漫画家の玉越博幸氏

写真拡大

 SNS上で議論になりがちな「漫画家になるために専門学校に行く意味はあるのか」論争――。実際、代々木アニメーション学院に通い、卒業後にプロデビューを果たした漫画家・玉越博幸氏はどう考えているのか。『BOYS BE…』で、男子中高生から熱狂的に支持されたレジェンドが当時を振り返る。【取材・文=山内貴範】

【写真】漫画家・玉越博幸さんが「セーラー服姿の少女」のイラストを完成させるまで

クラスメイトの才能に衝撃を受ける

――玉越先生のクラスで、周りの生徒はどんな雰囲気でしたか。やはり、漫画に打ち込んでいる人が多かったのでしょうか。

玉越:専門学校に行くとわかるのですが、クラスには絶対に自分より上手い奴が2〜3人はいます。僕は高校時代、自分の漫画は最高に面白いと思って天狗になっていたのですが、その鼻を見事に折られる体験をしました。

漫画家の玉越博幸氏

 5月くらいに、和気藹々とみんなで漫画を見せあったとき、僕は自慢げに見せたのですが……。クラスメイトのYさんが持ってきた漫画を目にして、衝撃のあまり動けなくなってしまいました。今すぐにでも商業誌で通用するようなレベルで、言葉が出なかった。

 世の中には本当に上手い人がいるんだなと。この体験から、漫画に対する考え方、向き合い方が大きく変わりましたね。「自分の今の絵じゃダメだ、この内容だと読者はついてこない」と感じ、必死に漫画を勉強したのを覚えています。

――今はネットで上手い人の絵はいくらでも見られるわけですが、ほぼ同い年の才能ある人と、実際に対面できるのは大きな刺激になりますよね。

玉越:ネットやSNSに上がっているイラストって、確かに上手いかもしれないけれど、画面越しじゃないですか。生で上手い絵を見ると、とんでもない破壊力があるんですよ。先日、麻宮騎亜先生のイベントに行ったとき、会場に色紙が飾られていたのですが、それを見た時も「どうやって描いているんだろう……」と驚きましたし。

 もっとも、当時はアナログで、現在はデジタルが主流です。それでも漫画を描いた本人に会って、実物を見せてもらうことに意味はありますよね。描き方を直接教わることができて、勉強になりますから。いつの時代も人と会うことは大事だと思います。

――ちなみに、玉越先生が考える、“漫画家になれるための資質”のようなものはあるのでしょうか。

玉越:専門学校に入学する前に、“漫画を1本でも完成させられているかどうか”ですね。凄く大事なポイントで、これだけでだいぶ、ふるいにかけられると思います。漫画家になれる人は、黙っていてもどんどん描くんですよ。そして、専門学校に入ると、恵まれた環境や人間関係をフルに使って、自分のものにしていけると思います。

リモート時代の専門学校の意義

――IT系の企業など、様々な企業が漫画に関わるようになり、漫画家のアシスタントの需要が高まっています。かつては、新人がプロのもとでアシスタントをしながら技術を習うスタイルが多かったと思いますが、リモートの定着でほぼ消滅しています。技術を習得できる専門学校の教育が、ますます重要になってくると感じます。

玉越:いろいろな教育の仕方があると思うんですよ。例えば、卒業生の漫画家に協力してもらって、現役の生徒に背景を依頼するのもアリでしょう。授業で「こんな背景の依頼が来たけれど、君はどう描くか」と課題にして、もし採用されたら給料が発生する。そういう授業が考えられると思います。

 漫画の背景の需要は高いですし、自分で描いた“素材”を販売している人もたくさんいますよね。授業の一環で背景を描かせて、ネットで売るのもいいでしょう。少しでも、学費代の足しにできる人も出てくるでしょうから。

――プロの漫画家の原稿に自分が描いた絵が採用される、こうした成功体験を学生時代に積み重ねることは意義があると思います。これから専門学校に行きたいと思っている人に対して、メッセージをお願いします。

玉越:やはり、先生の話をしっかりと聞くべきですね。授業がためにならないと感じる先生もなかにはいるけれど、後々、実は意味があったんだなと気づくことがあったりします。

 とにかく、授業は真面目に受けた方が良いと思います。先ほども話したように、僕はズル休みせずに毎日学校に通っていました。クラスメイトのなかには徐々に来なくなる人もいましたが、親にお金を出してもらっているのに通わなくなるなんて、僕には信じられなかったですよ。

 あとは、具体的な目標があれば最高ですね。「卒業するまでに漫画家になる」などでいいでしょう。目標が立てられれば、先生にも相談しやすいと思うんですよ。「この内容が16ページに収まらないので、どうすればいいですか」とか、質問できますし。何より、一生懸命描いていれば、周りが見て評価してくれると思います。

――素晴らしいメッセージですね。この記事を読んだ専門学校の関係者から、玉越先生に講師の依頼が来るんじゃないですか(笑)。

玉越:母校で特別講師とか、実は一度もやったことないのでやりたいですね。もしかなうのであれば、若い漫画家志望者と会って、考え方や雰囲気を感じてみたい。そこで感じ取ったことが、僕にとっての創作のエネルギーになると思いますね。

 第1回【平成男子のバイブル『BOYS BE…』著者インタビュー SNSでは悪評だらけ「漫画の専門学校」に行くメリット「私は一度も授業を休まず“代アニ”に通い続けました」】では、人気漫画家で、代々木アニメーション学院出身の玉越博幸さんに、漫画の専門学校に通うことになった経緯、また、通うことの意義について伺っています。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部