by sydneycbd

犬はとても表情豊かな動物であり、眉を内側に寄せるようにして哀れみとかわいらしさを感じさせる「子犬のような目」で見つめられると、ついつい甘やかしてしまいたくなります。そんな犬はオオカミが家畜化した動物と考えられていますが、人間に飼われるようになった際に、目を感情豊かに動かせるように進化したという研究結果が発表されました。

Evolution of facial muscle anatomy in dogs | PNAS

https://www.pnas.org/content/early/2019/06/11/1820653116

Dogs Evolved Sad Eyes to Manipulate Their Human Companions, Study Suggests

https://www.livescience.com/65738-how-dogs-evolved-sad-eyes.html

'Puppy Dog Eyes' May Have Evolved Just to Make Humans Melt - And It's Working

https://www.sciencealert.com/dogs-evolved-special-muscles-around-their-eyes-just-to-communicate-with-humans



犬はおよそ3万3000年前から人間のパートナーであったという研究結果があるほか、人間には「犬を飼いやすくなる遺伝子が存在する」といったことも明らかになっています。ポーツマス大学の行動心理学者であるジュリアン・カミンスキー氏は、そんな犬が人間に見せるかわいらしい表情は、オオカミから進化して新たに身に付けた能力であることを確かめる研究を行いました。

過去にカミンスキー氏らの研究チームは、「犬は人間が自分の方を向いている時により表情豊かになる」という研究結果を発表しています。この結果は、「人間は犬のかわいらしい表情に弱い」ということを犬が理解しており、人間がこちらを向いている時に意思疎通を図ろうとしていることを示しているとのこと。

今回カミンスキー氏らはすでに死んでいる4頭のオオカミと6頭の犬を解剖し、目の付近の筋肉がどのように発達しているのかを調べました。すると、オオカミは眉などを動かす筋肉がほとんど発達していなかったのに対し、犬では6頭中5頭が強く眉を持ち上げたりして目の付近を動かすことができる筋肉を持っていることが明らかとなりました。なお、犬の中でも目付近の筋肉が発達していなかったのは、オオカミに近い犬種といわれるシベリアン・ハスキーでした。



実際に解剖を行ったデュケイン大学のアンネ・バロウズ氏は、「犬の眉から内側の動きは、犬に最も近い存在であるオオカミには存在しない筋肉の動きによってもたらされています」と述べました。犬は家畜化されたことをきっかけに人間とコミュニケーションを取る手段として、顔の筋肉を発達させたと考えられるとのこと。

また、研究チームは犬とオオカミでは人間とのコミュニケーションにどのような違いがあるのかも調べています。実験では27頭のシェルターで保護されている犬と9頭の野生のオオカミを、慣れていない人間の近くで2分間過ごさせて、その様子を撮影しました。その結果、犬はオオカミと比較して5倍の頻度で「子犬のような目」を作るために顔の筋肉を動かしていたそうです。

通常は筋肉の変化といった進化はゆっくりと発生するものであり、数万年で顔の筋肉に違いが出たという点は「かなり大きな変化です」と研究チームは指摘。研究チームは犬の表情が人間との相互作用にプラスの働きを持つためこの進化が起こったと考えており、ポーツマス大学の進化心理学者であるブリジット・ウォーラー氏は、「この筋肉を使うと犬の目はより大きく見えて、まるで子どものような外見になります。また、人間が悲しんでいる時の表情を模倣することも可能です」と述べています。

カミンスキー氏は、「犬が目の付近を動かす時、人間の犬を世話したいという強い欲求を引き出すように見えます。この人間の反応によって犬がより大きく眉を動かすようになり、選択的に優位となり、『子犬のような目』を生み出す子孫の能力を強化していったのでしょう」と語りました。



by mristenpart

一方でアリゾナ州立大学の研究者であるクライブ・ワイン氏は、研究の着眼点は非常にクールだと認めながらも、今回の研究が少数の犬やオオカミをサンプルにして行われた小規模なものだったことを指摘。オオカミが人間に対して豊かな表情を見せなかったのも、人間との接触が少なかったためかもしれないとして、さらなる研究が必要だと主張しました。