“フレネミー”という言葉を聞いたことがあるだろうか?

フレンド(友)とエネミー(敵)を組み合わせた造語で、友人を装った敵という意味である。

親友に恋人を盗られた、仕事を盗られた、裏で悪評を広められていた。これは特に女にとって、幼少時から友人を作るにあたって必要悪と言えるほど、誰しもが記憶を辿ればそんな存在に心当たりがあるのではないだろうか。

ことに結婚願望が芽生え始めた20代後半の東京の女たちにとって、親友同士だったはずの関係がいつの間にか敵同士、競争相手になっている光景はよく目にする。



<今週の東京婚活女子>
頭が良い女:理美27歳
職業:大手IT企業の営業職
年収:約500万円
出身:都内
出身大学:慶応
住まい:都内実家
交際ステータス:独身恋人なし
好きな有名人:谷原章介

顔が良い女:真理子27歳
職業:モデル
年収:約300万円
出身:都内
出身大学:都内女子大
住まい:都内実家
交際ステータス:独身恋人なし
好きな有名人:ブルーノ・マーズ

「真理ちゃんは本当に美人で、昔からどこへ行っても目立ってました。おかげで楽しい思いもたくさんできたし、有名人なんですよ。」

ハキハキとした口調で、自慢気な笑顔を浮かべながら親友を紹介する理美。

「ちょっとやめてよ。理美こそ、顔が広くてどこいっても人気者なんですよ。頭も良いし、しっかりしてて頼りになるんです。」

反論するように親友を褒め返す真理子。理美の言う通り、ハーフタレントのような一般人離れした美しい顔をしている。

二人はお嬢様校として有名な都内の高校で出会い、もう10年近く友情が続いているという。出席番号が前後でたまたまお互い実家も近く、そこそこ裕福な家庭環境で育ったことで共通点も多く、すぐに仲良くなったという。

褒め合う二人は何でも話せる親友だと言い合うが、その空気は少し無理に仲良しを演じているような、最初からわずかな違和感があった。というのも、二人は同じ種類の女では全くないからだ。

高校が同じとはいえ、理美は受験に失敗し滑り止めであるこの女子高に入学したが、大学は再度受験し慶応に入学、今は大手IT企業に就職した。艶々とカールしたショートボブが印象的な今どきの女ではあるが、顔はどちらかと言うと地味で目立つタイプではない。ただ、知的さと愛嬌を持ち合わせた性格と上手なメイクのおかげで、理美単体で見れば可愛らしい女に見えなくもない。

一方、真理子はとにかく美しい外見をしている。高校時代からその美貌は有名だったようで、当時からモデル事務所に所属していた。高校卒業後は同じ大学に進学し、大学卒業後はモデル活動一本の生活。大学時代は雑誌の専属モデルで表紙を飾ったこともあったが、今は一線を退き広告やブランドモデルなどを引き受けている。それでもそれなりの生計は立てられるという。

一見、二人はなぜ長いこと友情が続いているのか分からないほど違うタイプの女だが、理美は世話好きでリーダーシップを取るような性格、そして真理子はその後ろからホイホイとついていくのに抵抗のない性格をしており、また趣味なども合い、単に相性が良いようだった。

コミュニケーション能力が高く人脈も広い理美は、昔から真理子を多くの場所に連れ出し自慢するのが好きだった。勉強に興味のない真理子のテストや宿題の手伝いなどもよくしていたと言う。そして人見知りの真理子も、理美といることによって魅力を発揮しどこへ行っても楽しい時間が過ごせていたらしい。そんな二人をまるでタレントとそのマネージャーのようだったという同級生もいる。


親友だという二人の女。しかしその価値観の違いに、二人は戦闘モードに突入していく・・・


理美「顔だけの女は、早く結婚しないとね。あなたのために言ってるの。」


「でも、真理ちゃんはそろそろ本当に結婚前提の彼氏を見つけないとね。私は結婚に興味ないし、貯金もしてるしキャリアもあるからいいんだけど、真理ちゃんの将来が本当に心配なの。」

理美はまるで姉のような口調で言う。話題が恋愛に変わると、二人の間の空気は明らかにピリピリと緊張感を帯びた。

「こんなに綺麗なんだから、はやく今のうちに良い人と結婚しないとダメ。真理ちゃんの今の仕事って、普通の安定志向の男の人には理解してもらいにくい部分もあるじゃない。だからね、若さと美貌を武器に女は早くいい人を見つけないと。私、真理ちゃんのために言ってるんですよ。私と違って安定した収入もないし、はやく結婚した方が絶対良いんだから。そう思いませんか?」

