横顔は二枚目だったムロツヨシ(時事通信フォト)

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 キャスティングはドラマの生命線だが、意表をつく人選で成功した作品といえばこれだろう。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

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 注目を集めつつ幕を閉じた『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)は、大きな余韻を残しました。

「一気にムロファンに」「ムロさんを見直した」「温かな真司の存在が心に沁みます」といった賞賛の声をあちこちで耳にします。これまで「二の線」に分類されることがほぼなかったムロさんに、「思わずどきっとした」「胸キュン」「優しさに涙がこぼれました」という女性視聴者も多かったもようです。

 一つ言えること。それはこのドラマが、ムロツヨシという役者の「転換点になった」ということでしょう。ではいったい何ゆえに、こうも魅力的な男に映ったのか? 何が、恋愛ドラマにおけるムロツヨシの強さとなったのでしょうか?

 まず、ドラマを見ていて気付いたのは「横顔」の魅力です。

 何かにじっと耐えている美しさや哀しみ、静かな中に深いものが感とれました。「横顔」が映し出されるシーンはたびたびありましたが、輪郭は彫刻のようにきりっとしていて、光の陰影効果もあるのか哀しみや憂いのような深味も感じられました。そう、「横顔」というものは、正面の顔とは違って目を動かしたり表情を崩したりすることによるコミュニーションはやりにくい。

 正面から見た時のムロさんは、すぐおふざけしそうなオーラが漂っていて、目を剥いたりくりくりしてみたりしておどけた表情を作るのが得意です。ところが、横顔のムロさんには、全く違う印象がたしかにありました。

 動と静という対比でいえば、まさしく「静」。このドラマの成功の一因は、「横顔のムロツヨシ」の魅力を最大限まで活用したことにあったのではないでしょうか。単に横顔のショットの量が多かった、という意味ではなくて、ムロツヨシの「抑制の効いた静かな面が良い形で発揮された」という意味です。

「静」が良いと、自ずと「動」の方も際立つ結果になります。例えば、遺書の話を始めた尚に対して、突如こらえきれなくなった真司が感情を爆発させ「やめろ」と怒鳴るシーン。それまでが穏やかで抑制的だったからこそ、激しい「動」が迫力を持つ。あるいは、尚を相手にふざけたりする「動」的シーンも、照れ隠しや愛情表現として実にイキイキと立ち上がっていました。

 2つ目の魅力として、ムロさんの「やりとり力」が挙げられるでしょう。

 戸田恵梨香さんとムロさん、夫婦のやりとりは非常に魅力的でした。じゃれあったりイチャイチャしたり即興で言葉のかけあいをしている様子は、テレビを見ているこちらも思わずふっと笑いがこぼれ、幸せな気分に包まれたものです。そうした行為から「お互いを大事にしている」「二人でいると楽しい」という感覚がビンビン伝わってきました。尚役の戸田さんの演技もノッていましたが、戸田さんの演技にリアルに反応し、ビビッドに返すムロさんは益々輝いて見えました。

 こうした「やりとり力」は、尚を相手にした時はもちろん、たとえば息子・恵一との間で特徴が出ていたように思います。子供の相手をする時の真司は、頭ごなしに「あれしちゃダメ」などと親ぶらず、自然に子供目線になれる。身体を屈め息子の目の位置になり、子供が興味を持ちやすく理解しやすいような言葉で語りかける。

「公園に行きたい」と駄々をこねる息子に対して、「お母さんは身体の調子がよくないから遠くにはいけないんだよ」と言い、さりげなく毛糸で二人の手をつなぎ「さあ、お母さんにパワーを送ってあげよう」と誘う。子供も楽しくなって一緒に「パワー」とジェスチャーをする……。

 そう、普通なら頭をギュッと押さえつけて叱ってしまうのが父親。「今は無理だから我慢しろ、ワガママを言うな」と指図するのが当然のこと。しかし、真司は違う。アルツハイマー病を患い記憶が薄れていく母と遊びたい盛りの息子、その両方の想いを満たし両方を傷つけない真司がたしかにいました。

 もちろん、真司の性格は脚本家によるものですが、口先でセリフを言うのではなく身振りも口調も表情も含め、ムロさんは相手の目線になれる人物を血肉化し体現していました。それが視聴者に、極上の「優しさ」として映ったのでしょう。そう、ムロ的目線の低さに女性視聴者は痺れたのだろうと思います。

 今回のドラマは女医と貧乏小説家という設定でスタートしました。「美女と野獣」的な要素もあり、当初そのあたりが目を惹きました。しかし、設定だけでドラマが当たるわけではありません。「美女と野獣」的設定といえば、前クールに石原さとみさんがヒロインを演じた『高嶺の花』(日本テレビ系)も同様でした。相手役・直人(峯田和伸)との恋愛シーンも満載でしたが、今ひとつ女性視聴者の共感を集められず、視聴率も一桁台に沈んだことは記憶に新しいのではないでしょうか。

 全てを「深い優しさ」に転化していくムロさんの力が、今回の賞賛につながった──そう感じるのは、きっと私だけではないでしょう。