1989年、東京都・足立区綾瀬で起きた「女子高生コンクリ詰め殺人事件」。犯行グループ4人の1人が、今年8月、川口市の路上で殺人未遂事件を起こした。この事実を報じた『週刊新潮』(9/6号)は「少年法の敗北」と指摘している。綾瀬の事件で、犯行グループ4人は未成年だったため、少年法で守られていた。「鬼畜」のような犯罪者に対し、われわれはどう向き合えばいいのか――。
『週刊新潮』(9/6号)の誌面。見出しは<新聞・テレビが報じない「少年法」の敗北 綾瀬「女子高生コンクリ詰め殺人」の元少年が「殺人未遂」で逮捕された>。

■事件当時の『週刊文春』は犯人4人の実名公表に踏み切った

「野獣に人権はない」

1989年1月、東京都・足立区綾瀬で起きた「女子高生コンクリ詰め殺人事件」の犯人は、未成年の男4人だった。

被害者を誘拐・監禁して輪姦し、激しい暴行を加えて死なせたあげく、死体をドラム缶に入れコンクリートで固めて埋め立て地に遺棄するという“鬼畜”のような犯行であった。

被害者が美人だったこともあり、メディアは連日、彼女の顔写真と実名を出してプライバシーを執拗に報じた。

メディアスクラムのあまりのひどさに、被害者の父親がメディアに自粛を要請するという事態にまでなったのである。

一方、犯人の少年たちは「少年法」で守られ、実名を報じられなかった。だが、ここまで残虐な犯罪を行った人間を実名で報じないのはおかしいという声が高まり、『週刊文春』(1989年4/20号、以下『文春』=花田紀凱編集長)は、4人の実名公表に踏み切った。

『文春』によれば、実名公表を思い立ったのは、4月8日付の朝日新聞の「声」欄だったという。21歳の学生。

「……納得できないことは、少年たちの名前も写真もマスコミには登場しないということです。もちろん、未成年であるから伏せられているのですが、殺された女子高生は名前と写真、そして住所までも新聞に載りました。同じ未成年です。なのに殺したほうの人権は尊重され、殺されたほうの人権は無視されていいのでしょうか」

■少年2人が鑑別所でポロッと喋ったのがきっかけ

『文春』の前号(4/13号)で、この事件の詳細を見てみよう。

被害者はF子さん(埼玉県立高校の3年生・17歳)。事件の1か月半ほど前から、市内のプラスチック成型工場でアルバイトを始めた。

事件の日は、15時56分に出勤して、工場を出たのは20時19分。自転車で30分ほどの自宅へ向かうが、10分ほど走ったところで、女性を物色していた18歳・無職のAと同・17歳Bの2人に遭遇してしまう。

Bが彼女の自転車を蹴り倒し、絡んできた。そこへ被害者を助けるフリをしたAがバイクに乗って現れる。

Bが怖いため、彼女はAのバイクに乗ってしまうのだ。

主犯のAは柔道の腕を期待され、高校へは推薦で入学した。だが、半年もしないうちに暴力事件を起こし、中退してしまう。

その後、女性を狙ったひったくりや強姦などを重ねていた。F子さんを監禁している間にも、2件の強姦事件を起こしていた。

事件が明るみに出たのは、婦女暴行や盗みなどで鑑別所に入っていた少年2人が、捜査員が別件で事情を聴きに行った際、警察が事件に気づいたのかと勘違いして、ポロッと喋ったのがきっかけだった。

そうでなかったらF子さんは行方不明者として処理されていたかもしれないのだ。

■亡くなるまでの40日間、兄弟の部屋に監禁された

彼女は足立区・綾瀬の一軒家に連れこまれてしまう。ここはAとBの不良仲間、無職・16歳Cと、都立高校3年のD・17歳の兄弟の自宅である。

1階に両親が住み、2階の2間が兄弟の部屋。F子さんはその日から亡くなるまでの40日間、そこに監禁されてしまう。

「監禁中、被害者は、何人もの少年に強姦されているんです。十六歳から十八歳までの不良仲間十数人がしょっちゅう出入りしていて、そのたびに、夜昼関係なく代わる代わる輪姦されたんだから、被害者にとっては地獄そのものですよ」(捜査関係者)

彼女はすきを見て一度、階段を下りて逃げようとしたことがあった。だが、階段を下りかけたところで捕まり、少年らにひどく殴られた。

彼女は監禁されている間に3回、自宅に電話をしている。1回目は捜査願を出して間もなく、「すぐ帰るから心配しないで」。2回目は、「もう2,3日で帰る」。3回目は母親がしかりつけると、彼女は「誘拐されたんじゃないから、心配しないで。どうして捜索願なんか出したの?」と逆に聞き返したという。