やたらと主張する理美の傍ら真理子を見やると、話を完全に無視してテーブルの下でスマホをいじっている。

「私は自分のことは適当に上手くやるけど、真理ちゃんはいつもフラフラしてて、彼氏ができても顔だけ良いモデルの女々しい男だったり、怪しいおじさんだったり。もっと現実を見て堅実な人を探さないと。」


女二人、薄氷を踏む攻防戦


親友のためを思っての正論を言っているつもりなのだろうが、当の本人はすでに苛立った表情を隠せない。

伏せた目の下には長い睫毛が綺麗な影を作っていて、キメの細かい美しい肌がさらに際立っている。黙ったままでいる真理子は、一見理美に攻撃されているだけのように見えるが、そうでもない。

濃いメイクをし、身体のラインが際立つ服を着ている。どちらも真理子にしか似合わないようなもので、挑発的なのだ。普通、プロのモデルが平凡な外見をした友人と会うだけでここまでは着飾らないと思う。そこに真理子の我の強さを感じてしまう。

思春期を共に過ごしたという親友は、ある程度大人になってからできた友情とはちがい、無駄な遠慮や気づかいを省くというのは理解できる。だが、理美のお節介なアドバイスも真理子の不躾な態度も、長年の友人間の中に生まれるものというだけでは処理できない攻撃性が滲み出ていた。

真理子はうつむきながらも、背筋をピンと伸ばし、細く形の良い脚をこれ見よがしにゆっくりと組み替えた。ミニスカートから伸びるマネキンのような長い脚は、女であっても一瞬目を奪われうっとりとしてしまう。真理子はたぶんそれを知っている。これが、美脚を持たない理美への反撃なのだ。

・・・・・。

気まずい沈黙が流れ、理美は「ちょっとトイレ」と席を立った。


静かに争い始めた二人の女。沈黙を破った、モデル真理子の反撃


真理子「可愛くない子って、男の人のご機嫌とるのに大変ですよね。」


「理美っていつもああなんですよ。別に私、男の人には困ってもないし、結婚を焦ってもないんですけどね。取材とかも慣れてないだろうし、私の悪口と自分の仕事の自慢しかネタがないんですよ。」

急に真理子は顔を上げた。

「この前も私のために普通のサラリーマンを紹介するって言って、食事会を開いてくれたのはいいんですけど、“真理ちゃんはモデルだけど最近仕事は微妙だからあまり触れないであげてね。私は一流企業で真面目に働いてますけど。”みたいなことずーっと言ってるんですよ。わざとらしく経済の話とか、私の分からないような話題ばっかりして。」

パッチリと開いた瞳は流行りのカラーコンタクトで灰色に染まり、人形のように見える。

真理子によると、そもそもサラリーマンの男たちに興味など毛頭なかったが、無理矢理に連れていかれた上に始終今日のように馬鹿にされていたという。相手の男たちも女版理美のような堅い男たちで、さらに真理子を見世物のように扱ったらしい。

「男の人たちは前もって私のブログとかSNSを知ってて、水着の写真をその場で開いて同じポーズしてとか言うんですよ。理美が前もって教えてたんです。しかも、安っぽい居酒屋で、2,000円も払わされたんですよ。」

真理子は被害者のように供述する。

モデル仲間であれば、食事に連れていかれた先が居酒屋で、まして会計を要求されることなど絶対にないという。

「一流企業に勤めてるってエラそうに言うけど、クリエイティブな世界にいる私からしたら、ただのつまらない失礼な男たちですよ。だってみんな同じような仕事してるだけでしょ。モデルの仕事を馬鹿にするけど、時給にしたら私の方が全然良いですからね。」

一見口下手な女は、一度調子に乗ると止まらなくなることが多い。

「理美みたいな普通の子って、あんな男の人にお世辞言ってご機嫌とって、それでお金まで払わなきゃいけないんですね。むしろそれが女なのに稼いでてカッコいいと思ってるみたい。たぶん自分の生活を自慢したくて開いた会なんでしょうけど、私はそんなの願い下げです。」

興奮した真理子は、溜まったものを吐き出している。しかし、これを本人に直接言うことはできないようだ。

「もちろん私も、もっと楽しいパーティとか誘うんですよ。なのに理美って、行くって言っておいて、当日になると”何だっけそれ?今日だっけ?忘れてた行けないや。“とか、わざとらしくドタキャンするんです。理美だって飾ればそれなりに可愛いんだから、もっと要領よく女を楽しめばいいのに。」


明らかに反発し合う二人の女。彼女たちはなぜ友情を続けようとするのだろうか?


