正しく使わなければ、取り返しのつかないことになる可能性があります。

そこで、必要なのはビジネスモデルの本質を捉えること。基本に立ち返りましょう。論者によりまちまちですが、ここではビジネスモデルを以下のように定義します。

ビジネスモデルとは、ユーザーに価値を与えながら、企業が利益を得る仕組み

ここで対象を「顧客」ではなく、「ユーザー」としているのは理由があります。売り切りモデルでは疑う余地のなかった「顧客」の定義が曖昧になってきているからです。顧客は代金を支払ってプロダクトを購入し、利用する(している)人物を指します。しかし、デジタル化の進展によって、自身が利用するプロダクトの代金を、他者(あるいは他社)が支払っていることが多く見られるようになりました。売り切りモデルでは考えられなかったことです。

■価値提案を考えないビジネスモデルは危険

たとえば三者間市場(広告モデル)では、ユーザーの代金を、広告主が支払います。また、製品は無料、高度な機能は課金するというビジネスモデルのフリーミアムでは、無料ユーザーの代金を有料ユーザーが支払います。その証拠に、あなたのスマートフォンに入っているアプリを確認してください。お金を払っているものは、ほとんどないでしょう。そのため、ここでは「顧客」ではなく「ユーザー」という言葉を使うことにします。

話を戻しましょう。こうしたビジネスモデルの概念をもとに、リカーリングモデルを見つめ直せば、本質的な問題が見えてきます。リカーリングモデルは、収益化(マネタイズ)の仕組みにすぎないのです。その前提には必ず、ユーザーへの価値提案が存在しています。マネタイズの仕組みのみを充実化させても、肝心の価値提案がそれに対応していなければ、ビジネスモデルとして正常に機能しないのです。

価値提案に配慮しないマネタイズの強化は、危険きわまりない行為です。もし、それを考えずにマネタイズを変更してうまくいったとしたら、偶然にも、元の価値提案とマネタイズがマッチしていただけなのです。

■ユーザーが求める「つながり」という価値とは

もちろん、売り切りモデルでも、これまでユーザーに何らかの価値を提案してきたはずです。ただし、売り切りモデルの場合、「価値」の提案ではなく、「プロダクト」そのものの提案だったといってもよいでしょう。たくさんの機能を盛り込んだ、モノとしてのプロダクトや、使い勝手の良いソフトウェアのようなサービスとしてのプロダクト、あるいは高度専門職が提供する専門技能としてのプロダクトなどです。

そして、プロダクト提供時に、ユーザーが代金を支払うことで完結。この時点でマネタイズしてきました。しかし、リカーリングモデルにおける価値提案は、「プロダクト」そのものの提案では不十分です。単に販売で終わらせず、ユーザーのジョブ(用事)を見極めて、それを達成するために伴走しなければならないのです。その過程で点在するタッチポイントを捉えて、どこかで課金を実現していくのです。

ユーザーが企業とのつながりを感じない限り、収益が繰り返すことはありえません。つまり、「プロダクト」から「つながり」へと、価値提案を改めなければならないのです。ユーザーと継続的な関係を結んでいるから、収益が継続するのです。企業は、ユーザーが自身の目的を達成するために、寄り添わなければなりません。継続的な収益は、まさに継続的な関係によって裏づけられているのです。

そのため、企業がやるべきことは、まずユーザーの活動を認識し、その中で企業が補助できるタッチポイントを積極的につくることです。しかも、タッチポイントのすべてでユーザーの期待を上回ることが重要なのです。

こうした一連のユーザーとの関係性を「つながり」と呼びます。図表1を見てください。つながりは、特に購入以降のユーザーの活動で発生します。そこにコストをかけて手当てしていくことが、リカーリングモデルには不可欠なのです。

