PFASの検出は水道水からも

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 日本の「水」に新たな安全指針が生まれた。環境省は今年4月から、全国の水道事業者らに対して、水道水におけるPFASの検査実施および基準を遵守する義務を課した。自然界には存在せず分解されにくいため“永遠の化学物質”と呼ばれるPFASは、約1万種類ある有機フッ素化合物の総称である。水などを介して人間の体内に入ってしまえば、臓器に蓄積されて様々な健康被害を招くとされる発がん性物質だ。これまでPFASは、全国各地の河川や地下水などで検出される度に深刻な水道水の汚染が問題視されてきた。多発する「PFAS汚染」から我が身を守るためには、まず危険な化学物質がどれだけ体内に蓄積されているかを把握すること。その一丁目一番地とされる「血液検査」の実態に迫った。

PFASの検出は水道水からも

※新潮QUEで配信中の記事【発がん性物質「PFAS」最新情報 「血液検査」で基準値超の人がやるべき対策とは】を再編集したものです。

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【写真】ミネラルウォーターの中からPFASが検出されたという報告例もある

 PFASといえば、今年2月のミラノ・コルティナ冬季五輪でも話題となったことをご記憶の方もいるだろう。男子スノーボードのパラレル大回転で、日本人選手が使うボードに塗られたワックスにPFASが含まれていたことが「ルール違反」とされ、失格となってしまった一件である。

 PFASは撥水性にも優れた特性を持つことから、かつてはウィンタースポーツ用品などを製造する際に欠かせない化学物質だったが、今や欧米では“人体に有害”として徹底的に駆逐。すでに日本を含め先進国のほとんどで製造・使用が禁止されているのだ。

 そうした世界的な動向を受けて、ようやく今春から日本でも水道水に対するPFASの安全基準が見直され、すでにミネラルウォーターなどもPFASの検査・基準値遵守が法的に義務化されている。具体的な水質基準について、東京都水道局の公式サイトでは<PFOS及びPFOAを「水質基準項目」とし、基準値としてPFOS及びPFOAの合計として50ng/L以下であることと規定>と記されている。ここに書かれた2つの聞きなれないアルファベットの名称はPFASにおける主要な化学物質を指すが、<50ng/L>という「基準値」については<50ng/Lの水道水を1日2L、生涯にわたって摂取しても、健康への影響が現れない濃度として設定しています>と解説している。はたして、これをもって国のPFAS対策は万全といえるのだろうか。

「日本における水道水の安全基準は見直すべきだと考えます。水道水の基準である50ng/Lという値は、欧米なら10年前の水準。より厳しい基準を課す国が出てきています」
 
 と話すのは、PFAS研究の第一人者である京都府立大学大学院生命環境科学研究科(食環境安全性学研究室)の原田浩二教授だ。

「すでにアメリカでは水道水の基準として4ng/Lという値を設定していますが、これを日本に当てはめてしまえば、おそらく国内にある浄水場の1割以上が基準値を超えてしまう。すべての浄水場がすぐには対応できないと思います。アメリカでも2031年までに達成しようという値ですので、日本でも、中長期的であっても、減らしていくという考え方が必要です。そもそも日本はPFOAとPFOSという2種類のPFASを合計した基準値ですが、水道水にはそれ以外のPFASも含まれます。欧米ではそれらも含めた上での基準を作っていますから、日本でもPFASの対象を2種類に限らず、より範囲を広げることも視野に入れた厳しい基準作りが求められるのではないでしょうか」

食品から検出されるPFAS

 欧米に比べて日本は水質基準が緩い上に、今でも全国各地で高濃度のPFAS汚染が報告されていると聞けば不安は尽きない。これまでPFASによって水道水が汚染されているとされた地域としては、東京都の多摩地域をはじめ岐阜県の各務原市、愛知県の豊山町、京都府福知山市、兵庫県明石市、岡山県吉備中央町、広島県東広島市、沖縄県の複数の自治体が挙げられる。

 汚染エリアの多くは、自衛隊や米軍の基地、PFASを扱っていた工場や産廃処理場などが立地していた。基地においては、航空機火災などに使うための泡消火剤に含まれていたPFASが、消火隊の訓練で滑走路周辺に散布された結果、地下水に染み込んで河川や井戸水などの水源地が汚染されたのが原因ではないかと見られている。

 昨年には、沖縄県内の米軍基地周辺にある河川でPFASが検出されたとして市民団体が公害調停を申請。大阪府摂津市でも、空調メーカー大手のダイキン工業の工場から多量のPFOAが検出されたとして、地元住民が公害調停を申請するなど、各地で社会問題化しているのだ。

