脳に移植した2つの電極を用いることで、「考えるだけ」でロボットアームを自由自在に操ることが可能になった四肢麻痺の女性が、次はステルス戦闘機を操って自由に空を飛べるようになりました。

A paralyzed woman flew an F-35 fighter jet in a simulator - using only her mind - The Washington Post

http://www.washingtonpost.com/news/speaking-of-science/wp/2015/03/03/a-paralyzed-woman-flew-a-f-35-fighter-jet-in-a-simulator-using-only-her-mind/

This Woman Flew an F-35 Simulator with Her Mind | Defense Tech

http://defensetech.org/2015/03/02/this-woman-flew-an-f-35-simulator-with-her-mind/

アメリカ国防総省の本庁舎であるペンタゴンでは、国防高等研究計画局(DARPA)とピッツバーグ大学医療センターが推進する「ある画期的なプロジェクト」が存在します。そのプロジェクトの中心人物は55歳のジャン・ショイエルマンさんで、彼女は両手両足が運動麻痺状態になった四肢麻痺患者です。プロジェクトではショイエルマンさんを被験者として、「考えるだけ」で動かせる、これまでにない画期的な義肢の開発に取り組んでいます。2012年にはショイエルマンさんは自身の脳の表面に2つの電極を移植する手術をうけており、この電極がショイエルマンさんの脳波を検知して「考えるだけ」でロボットアームを自在に動かすことに成功しています。

実際にショイエルマンさんがロボットアームを動かす様子は以下のムービーで見られます。

One Giant Bite: Woman with Quadriplegia Feeds Herself Chocolate Using Mind-Controlled Robot Arm - YouTube

ショイエルマンさんは自分の手足を動かすことができない四肢麻痺患者です。

そんな彼女がDARPAとピッツバーグ大学のプロジェクトに参加したのは、車いすに座った男性が「考えるだけ」で自由自在に動き回るムービーを見たことがきっかけ。

ショイエルマンさんが手に入れた新しい腕は機械製のロボットアーム。これは上下の動きから……

前後の動き

左右の動きまで器用にこなします。

さらに、手首を左右に動かしたり……

上下に動かしたり……

くるくる回すことも可能。

加えて物をつかむことまでできます。

ショイエルマンさんが新しい挑戦に期待を膨らましていることがよく分かります。

しかし、ロボットアームを自在に動かせるようになるためにはひとつの試練を乗り越える必要があります。その試練というのは「頭に電極を移植する」という手術のこと。

手術ではこんな電極を頭に移植します。先っぽがトゲトゲしたパーツを脳の表面に設置し、大きな銀色の円柱パーツは頭から突き出すカタチになります。こうすることで、脳の表面で感知した脳波を体外の機器に送ることが可能になるわけです。

これを頭に埋め込むわけ。

手術は見事成功し、ショイエルマンさんの頭には2つの電極が現れました。

電極にはこんな装置を取り付け、これで脳波を使って「考えるだけ」でロボットアームが動かせるようになるわけです。

手術後のショイエルマンさんは、これから動かすことになるであろうロボットアームの存在に胸をときめかせている様子。

手術から11日しか経過していませんが、2012年2月21日には脳波で直接ロボットアームを動かす実験がスタート。この頃はまだロボットアームの操作に不慣れなようで、アームの動きは不安定でした。

2012年3月、机の上に置かれた小さなキューブを……

器用につかみ……

タッパーの上まで移動させることに成功。

他にもこぶし大の立方体や……

一見つかみにくそうな球体まで難なくグリップしています。

さらには紙製の円筒まで「形を潰さないように」持ち上げることができています。

ロボットアームの操作はこんな具合にピッツバーグ大学医療センターの研究員とマンツーマンで行っていた模様。

ロボットアームの操作にだいぶ慣れてきた様子のショイエルマンさん。

ロボットアームでつかみやすいように作られた大きな持ち手(赤色の物体)をグリップし……

そのまま顔の方に移動。どうやらこの物体の先っぽにはチョコレートがくっついているようで、これを人の手を借りずに自分の力のみで食べようとしている模様。

あーん

パクリ

豪快にチョコレートを食べることに成功。

かなり満足げです。

ショイエルマンさんは麻痺の範囲が広くなっていく非常に珍しい遺伝病にかかっており、症状が出始めたのは2003年でしたが、2012年の段階で既に四肢麻痺患者になっていました。ショイエルマンさんの脳にある電極は、脳の大脳皮質内にある運動をコントロールする領域の「運動皮質」の左側に移植されています。運動皮質の左側は、右手の動きをコントロールする領域であると認識されていました。しかし、ショイエルマンさんは「運動皮質の左側」に埋め込まれた2つの電極を使い、右手と左手を模したロボットアームを両方動かすことにも成功おり、これには研究チームも非常に驚いているそうです。

上記のムービーで分かるように、2012年の段階でショイエルマンさんはここまで自由にロボットアームを操作することができるようになっていたわけですが、DARPAとピッツバーグ大学医療センターが行っている実験は人間の義肢に関するものだけではありません。プロジェクトでは、新たに神経シグナルに関する革新的な実験も行っており、ショイエルマンさんも実験に参加してアメリカが開発中のステルス戦闘機「F-35」を「考えるだけ」で飛ばすことに成功しています。

もちろん彼女がF-35を飛ばしたのは現実世界での話ではなく、専用のシミュレーターの中での話。しかし、アメリカ軍の正式パイロットたちが使用するシミュレーターにて、ショイエルマンさんは手や足などを一切使用せずに、「考えるだけ」で自在にF-35やその他の飛行機を飛ばすことに成功しており、DARPAのアラティ・プラボカー長官は「ジャンはシミュレーターの中で本当に飛んでいるのよ」と話しています。

ショイエルマンさんは、普段シミュレーターを使っている正規のパイロットたちとは異なり、操縦かんで飛行機を操縦するのではなく、飛行機全体を直接コントロールして飛ばすことに成功しています。

実際にショイエルマンさんがF-35を飛ばした際のシミュレーターの映像は以下の通り。

Simulator shows fighter jet being flown by paralyzed woman

シミュレーターで飛ばしているのは普通の飛行機。

ムービーを再生すると分かるのですが、何度も何度もかなり細かく飛行機の機首を微調整しながら飛行しており、操作を一歩間違えると大破してしまいそうな、左右に崖が広がる場所でも楽々飛行しています。

次に飛ばしたのは、最初の飛行機の8倍の速度で飛行するF-35。

こちらも巧みに操縦しており、F-35は空の冒険を楽しんでいるかのように自由な軌道を描きます。

プラボカー長官は「研究の成果から、我々は将来的に脳を『体』という制限から解き放つことができるようになる、という未来を描けます」とコメントしており、DARPAのBiological Technologies Officeのディレクターを務めるジェフリー・リングさんは、「ニール・アームストロングが月面を歩く様子をTVで見た時と同じように、ショイエルマンさんがロボットアームを動かし姿を見たとき、非常に感動した」と述べています。ショイエルマンさんの実験結果を義肢や軍事技術に応用するにはまだまだ長い道のりが存在するそうですが、DARPAの仕事は国防総省の実験機関として未知の研究を推し進めることであり、プラボカー長官は「我々は安全な道のみを行くことはありません。そういった行為は我々のミッションの妨害になるでしょう」とコメントしています。