フリーアナウンサー・神田愛花『北朝鮮を見た』

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不可解な国

4月中旬、1泊2日の韓国旅行に行った。今回の目的は、自分の目で北朝鮮を見ること。一昨年、北朝鮮を臨む韓国の展望台に、「スターバックス」がオープンした。北朝鮮までたった1.5kmしか離れていない、もし道があったら徒歩20分の距離だ。ニュースで知ってから、いつか行ってみたいと思っていた。

私にとって北朝鮮は、子どもの頃から不可解な存在だった。なぜ、日本人を拉致して還してくれないのか。なぜ、ミサイルを撃ち続けるのか。なぜ、対話さえできないのか。その″なぜ″を追求するべく、北朝鮮の地を踏みたいと思っていた。安藤優子さんのような、ニュースキャスターでありジャーナリストでもある存在を志してきたからだ。だが、報道番組に携わるチャンスを待って23年。未だその気配が感じられないので、とりあえず自力で北朝鮮を見ておこうと、そのスタバを訪れることにした。

展望台までは車で行く必要があるため、日本語ガイド付きツアーを申し込んだ。集まったのは13人。全員日本人だった。

明洞(ミョンドン)から1時間半。その間、ガイドさんが韓国と北朝鮮の歴史について説明してくれた。世界史を勉強してこなかった私には驚くことばかりで、辛い歴史に胸が痛くなった。

「もうすぐ到着です」と言うガイドさんの声と同時に車が停まった。ガイドさんは全員のパスポートを持って、行列ができている小屋へ。戻ると再び車が走り出し、ほどなくして現れた大きな門の前で停まった。フル装備の軍人さんが数人、こちらに向かって来た。検問だった。

(スタバに行くだけなのにこんな厳重警備?)と不思議に思ったが、ようやく悟った。私たちはただスタバに行くのではなく、軍事境界線に近づこうとしているのだと。韓国にとって北朝鮮との軍事境界線付近は、どこであろうととてもセンシティブだ。知ってはいたが、実感したのは初めてだった。

そして山頂に到着。スターバックスは本当にあった。看板こそ通常より目立たないサイズになっていたが、店内は見慣れたスターバックス。北朝鮮側は大きなガラス張りになっていて、その方向にソファが並べられていた。すでに様々な国の観光客たちで満席だった。

私はコーヒーを買って外に出た。展望台の眼下にはベージュ色に濁った大きな川が流れていた。その真ん中が軍事境界線。それを越えた先は、北朝鮮だった。

見渡す限りほぼ林だが、真正面に小さな町があった。1/3くらいが畑で、道は舗装されておらず、5階建てくらいの白いアパートのような建物が15棟ほど点々と建っているだけの町だった。

日本にはない感覚

常設の望遠鏡でアパートの中を覗いてみた。1棟目、2棟目……(ん?)違和感を覚えた。どの部屋も真っ暗で、中に家具も人影も何も見えないのだ。そもそもこんなに土地があるのに、どうして平家ではなく集合住宅なのだろう。

ガイドさんに聞くと、驚くことにそれらはすべて見せかけの建物で、中には誰も住んでいないと言うのだ。電気も水道も通っておらず、ただのコンクリートの壁。北朝鮮は韓国側から見られていることを知っていて、自分たちの生活水準をアピールするため、あえて韓国からよく見えるその場所にニセモノの町を造ったのだと教えてくれた。

さらに人が一人歩いているのを見つけた。全身真っ黒な服を着た男性で、手には白いビニール袋をぶら下げていた。ゆっくりと歩き……林の中に消えて行った。見る限りその先はずーっと林。どこから来てどこへ行くつもり? そもそもニセモノの町に何の用事が? 理解できないがゆえに、底知れない恐怖を覚えた。

帰りの車の中で考え込んだ。日本は島国だ。島国だからこそ抱える近隣諸国との問題は多く、子どもの頃からそれを学んできた。自由に行き来できるEUのように、隣国と地続きであれば得られる″自由″も多く楽しいだろうと羨ましさを感じてきた。だが、韓国と北朝鮮のように、もし地続きの隣国同士が長い間争う関係だったとしたら? 日々、想像できないほど不安に違いない。そう思うと私には島国が合っているし、ちょうどいい。まさか北朝鮮を見に行って日本の良さを感じるなんて。一生の思い出に残る、意外な旅行になった。

かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中

『FRIDAY』2026年5月15・22日合併号より

イラスト・文:神田愛花