靖国参拝、消費税、自衛隊の呼称変更…保守層を落胆させる高市首相の“ちょっとだけ改革”
日本国民は令和8年2月8日に行われた総選挙で、高市早苗氏率いる自民党に圧倒的な勝利を与えた。多くの国民が高市早苗という政治家に、国の将来を託したのだ。
国家の運営は複雑で多岐にわたる。国内情勢はもちろん、世界情勢、技術革新、自然の変化等など、多くの変化要因を踏まえ、「解」を導き出す極めて難しい作業である。自民党が長年にわたって運営してきたわが国は、確実に世界における地位を落としてきた。これは、多くの国民が感じている現実だ。
不幸にしてわが国は自民党以外に政権を担える政党が育ってこなかった。政党の離合集散、数々の変革などのたびに、国民は期待してきたが、凋落(ちょうらく)傾向が上向くことはなかった。少子化問題、教育問題をはじめとするロングレンジの施策は、ほとんど功を奏しているとは言えない。
国家戦略の根本は「憲法」であるが、憲法問題となると、第9条に議論が集中し、「平和か戦争か」のいわゆる神学論争が繰り返されてきた。
一方で、すぐにでも実行できる政策もある。高市総理が「やる!」と決断し、組織を動かそうとするか、動かすことができるかだ。ここでは国民から見た、わかりやすい点と、防衛問題に関しての施策実行現状について考える。“ちょっとだけよ”で終わらないことを願う。
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国民目線から見る高市政権への期待と現状
簡単に言えば国民の望んでいることは「安心できる生活と明るい未来」であろう。高市氏が多くの国民に支持を得たのは、日頃の言動、自民党総裁選と、総選挙に際しての公約等に期待したからに他ならない。
「物価の安定」が総選挙の各党の目指すところであったと思うが、米国・イスラエルとイランの戦争、これに伴ったホルムズ海峡の封鎖など、予期しなかった事態に際して、物価は上昇を続けている。
安全保障、経済問題など、複雑な要素の絡む問題は、施策実行に時間がかかるとともに、すぐに結果が出るものでもない。ここでは、国民から見た、わかりやすい点と、防衛関連事項についてチェックしてみる。
1.靖国神社参拝問題
高市氏は、前回、石破茂氏と自民党総裁選を争った時、総裁になっても、総理になっても、これまで通り靖国神社に参拝すると明言していた。総務大臣就任時にも参拝されていることから、総裁選後すぐに秋の例大祭があった際、保守層のかなりの人が参拝するのではないかと、ひそかに期待していた感がある。
今回の総裁選、総選挙では靖国参拝は公言されなかった。はたして、総選挙後の総理大臣就任以降の春季例大祭には参拝しなかった。保守層はがっかりした感がある。なぜなら、総理大臣が靖国神社に参拝し、今後も継続的に参拝することを明言する以外に、この問題に関する、他国の不当な内政干渉を断ち切ることはできないからだ。高市総理はその機会を逸したといえる。
2.食料品の消費税ゼロ
高市氏は食料品の消費税をなくすることは「悲願」とまで言われたと国民は記憶している。しかしながら、その後の推移をみると、「給付付き税額控除」導入までの暫定措置、「消費税1%」案など、分かりにくい事柄がごそごそ出てきた。また実施時期も来年春だという。怪しげな情勢である。
政治家が明言したことを、どうしてスパッと実行できないのか。トランプ大統領のやり方がうらやましい。
3.防衛問題
最近になって、武器輸出と国家情報局に関する法案が可決した。ひとまず良しとする。しかしこれらは、通常の民主主義国家として極めて常識的な事柄であり、むしろ遅きに失した感がある。
また、専門的にみると、これらにも様々な制限、条件などがあり、運用も含めてよい方向へ進むことを願う。防衛三文書の改訂は、今後も引き続き議論されていく。現下の世界情勢に応じるのはもちろん、今後の推移にも十分に対応できる先進的な改訂を望む。