お互い大好きな親友に認められたくて、認められない


二人の女は、ここまで反発し合いながら、なぜ一緒にいようとするのだろうか。

一つだけ明らかなことは、少なくとも今はまだ、この二人はお互いが好きなのだ。だからこそ、無駄な干渉をしたり苛立ったりするのだろう。腹を立てられるというのはまだ健全なことだ。
ただ、お互いの成長と環境の変化をきちんと受け入れることができない。

頭の良い女と、顔の良い女。二人はすでに、女として違う生き方しかできない。

特性の違う二人の女は年齢を重ねるほど、同じ種類の人生を同じように歩むことは現実として難しい。仕事、恋愛、結婚、出産・・・特に都会では、女たちが日常的に一緒の時間を過ごすには、これらの質やタイミングが似ていないといけない。それによって、生活レベルも、生活スタイルも、住む場所も変わってくるのだ。

この女たちは、30代になっても同じように時間を過ごせるだろうか?きっと無理だと思う。友情が続いていたとしても、会う頻度や会話は減っていくだろう。思春期にはなかった価値観の違いや格差というものは、残酷に深い友情を切り裂いていく。

冒頭でフレネミーと述べたが、この二人の程度はまだ軽いものだ。だが、それなりのプライドを持ち合わせた二人がこのまま無理矢理に一緒にいようとするならば、この競争心や嫉妬心はどんどん成長し、近いうち完全に敵になってしまうように思う。

どちらも大好きな親友に認められたくて、認められないのだ。女の友情は、時に哀しい。


女たちは戯れと敵対を繰り返し、そのうち疎遠になっていく。


理美が席に戻ると同時に、この店の名物であるパンケーキが運ばれてきた。二人は歓声を上げ、殺伐とした空気は一瞬で消えた。

先程までの戦闘モードはどこへやら、目をキラキラと輝かせ、頬をすり寄せパンケーキの上で笑顔を作りカメラに視線を送り何枚も写真を撮りはしゃいでいる。

「そんなに有名じゃないけどさ、私ここのパンケーキが一番好き!」

「えー、私は『bills(ビルズ)』の方が好き!」

「そりゃ、『bills』は殿堂入りだから別格だよ!あ〜、七里ヶ浜の『bills』に行きた〜い。」

「え、じゃあ行こうよ!いつ行く?週末泊まりで行ってもいいよ!葉山の『音羽ノ森』とか泊まりたくない?」

「それいいね!!今週・・・行けるかも!!もう予約しちゃおう!!!」

こちらが唖然となる傍らで、二人は週末旅行の話でどんどん盛り上がり、幸せそうにキャーキャーと騒ぎ始めた。これが、もともとの本来の二人の姿なのだろう。

こうやって、二人は戯れと敵対を繰り返し、そのうち疲れ、きっと疎遠になっていく。

彼女たちの友情が続く道があるとしたら、現実的に、同じような年収の男と結婚するか、同じような年収を稼ぎ独身を貫いた場合のみだろう。女が友情を続けるには、環境が同じでなくてはならないのが現実だ。

無邪気な二人の姿を眺めていると、願わくば、そうなって欲しいと思ってしまう。

【今までの東京婚活男女たち】

Vol.1 :取り柄のない普通の女が、眼科開業医を仕留めた理由
Vol.2 :31歳外銀超エリート。自信に満ちたその人生観と恋愛観の先にあるものとは?
Vol.3 :「綺麗なCA」というだけでは、東京の婚活市場最前線では勝てない
Vol.4 :もてはやされる「プロ女子大生」。その後の社会での現実と賢さ
Vol.5 :港区出身。東京アッパー層の結婚概念と、そのしがらみ
Vol.6 :見栄で金を使いすぎて結婚資金がない!?若手外資系証券マンの悩み