すぐ忘れるのは「頭が悪いから」ではない…アメリカの研究が証明した"記憶力のいい人"が絶対にやらないこと
※本稿は、佐々木淳『科学的根拠+αで成果を出す 戦略的勉強法』(あさ出版)の一部を再編集したものです。

■「人間は1日で67%忘れる」は正しくない
「あれ、何だったっけ?」
一所懸命覚えたはずなのに、いざというときに思い出せない。何度も繰り返し学習したはずなのに、気がつくと頭の中から消えている。学生時代の定期テストなどで、見たことがある問題のはずなのに頭は真っ白になって思い出せない。気づけば、焦っているうちに試験が終わる。そんなことはなかったでしょうか?
忘れること=「忘却」は、学習者にとって大きな悩みです。だからこそ、効率的に暗記するメソッドや記憶術に関するノウハウなどの「忘れないための方法」がいつの時代も求められるわけです。
しかし、忘れるのは努力が足りないからでも、覚えるのが下手だからでも、才能がないからでもありません。多くの場合、覚えにくいものを強引に覚えようとしているから、覚えられないのです。
皆さんは「エビングハウスの忘却曲線」をご存じでしょうか。記憶に関する科学的エビデンスとしてよく引用されるデータです。エビングハウスの忘却曲線の説明を見ると、「人間は学習した内容を1日で67%忘れ、1週間で77%忘れ、1カ月で79%忘れる」という記載とともに、グラフが載っています(図表1)。

そして「忘れないためにも復習が大切です」という当たり前の結論につながっていきます。果たして、この説明は本当に正しいのでしょうか?
実は、この考え方をそのまま応用するには注意が必要です。
■実験の数値は“節約率”
エビングハウスの実験について詳しく調べてみると、多くの説明で見落とされている重要な点が3つあります。
ひとつは「無意味な3文字綴り」を使った実験だということです。
エビングハウスは「DAX」「BEK」「YOF」のような、「子音+母音+子音」で構成される意味を持たない3文字の組み合わせを実験の参加者に覚えさせて、記憶の定着状況を測定しました。私たちが普段学習している「意味のある内容」を覚えることとは全く異なる実験の結果です。
この無意味な3文字綴りは、すでに持っている知識や思い込みの影響をできるだけ除いて、「純粋にどれくらい忘れるのか」を測るための工夫だったのです。
2つ目は、エビングハウスが測っていたのは、「20分後に無意味な3文字綴りを何%覚えているか」ではなく、「20分後にもう一度完全に覚え直すとき、どれくらい楽になるか」という節約率だったのです。
例えば、無意味な綴りのリストを「完全に覚える」までに最初は10回の反復が必要だったとします。
同じリストを1日後にもう一度「同じ基準まで」覚え直そうとしたとき、今度は4回の反復で済んだとしたら、「6回分楽になった」ということです。つまり60%の節約率、というわけです。この60%がグラフの縦軸にプロットされているのであって、「60%の内容を覚えていた」という意味ではありません。また、100%から節約率の60%を引いて40%は忘れるという意味でもありません。
■誤解されて世に広まっている
ところが、多くの入門書や企業研修用の資料では、この節約率をそのまま「記憶の残存率」として紹介し、「1日後には67%忘れる」「1週間後には77%忘れる」といった誤解のある説明がされています。

さらに困ったことに、その数字が、意味を理解している知識にも、イメージしやすい内容にも、丸暗記にも、すべて一律に当てはまるかのように説明されているのです。しかし、そんなことはありませんよね。つまり、「エビングハウスの忘却曲線」を「私たちの勉強の忘れ方そのもの」と理解してしまうのは、そもそもグラフの意味を取り違えている、ということになります。
3つ目は、多くの本で紹介されている忘却曲線の横軸です。
先ほどの図表1を見てください。「1日後、7日後、31日後」のように時空(期間)が飛んでいます。こういうグラフは詐欺グラフと呼ばれることもあり、誤解を招きやすい見せ方です。エビングハウスの忘却曲線を説明する書籍や資料には、詐欺グラフに分類されるようなものも見かけます。「横軸の設定」が変わるだけで、グラフの印象が変わることもあるのです。
■「忘れる前に復習」は非効率
ここでお伝えしたいことは「意味がよくわからないまま、ひたすら同じものを機械的に暗記して、決められたタイミングで復習する」ような勉強をしてしまうと、エビングハウスが設定した覚えにくい条件(無意味綴り)の機械的な反復を、再現することになりかねないということです。
エビングハウスの忘却曲線に当てはまるような無意味なものを強引に覚える勉強は、そもそも推奨される勉強法ではないのです。
多くの人が、忘却曲線(図表1)に沿うように忘れていくことを恐れて、記憶が鮮明なうちに何度も復習しようとします。本書で述べた「忘れる前に復習する勉強法」です。もちろん、それでうまくいけばいいです。
でも、「忘れる前に復習する勉強法」は、そもそも多くの勉強時間が十分にないと実現できません。その上、この方法は認知心理学の研究では、効率的ではないということがわかっています。そのカラクリをちょっと見てみましょう。
UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のビョルク教授が提唱する概念に「望ましい困難(desirable difficulties)」というものがあります。
「望ましい困難」とは、学習時に「あえて負荷」をかけたほうが、長期的な記憶や学習効果が高まるということです。つまり、快適で楽な勉強はすぐに忘れ、しんどい勉強は身につくということです。筋トレと同じなのです。
■「忘れそう」「忘れた後」に覚え直すのが効果的
だから、「えっと、なんだっけ」と脳に汗をかいて、思い出そうともがく。こうした「負荷」のかかったときにこそ、記憶が強化されるのです。
また、ワシントン大学のヘンリー・ローディガー博士らの研究(2006年)によると、テキストを何度も読み直す再読よりも、何も見ずに思い出す努力をしたほうが、1週間後のテストの成績が約50%も高かったことが示されています。
だから、記憶が鮮明なうちに何度も復習するのは、単なる「現状維持の確認作業」で満足度は増えても、効率的ではないのです。
言い換えれば、「うん、知っている、覚えてる」と確認して満足しているだけです。涼しい顔をして筋トレをするようなものです。もちろん、それで筋肉が増強できれば問題ありませんが、そうではないですよね。
記憶の筋トレも同じです。もちろん時間が多くあれば、「忘れる前に復習」でいいと思います。でも、忘れる前に復習をしていたら、いつまで経っても日々の勉強が復習で終わり、前に進めることができないかもしれません。だから、忘れかけそうなタイミングや忘れた後で復習すればいいのです。自然と負荷がかかり、効果が高まります。