防衛に関する「呼称変更」
自民党は昨年10月20日に日本維新の会と政策合意をした。この中に、自衛隊における呼称の変更が含まれていた。また、総理補佐官に自衛隊の元将官を起用するなど、自衛隊に関する呼称が世界的に「普通」になることを期待した。しかし、聞こえてくるのは階級呼称の一部だけで、まさに“ちょっとだけよ”だ。
1.階級呼称
自衛隊創設以来72年になるが、階級呼称は改定されてこなかった。将官は将と将補であった、将補は補備・補欠の感があるので、適切ではない。今回は大将、中将、少将と変更される。佐官、尉官もそれぞれ、1等、2等、3等ということが大、中、少に変更される。これだけである。
現在の曹・士隊員は変更なしだ。「軍」「兵」の呼称が入るのにちゅうちょしたものだろうか。
2.職種呼称
従来から、陸上自衛隊の「普通科」には抵抗があった。普通科以外は普通でないのか、異常なのか。これも「歩兵科」「砲兵科」など、「兵」のつく名称への変更はなされない。そのほかにも、当初は「幕僚」を「参謀」に、各職種名称なども変更すると言われていたが、ことごとくなしだ。
しかし、呼称変更について、最近退職した元自衛隊高官に聞いてみると「それで何も問題がない」とのことだ。対外的には英語呼称なので、従来から、普通科(歩兵科)はINFANTRY(インファントリー)であり、NORMALでないし、特科(砲兵科)はARTILLERY(アーティラリー)でありSPECIALではない。その他の呼称も英語では世界で通用する米軍呼称できているのだ。
我々日本人的には、72年間も続いた呼称なので、常識になっているのだ。漢字表記を改めることは、日本人の心構えと考えてもいい。
階級呼称の「国際標準」への異論
今回の自衛隊の階級呼称の変更理由は、国際標準にしたとのことである。国際標準といっても、各国は、それぞれ違う階級構成であり、正確に国際標準と呼ばれるものがあるわけではない。
例えば、米軍では陸軍・空軍と海軍は階級呼称が異なる。例えば大佐(自衛隊の1等陸・海・空佐)は陸・空軍ではCOLONEL(カーネル)で、海軍ではCAPTAIN(キャプテン)だ。
漢字表記の軍隊でいえば、中国の人民解放軍、韓国軍、北朝鮮軍、台湾軍であるが、それぞれ独自の呼称がある。将官、尉官は各国間は概ね同一であるが、佐官というのは日本と北朝鮮軍以外にはない(韓国軍、北朝鮮軍はハングル表記のため、漢字表記はほとんど見られない)。
ちなみに、人民解放軍の佐官に相当する階級は大校、上校、中校、少校であり、韓国軍は大領、中領、少領である。大佐、中佐、少佐という呼称は、正に大日本帝国陸軍と海軍の呼称である。
議員連盟「国力研究会」に見る、先行きに関する疑問
国家を運営するにあたり、最も基本となるのは「憲法」である。自民党は政党としての基本的な方針事項を示す「綱領」に憲法改正を掲げている。いわば党を挙げて実現すべき事項の中心にある課題だ。
ところが、最近、高市総理を補佐し、憲法問題をはじめ諸問題を解決するためと称して、自民党内に議員グループ「国力研究会」なるものが設立された。自民党所属議員の8割以上が参加しているという。自民党には政調(政務調査会)という公式な機関があり、各分野の専門的な検討を行うことになっている。何故、屋上屋を重ねるような組織を作る必要があるのか理解に苦しむ。
防衛問題を考えていくと、ほとんどすべての課題が、「自衛隊が軍隊でない」ことに帰着する。高市総理は、その点を十分に認識されて、憲法改正による自衛隊の国防軍としての位置づけを目指す考えを述べられている。
戦後70年以上にわたり、国民が選択し、受け入れてきた常識が、世界で今後とも通用する情勢にはないように思われる。今や自衛官・自衛官出身者自身も「自衛隊」という名称に疑問を持たずに、誇りをもって勤務しているが、世界的にみれば、「SELF DEFENSE FORCES」は奇異なのである。
文/島本順光 内外タイムス
