ビジネスの場では、どのような服装をすればいいのか。パーソナルスタイリストの政近準子さんは「IT系の人で、アップルのスティーブ・ジョブズやフェイスブック(現メタ)のマーク・ザッカーバーグのまねをして、黒やグレーのTシャツしか着ない人がいる。こうした服装の『制服化』には気を付けたほうがいい」という――。

※本稿は、政近準子『装力』(時事通信社)の一部を再編集したものです。

アップルの世界開発者会議(WWDC)で基調講演を行ったスティーブ・ジョブズ(写真=Ben Stanfield/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)

■服は「着る人の心」から始まる

服は身体に身に着けるものですから、「マインド(心・精神)によって服を着ている」と思っている人は多いと思います。

もちろんそうなのですが、本当は「マインドが服を着ており、服がマインドを作っている」のです。

たとえば、子どもの頃、何かのキャラクターになってみたことは誰しもがあると思います。仮面ライダーになってみたりシンデレラになってみたり、コスプレ衣装を持っていなくても、マインドが「○○になりたい!」と思っていれば風呂敷でマントっぽくしたり、お母さんの長いスカートを履いてみたりしただけで、もうその気分になりますよね。これは、「マインドが服を着ている」例です。

そして、もしその当時の衣装が残っていれば、自分の子どもにそれを着せてみると、最初は気が進まなかった子も、あら! その気になってポーズをとってしまうかもしれません。これは、「服がマインドを作った」瞬間です。

あるいは、会社に行くとき、今日は疲れているなぁ、休みたいなぁ、と思いながら出勤すれば、服も元気がなく見えてしまうものです。

しかし今日は疲れているから、あえて気分が上がる服を着ていこう! と鼓舞したら思っている以上に体調が回復したり、乗り切れたりした。そんな経験はありませんか?

これも、「服がマインドを作った」例です。

■「思考停止の服選び」から脱却するには

自分が買った服は、本当に自分の心で決め切って買っていますか?

現代は、自分の中に軸がなく、「情報によって服がある」と信じ込んでいる人がたくさんいますが、マインドフルな状態で服を考えることが重要です。

それには、服装におけるマインドフル、マインドレスの状態を知る必要があります。

それぞれの状態については、図表1を参考にしてください。

出所=『装力』(時事通信社)

また「服がマインドを作る」とは、服はマインドを減少させたり増幅させたりすることも意味します。

たとえば、仕事で大きなプロジェクトを動かすようなプレゼンをする機会があるとします。

そのプロジェクトをどう動かし成功に導きたいのか、内容に準じて何を着て伝えることがマインドを増幅させるのか、服は「いざ」というとき、可能性を大きく拓いてくれるものです。

マインドと服の関係の実験を繰り返すことで、その場に応じた真の自分らしさを表現できたり増幅させたり、状況を好転させることもできるのです。

■ジョブズを真似する人の勘違い

たとえば、IT系の人で、アップル(Apple)のスティーブ・ジョブズやフェイスブック(Facebook)のマーク・ザッカーバーグのまねをして、黒やグレーのTシャツしか着ない人がいます。ジャケットを着たとしても、インナーはシンプルなTシャツかポロシャツ、といった服装で、もはや制服化をしているように見えます。

自分でその装いを決めたジョブズ自身はいいとして、「ノームコアがかっこいい」とか「流行ってる」「あれならできそう」という理由で、そのスタイルをまねるだけなら、実は他人から見て全員同じに見えていて、マインドレス。

重要なプレゼンの日までも、ジョブズと同じスタイルでいつもと変わらない――そんな姿をよく見るようになりましたが、果たしてそこに自分の意思はあるのでしょうか?

せっかくの素敵な中身が、制服化によって埋もれているのはもったいないです。

■夏のビアパーティで露呈した「マインドレス」

また、招待されて行った、数社の会社合同の夏のあるビアパーティでのことです。

写真=iStock.com/naturalbox
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/naturalbox

演奏を披露するメンバー以外は、ほぼ全員が半袖シャツにダークカラーのスラックスでスーツジャケットを脱いだスタイルでした。夜7時からだったので、「一度家に帰ってシャワーを浴びてきた」と言う人が意外とたくさんいたにもかかわらず、会社帰りと全く同じ服装なのです。少しだけでも小物などで手を加えて、自由さを演出すると、若々しくなるのになあ、と思うのですが……。

せっかくの仕事以外の楽しい集まりのはずですが、そのマインドは服装には反映されていませんでした。

これらはマインドレス状態が通常になっており、そのことに疑問も感じなくなってしまっている例でしょう。

すると、つい「この業界はこんなもんだから」と他責にしてしまいがちですが、果たしてそうでしょうか?

仕事の延長で終わらせず、ちょっとした変化で遊んでみるなど、人生もっと楽しみましょうよ! と私は思いました。

貴重な機会なのですし、中身の素晴らしい方々なのですから、それぞれの装いで表現しないのはもったいないです。

「それが普通」「別にそれ以上も以下も望まない」というマインドレス(=無自覚・無思考・惰性)は服装以外のあらゆる場面で起きています。

■「これが自分」は単なる思い込み

ファッション以外の「マインドレス」事例をいくつかあげてみましょう。

・挨拶の形骸化(心がない儀礼)

言葉としての「おはよう」「お疲れ様です」は言えるのに、相手の目を見ず、温度もない。

これは、社会人では特に多いです。

装いも同じで、見せかけだけ整えても、在り方が伴わなければ伝わりません。

・SNSでの“なんとなく同調”

流行っているから「いいね」を押す。炎上に乗って相手を深く知らずに叩く。多数派が安心なので意見を持たない。

ファッションにおける「量産型」「無難選び」と同じ構造で、自分の価値観で選ばず、外部の“空気”に装いを委ねてしまっています。

・会議での無難な沈黙

自分の意見があるのに言えない。否定されるのが怖くて、ただうなずくだけ。リスクはとらない。

これも、服選びにおける「黒を選んでおけば安全で無難」といったようなことと同じです。

・食事や生活習慣が投げやり

政近準子『装力』(時事通信社)

栄養や健康を考えずに食べる。何となくダラダラ飲む。逆にサプリメントに頼りきり。

こういった人は、自他を大切に扱う装いができない人と根っこの部分が似ています。

これらの習慣がいつの間にか定着し、進化しない自分を「これが自分」と思い込み、「これがこの業界」「これが会社」とすべてが“仕事の一部”になり、本当の自分らしさをないがしろにしているうちに、人生が終わってしまうかもしれません。

私はいつもこうした人たちに会うと、放っておけなくなってしまいます。

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政近 準子(まさちか・じゅんこ)
日本のパーソナルスタイリスト創始者
有限会社ファッションレスキュー代表。日本におけるパーソナルスタイリストという職業を創出し、業界を確立。大手アパレル勤務後、イタリアで研鑽を積み、帰国後に独立。累計2万人以上の装いを支援し、主に政治家・経営者・起業家など社会の第一線を担う人々のスタイリングを手がける。業界初となる百貨店でのパーソナルスタイリング常設カウンターを実現。NHK「あさイチ」「おはよう日本」ほか多数メディア出演。Eテレではファッション教育番組を担当。企業研修や講演はマッキンゼー・アンド・カンパニー、JR東日本、三井ホームほか多数。大学での講義も行い、次世代教育に力を注ぐ。
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(日本のパーソナルスタイリスト創始者 政近 準子)