■「関連付け」「紐づけ」で記憶の定着率↑
しかし、それでも忘れてしまうこともあるでしょう。そのときに「あぁ、また忘れた……」なんて自己嫌悪に陥るのはもったいないです。
忘れることは、効率的に記憶するための兆しでもあるからです。だから、忘れることを恐れないでください。むしろ、忘れてから修正する過程が勝負です。訓練時は「望ましい困難」を受け入れて泣こうじゃありませんか。
ただ「望ましい困難」が効果的と言っても、困難ばかりでは心が折れます。望ましい困難以外に効果的な記憶方法はないのでしょうか?
そんなことはありません、それは、「あれ何だったっけ?」と「正解(知識)」を結ぶ「手がかり」を作る方法で、その手がかりとして「関連付け」や「紐づけ」があります(カリフォルニア大学デービス校の研究など)。
関連付けとは、新しい情報を、すでに知っている情報と結びつけることで、記憶の定着率が上がります(これを「精緻化効果」と言います。なお、意味のないものに無理やり意味付ける方法のひとつとして語呂合わせがありますが、これも精緻化のひとつで、科学的にも示されています)。
例えば「predict(予測する)」という英単語を覚えるときを想定してみましょう。ここではpredictを丸暗記するのではなく、パーツに分解することで「紐づけ」ができます。
■時間が経っても忘れにくくなる「関連付け」
● pre(前もって)+ dict(言う)
・preは、prepaid card(プリペイドカード:前払いカード)やpreview(プレビュー:試写)の「pre」と同じで、「前もって」という意味。
・dictは、dictation(ディクテーション:書き取り)やdictionary(ディクショナリー:辞書)と同じで、もともとラテン語のdicere=「言う」が語源の、「言葉を言う/話す」イメージのかたまりです。
つまり、「何かが起きる“前”に、あらかじめ口に出して“言う”」ことがpredict。だから「予測する」「予言する」という意味になる。
このように語源と意味を関連付けると、contradict:contra(反対に)+dict(言う)→「反対のことを言う」=反論する/矛盾する、のように、「dict=言う」グループとして芋づる式にまとめられるので、英単語も覚えやすくなります。
「関連付け」は、エビングハウスの実験で使われた「無意味な3文字綴り」による強引な暗記にならないためのアプローチのひとつです。
意味の理解や関連付け、自力で思い出すことによって、時間が経っても忘れにくくなることが多くの研究で示されています。
■生成AIに“関連付け”を尋ねるといい
ただ、このような関連付けをすぐに思いつくのは難しいです。そのようなときは「生成AI」に質問して、考えてもらうのもひとつの方法です。何かを覚えなくてはならない状況に直面したときは、プロンプトの入力欄に、「忘れないような関連付けを教えて」と入れて質問しましょう。実際、先ほどの英単語の例は、生成AIが教えてくれたものです。

一発でお目当ての関連付けを教えてもらえるとは限りませんから、何度も質問して、自分に合った関連付けを見つけましょう。何事も失敗や間違いを正解に近づける過程が大切です。
(引用文献・参考文献)
・忘却曲線における「節約率」の定義
Ebbinghaus, H. (1885). Über das Gedächtnis: Untersuchungen zur experimentellen Psychologie. Duncker & Humblot.
・望ましい困難(Desirable Difficulties)
Bjork, R. A. (1994). Memory and metamemory considerations in the training of human beings. In J. Metcalfe & A. P. Shimamura (Eds.), Metacognition: Knowing about knowing (pp. 185-205). MIT Press.
・再読よりも「思い出す努力」による成績向上(テスト効果)
Roediger, H. L., III, & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249-255.
・精緻化効果(Elaboration Effect)
Stein, B. S., & Bransford, J. D. (1979). Constraints on effective elaboration: Effects of precision and subject generation. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 18(6), 769-777.
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佐々木 淳(ささき・じゅん)
下関市立大学教養教職機構准教授
1980年、宮城県仙台市生まれ。東京理科大学理学部第一部数学科卒業後、東北大学大学院理学研究科数学専攻博士前期課程・東北大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻博士課程後期修了。博士(教育学)。元防衛省海上自衛隊数学教官、元代々木ゼミナール数学科講師。大学在学時から早稲田アカデミーで指導経験を積む。その後、代々木ゼミナール数学科講師を経て海上自衛隊で数学教官として勤務。著書に『身近なアレを数学で説明してみる』(SBクリエイティブ)、『世界が面白くなる! 身の回りの数学』(あさ出版)など。
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(下関市立大学教養教職機構准教授 佐々木 淳)