 これらの地域では、すでに水源地の付け替えや浄水場のろ過設備を強化するなど対策を講じ、水道水のPFAS濃度を国の基準値以下に抑え込んでいる。だが、前出の東広島市では、体内にどれだけPFASが残留しているかを調べる血液検査を受けた住民の1人から、アメリカの学術機関が定めた指標の110倍超の値が検出されたという。いかに水道水の水質基準が定められ、行政が安全だと周知したところで、すでに人体に蓄積されているPFASは簡単には消えてなくならない。体内のPFASが95%排出されるのに約40年かかるという専門家の試算もあるのだ。

 環境衛生学の専門家で、日本におけるPFASの汚染実態をいち早く調査・研究してきた京都大学名誉教授の小泉昭夫氏が言う。

「血液検査で、PFASの血中濃度が高いという結果が出た人の多くは、汚染された水や野菜などを口にしているケースが多い傾向が見られます。汚染された地域に住む人以外でも、PFSAが含まれた食材を食べればPFASの血中濃度が高くなってしまいます。たとえば、PFAS規制が遅れた中国近海で採られたアサリなどの海産物は、PFAS濃度が高い傾向にあります。PFASは肝臓などの臓器に濃縮され、蓄積されていきますから、貝類など肝臓組織が含まれる食材で、こうした地域のものはなるべく避けた方がいいでしょう」
 
 水や食材のみならず、日常生活においてPFASは、撥水性、撥油性といった利点を活かしてファストフードの包装紙や化粧品、日焼け止め、レインコートなどにも用いられてきた。PFASに汚染された地域の住民でなくても、知らず知らずのうちに体内へと取り込んでしまっている可能性は否めない。

国が「血液検査の基準」を作らない

 いったい自分の体内にどれだけPFASが蓄積していて、どれだけの健康リスクを抱えているのか。それを知る手助けとなるのが体内のPFAS血中濃度を測定できる「血液検査」というわけだが、実施にあたって課題は山積している。小泉氏は、こう指摘する。

「日本の場合、国が水道水におけるPFAS濃度の基準値は定めていますが、血中濃度については明確な値が決まっていません。アメリカは血中のPFAS濃度の基準として20ng/mlという値を設定しています。これを超えると様々な健康リスクが大きくなるといわれているのです。腎臓がんや精巣がん、肝炎や甲状腺の病気、コレステロール値が高くなる高脂血症を発症する危険性のみならず、妊娠中の女性が基準を超えると生まれた子どもが低身長や低体重、免疫異常になるリスクも指摘されています。環境省が2010年から約10万組の親子を対象にして行っている『エコチル調査』によれば、妊娠が発覚した母親のPFAS血中濃度が4ng/mlを超えたあたりから、子どもの染色体異常が増えているということが明らかになりました。母体への影響としては、妊娠中毒症や帝王切開などにおける出産時の事故の増加、また新生児の仮死状態などが増えていく傾向があることも分かっています」

「PFAS血中濃度が4ng/mlを超えた妊産婦の中でも、染色体異常の新生児を生む確率は400出生に1人。一般的に染色体異常は1000出生に1人なので、この割合はリスクとしては非常に高い。こうした報告を聞くと、前述した20ng/mlより低い血中濃度でも健康リスクが生じるのではという懸念を持たれる方もいると思います。一番の問題は、すでに環境省が調査を行いデータがあるにもかかわらず、国が血液検査に対して何ら基準を設けていないことなのです」(同)

 全国でもPFASへの不安から血液検査を受ける人は増えているという。

「住んでいる地域の水道水が国の定める基準をクリアしていても、血中濃度が20ng/mlを超えてしまっている人が続出し、不安は尽きません。例えば、ダイキンの工場がある大阪府摂津市や、水道水の汚染が発覚した兵庫県の宝塚市、明石市では、血液検査を受けた人の半数がアメリカの基準値を超えてしまっています。PFASは水道水のみならず、汚染された土壌で育った野菜など食物からも体内に入ってくる。目に見えない化学物質であるため、どこから入ってくるかを確認することができない。だからこそ血液検査が重要になってくるのです。自分の体の状態を知るという意味でも血液検査を行う必要性は大きいと思います。血液検査というのは総合指標です。血液は常に体内を循環しているので、たまたま検査した日が低かったということにはなりません。PFASの値が高い水や食物を口にした日だけ血中濃度が高くなるということもありません。これまでPFAS濃度の調査に従事してきた経験から、水道水や井戸水、それに土壌や農産物などは日によって数値が変動することは分かっていますが、人間の血液は過去の蓄積を示します。日によって数値が変わるということはないのです」(同)

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 かくして重要性が指摘される「血液検査」だが、自治体の負担や価格面の問題など課題が多く残されている。「新潮QUE」では、【発がん性物質「PFAS」最新情報 「血液検査」で基準値超の人がやるべき対策とは】として、いまも続くPFAS問題の現在地と「血液検査」の実態について詳述する。

デイリー新潮編集部