だが、その言葉に続けて彼女が「友達の家にいるの、助けて」というと、電話が切れてしまった。

悪賢い連中である。捜査がどうなっているのかを知りたくて、彼女に電話をさせた。だが、「助けて」という言葉は予想外だったのであろう。

■両親が1階に居ても、2階で監禁が続いた

事件発覚後、CとDの両親は下で暮らしていたのに、なぜ気が付かなかったのかという怨嗟の声が噴出した。

父親は薬剤師の資格をもった病院事務員、母親は看護婦として同じ病院に勤務していた。

弟のCは気性が荒く、母親が自分の部屋に入ったことを知って殴る蹴るの乱暴を働き、以来、両親は子ども部屋に近づけなかったそうである。

12月始めには、2階から女性の奇声のようなものが聞こえ、父親が注意をしに行ったが、内カギをかけられて入れなかった。

意気地のない呆れ果てた両親である。12月末には、2階に女の子がいるようだとわかり、2階に声をかけた。CとF子が下りて来て、両親と一緒に食事をしたそうだ。

その間、彼女はひと言もしゃべらなかったが、おかしいとは思わなかったのだろうか。

トイレは1階にしかないから、彼女が下りていく姿を1度や2度、両親は見ているはずである。そういう意味では、両親も共犯といえるはずだ。

■内出血で顔が膨れ上がり、肉親もわが子と識別できなかった

食事もろくに与えられず、1月4日、彼女が布団の上で「失禁」すると、少年たちは怒り狂い、殴る蹴るした挙げ句、100円ライターで手足を炙ったそうである。

そうしておいて、奴らは遊びに出掛けてしまう。夕方、部屋に戻ると彼女はすでに死んでいた。

監禁前には50数kgあった体重が、殺される前には32.3kgになっていたそうだ。

「翌五日夜、紺のスカートに格子柄のシャツ姿のF子(『文春』では実名)さんは、二枚重ねにしたカバー付き毛布でロール巻にされる。さらに、粘着テープでグルグル巻きにされたうえ、旅行用のキャリアバッグに押し込まれる。

そのあと、知人から借りてきたワゴン車に遺体を運び込み、車内で、工場から盗んできたドラム缶にそれを放り込むのである。もちろん、流し込んだセメントも盗んできたもの。殺害の手口も凄絶だが、死体の処理もマフィア顔負けだ」(『文春』)

遺体はむちゃくちゃに殴られ、内出血で顔が膨れ上がったままだったため、肉親でさえもわが子と識別できなかったという。

部屋からは避妊具が発見されなかったため、妊娠についても調べたが、損傷がひどくてわからなかったようだ。

■再び野に放たれた野獣はどうなったのか

これだけの残虐な事件を起こした連中が、少年法に守られて死刑にもならず、最長20年ぐらいで刑務所を出られることへの批判は当時も多かった。

そうした世論を受けてのことであろう。東京家裁は4人の被疑者を少年審判の結果、「刑事処分が相当」として東京地検に逆送致する決定を出し、東京地検は殺人・猥褻目的略取誘拐・逮捕監禁・強姦などの各罪状で少年4人を東京地方裁判所に起訴したのである。

判決は、Aには「主犯格で罪責は極めて重大」として懲役20年。Bは懲役5年以上10年以下の不定期。Cは懲役5年以上9年以下の不定期。Dは懲役5年以上7年以下の不定期刑だった。

この残虐な事件でも改正されなかった少年法だが、1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件でようやく改正されることになった。

2000年から刑事処分可能な年齢を16歳以上から14歳以上に引き下げられ、16歳以上の少年が故意に被害者を犯罪行為によって死亡させた場合、家庭裁判所から検察官へ送致することができ、成人と同じ刑事裁判を受ける手続きが整ったのである。

事件から29年が過ぎた。20年の刑をいい渡された主犯のAを含めて4人全員が娑婆に戻った。

再び野に放たれた野獣はどうなったのか。『週刊新潮』(9/6号、以下『新潮』)などによると、準主犯格の男は2004年に逮捕監禁致傷容疑で逮捕されている。主犯格の男も詐欺容疑で逮捕されたそうだが、完全黙秘を貫いたため不起訴処分となり、その後消息は不明だという。兄弟の兄のほうは自宅に引きこもるようになった。

■大手メディアは逮捕は報じたが、綾瀬の犯人とは触れず

当時16歳だった弟、湊伸治(45)は、出所後都内にあるムエタイジムに通っていたが、「徐々に自分の過去がジムの仲間にバレていき、居づらくなってフェイドアウトしたようです」(ジムの経営者)

湊が埼玉県・川口市内のアパートへ引っ越してきたのは今年6月。管理会社に対しては、ネット販売をやっていると告げ、同年配の女性と暮らしていたという。

そして8月19日、アパート前の駐車場で、同じアパートに住む32歳の会社員を突然、警棒で殴り、首をナイフで刺して「殺人未遂容疑」で逮捕された。

大手メディアは、湊の逮捕は報じたが、綾瀬の事件の犯人だったことには触れていない。

『新潮』は、識者たちに意見を聞きながら、メディアが少年法の規定を厳格に解釈して過去の事件に触れないのでは、なぜ同様の犯罪が繰り返されてしまったのかを検証することもできない。更生を第一におく少年法の「敗北」ではないかと指弾している。

