今後増加していく元プロ選手の高校野球指導 そのメリット、デメリットは?
プロ・アマ雪解けとも取れる試み
プロ野球に従事した者の学生野球資格回復の制度が今年1月から変わった。プロ側の日本野球機構とアマ側の学生野球協会の研修を修了し、認定されれば、母校に限らず、高校を指導することが可能になった。
これまでは2年以上の学校勤務が必要との規定があったが、大幅に緩和された。各都道府県の高野連のサイトに資格回復した者、その中でその都道府県に希望を出した者の一覧が掲載されている。プロ・アマの雪解けとも取れる試みとも言われている。
すでに西武などで活躍し、ロッテなどで打撃コーチも務めた経験のある金森栄治氏が故郷の石川・金沢の金沢学院東高校で監督に就任。4月1日から指導を行っている。
元横浜ベイスターズの外野手だった田中一徳氏が千葉・拓大紅陵の監督就任も一部で報じられた。そのほか、北海道の北照高校には元ヤクルトの松岡弘氏が臨時コーチに就任するなど、今後もどんどん増えていきそうだ。
オフに母校で指導している選手も存在する
プロとアマの垣根がなくなり、交流が活性化できるという良さもある。プロ経験者がこれまでは許されなかった技術指導を直接行うことができることが最大のメリットだろう。今まではOBであっても、プロ野球選手からの技術指導は禁止されていた。高校時代はトップレベルだったプロ選手が「どうすれば野球が上手になるか」という観点で高校生に教えることができれば、野球のレベルは上がっていくに違いない。
プロを経験してきた人間が指導者になれば、他の一流選手の練習の取り組み方や、試合へのアプローチの方法、チームとして考えている組織論など、より高いレベルの戦術や技術を高校生に教え込むことができる。選手たちも技術だけでなく、考え方、モチベーションの高め方、強い気持ちを持つ方法などあらゆる面で貴重な情報を得られるだろう。
例えば、夏優勝3回、春1回の強豪の大阪桐蔭高校。同校からは多くのプロ野球選手が誕生している。阪神・西岡剛、藤浪晋太郎、中日・平田良介、日本ハム・中田翔、西武・中村剛也、浅村栄斗などなど。 それも1軍で結果を残している彼らの中の何人かは、毎年ではないが、申請を出して、オフに母校で自主トレを行っている。
生徒たちに直接指導はできなくても、一流の取り組みを見ることができる。それがほんの一瞬でも、プロが学生たちに与える影響は大きい。「自分もああいう選手になりたい」というモチベーションが生まれる。大阪桐蔭の西谷浩一監督も「見るだけでも刺激になる」と自身の指導以外にも、選手たちが伸びる要素があることを指摘している。
プロ選手がアマの監督になるデメリット
一方で、プロ選手が監督になるデメリットもある。今までは少なくとも2年間、教員として勤務する時間が必要だった。しかし、今回の規定で一番大きく変わったのはこの部分。教員の免許がなくても、監督やコーチになれる。つまり、教育の一環としての高校野球の位置づけが、指導者によって変わってきてしまうのだ。
元プロはいい選手を育て、チームを強くすることはできる。その監督の指導を受けたくて入部したのならば、問題はないだろう。だが、野球がすべてになってしまうと教育の一環ではなく「野球学校」になってしまう危険性がある。勝てばいい、甲子園に出られればいいという概念にとらわれ、勉学や高校生活が二の次になるという不安が、高校野球関係者の周りにはある。
また、これまで理解を示してくれていたOB会、父母会、卒業生からの理解が得られないことも考えられる。上記のように、野球学校になってしまった場合や、新監督のやり方がこれまでのやり方やチームカラーから離れていってしまう場合などは反発を受ける恐れもあるだろう。それを避けるためにも、まずは双方の理解を深める必要がある。
今回の新制度によって、監督に就任する元プロ野球選手はこれから増えていくことになる。これまで多くの指導者がそうしてきたように、真の教育者として、甲子園だけでなく、野球と人間教育の指導の両立を目指していくことにも期待したい。