■定期配送サービスが途中で解約される理由

あなたの企業は、ユーザーとのつながりについて、どのように考えてきたでしょうか。売り切り企業にとっては、むしろコストをかけないポイントではなかったでしょうか。ただでさえプロダクトのコスト削減が厳しい状況で、購入以降のユーザーとのつながりにコストをかけることなど、考えられないのではないでしょうか。

残念なことに、リカーリング的な企業にも、これはいえます。水やサプリメントなどの定期配送型のビジネスをしていても、実際には販売以降のケアをしていないことが多いのです。ユーザーの活動を認識せず、単に送りつけるだけ。ユーザーが何をしてほしいのかを共有していないので、配慮も感じられません。ケアしているという企業も、せいぜいクレームを受けるコールセンターを設置しているくらいです。

その結果、ユーザーは目的を見失い、せっかくあなたの企業のプロダクトを使っていたのに、解約してしまうかもしれません。リカーリングモデルを採用する企業において、解約や離反は命取りです。販売後にこそコストをかけるべきですが、その重要性を理解していない企業が数多く見受けられるのです。

たとえば保険業は、ユーザーとの関係が販売後に始まる意味で、もともとリカーリングのビジネスモデルです。しかし、そのことを理解していないセールスパーソンが多いので、リカーリング的なものに終始してしまいます。これでは、せっかく契約したユーザーも解約したくなるでしょう。

■ユーザーとの継続的な関係が収益につながる

ところで、売り切りモデルにおいても、リカーリングモデルのように、販売以後もユーザーとの関係を保ち、収益の継続をねらった考え方があります。それが、ユーザーの「生涯価値」(LTV=Life Time Value)です。LTVのテーマは既存ユーザーにたくさん購入してもらうため、ユーザーが生涯にわたってその企業からプロダクトを買い続けてもらうためにどうするかを検討することです。

川上昌直『「つながり」の創りかた』(東洋経済新報社)

ただし、売り切りモデルでLTVへの取組みをうまく実現できている企業は、実際のところそう多くはありません。なぜなら、販売した時点が企業のゴールと捉えているところが多いからです。LTVを検討するほうが良いことはわかっていても、目先の売り切りに奔走するうち、LTVへの取組みを実行しきれず、ただ販売してゴールを迎えてしまうのです。

見方を変えれば、売り切りモデルは、販売後もユーザーと関係性を継続することが必要条件ではないともいえるのです。

しかし、リカーリングモデルは違います。リカーリングモデルは、販売後も継続してユーザーと関係性を持つ、すなわち「つながり」を考えることが必要条件なのです。ユーザーとの継続する関係こそが、継続する収益の源泉になるのです。

リカーリングモデルでは、プロダクトの販売そのものでは利益回収を期待せず、ユーザーの利用期間や支払いに応じて収益をつくります。いったん導入を決めれば、その後は必要に応じてユーザーが自発的に利用し、支払いをするので、収益が継続します。

もちろん継続して利用してもらうためには、ユーザーにとってメリットのあるサービスや手当てが必要です。いずれにしても、次々とプロダクトをつくっては、薦めて販売して利益回収する、その繰り返しをする売り切りモデルとは、根本的にビジネスモデルが違っているのです。

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川上 昌直(かわかみ・まさなお)
兵庫県立大学国際商経学部教授
1974年大阪府生まれ。福島大学経済学部准教授などを経て、2012年兵庫県立大学経営学部教授、学部再編により現職。博士(経営学)。「現場で使えるビジネスモデル」を体系づけ、実際の企業で「臨床」までを行う実践派の経営学者。専門はビジネスモデル、マネタイズ。初の単独著書『ビジネスモデルのグランドデザイン』(中央経済社)で日本公認会計士協会・第41回学術賞(MCS賞)を受賞。『「つながり」の創りかた』(東洋経済新報社)、『ビジネスモデル思考法』『マネタイズ戦略』(いずれもダイヤモンド社)など著書多数。

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(兵庫県立大学国際商経学部教授 川上 昌直 写真=iStock.com)