この事件の前年にも、名古屋で成年1人と未成年者5人によるアベック殺人事件が起きている。

ドライブに来た男女のクルマを襲撃して、男性には殴る蹴るの暴行を加え、女性は輪姦して陰部にシンナーをかけ火をつけた。

放置すれば厄介なことになると、男性の首にロープを巻き付け両側から引っ張って殺すという残虐なやり方を知った時、怒りと恐怖に身体が震えた記憶がある。

■少年院と刑務所では「矯正教育」の内容が違う

こうした凶悪事件を起こした元少年たちを少年法で更生させることができるのだろうか。

私は現在の少年法には懐疑的だが、事件当時、東京鑑別所で法務教官として在籍し、現在はジャーナリストとして活躍している草薙厚子に聞いてみた。

犯人の少年たちの中には、16歳未満の少年もいたが、全員検察官送致になっている。いかに極悪非道な事件だったかがわかるとしながら、4人が少年法で裁かれていたら、もう少し違っていたのではないかという。

「刑務所に服役していても、少年に変わりはないから、教科教育や生活指導を行っていたようですが、刑務所内の教育担当者は、彼らに対して矯正教育は不可能だと思っていたようです。少年院は鑑別所同様、職員が教育などの専門家(専門の国家公務員試験の合格者)ですから、手厚い矯正教育を施すので、人によってではありますが、ある程度再犯防止に役立っていると思います」

少年院では法務教官などの専門家が担当するので、その少年にあった手厚い矯正教育ができるが、刑務所では難しいというのである。

だが、再犯を犯したということは贖罪意識が芽生えなかったからで、被害者遺族がどんなに嘆き悲しんでいるかに気づき、自分の罪の重さに気づいていれば、再犯は起こさないが、彼らのような凶悪犯を矯正するのはかなり難しいともいう。

少年法の精神は尊重するが、再び罪を犯すことなく、出所後生きていくようにするには、もっと根本的に考えるべきことがあるということだ。

■犯罪者には「GPSチップ」を埋め込んで、監視すべきか

進化心理学に詳しい橘玲は、犯罪でもサイコパスといわれるような人間たちは遺伝率が極端に高いというエビデンスがあるという。

子どものDNAを採取して、犯罪を起こす率の高い人間をずっとフォローしていくプレクライム(犯罪の前)を、欧米でテロ対策のために導入しているところもすでにあるそうだ。

いわゆるビッグデータで、メールやSNSなどの情報をAIに解析させ、危険度の高い人物を割り出すのだという。

さらにイギリスでは、犯罪を起こす可能性の高い人間には、犯罪を犯さなくても行政の命令で先進医療施設に収監できるという法律が通っている。

その理由は、安全に対する要求がものすごく高くなっているからで、一番の理由は少子化だと思うと橘はいう。1人しかいなかったら、あらゆるリスクをすべて排除して、この子を育てたいと思うから、幼児性愛者や犯罪を起こす可能性が高い人間が近くにいるなんて許せない。チップを埋め込んでどこにいるか全部わかるようにしろと、世の中の流れがそうなってきていると思うと話してくれた。

新潟市西区で小2女児が殺害された事件を受けて、新潟県議会が性犯罪常習者に衛星利用測位システム(GPS)端末を装着させる監視システムの導入の検討を求める意見書を出しているが、こうした動きはますます大きくなるのだろう。

自由よりも安全を選ぶ。共謀罪を強引に押し通した安倍政権に対して、反対の声をあげる日本人がそう多くなかったことでもそれはわかる。

■監視カメラが日本中を覆い尽くしても、凶悪犯罪はなくならない

2002年に新宿歌舞伎町に監視カメラ50台が設置された。その時はプライバシー保護を理由に反対の声が上がった。しかし、防犯カメラと呼び名を変えさせられ、今や犯罪捜査には欠かせないものになり、プライバシーよりも安全が優先されることに誰も疑問を抱かなくなってしまった。

しかし、監視カメラが日本中を覆い尽くしても、凶悪犯罪はなくなることはない。

話が横道に入り込んでしまった。再犯をどう減らすかだが、刑期を終えた人間を社会がどう受け入れるかを考えない限り、娑婆に出て仕事もない人間に選択肢はほとんどないはずだ。無法者になるか、再び犯罪に手を染めるかである。

口当たりのいい無責任ないい方だとはわかってはいるが、再犯を防ぐにはリスクを含めて、彼らを社会全体で見守る以外にない。

根本的なところを変えないで、すべてお上頼りで、自由もプライバシーも渡していいはずはない。斎藤貴男は『安心のファシズム』(岩波新書)のあとがきにこう書いている。

「独裁者の強権政治だけではファシズムは成立しない。自由の放擲と隷従を積極的に求める民衆の心性ゆえに、それは命脈を保つのだ。不安や怯え、贖罪意識その他諸々――大部分は巧みに誘導された結果だが――が、より強大な権力と巨大なテクノロジーと利便性に支配される安心を欲し、これ以上のファシズムを招けば、私たちはやがて、確実に裏切られよう」(文中敬称略)

(ジャーナリスト 元木 昌彦)