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ゴールデンウイーク(GW)はいかがお過ごしですか? 連休を利用して、離れて暮らす家族に会うという人もいるのではないでしょうか。もっとも、なかには子の帰省を"心から喜べない”親もいるようで……。本来であれば楽しみで仕方がないはずの娘の帰省が、とある理由から憂鬱なものに変わってしまった60代夫婦の事例をみていきましょう。

年金生活に入った夫婦に届いた「一通のメッセージ」

タツオさん(仮名・68歳)は、3年前に長年勤めた不動産会社を定年退職しました。その後は仕事をしておらず、妻と二人で年金生活を送っています。

現役時代のタツオさんの年収は1,000万円を超えることもあり、家計に大きな不安を感じることはありませんでした。退職後も給与収入こそないものの、夫婦の年金額は月23万円でさらに貯蓄も1,500万円ほどあり、金銭的な心配はありません。

しかし、そんな夫婦にはいまひとつの深刻な悩みがあります。

定年後も止まらない、ひとり娘の「援助要求」

ある日タツオさんが自身のスマートフォンを見ると、通知が届いていました。画面に表示されたのは、ひとり娘ジュンコさん(仮名・30歳)からのメッセージです。

――GW帰るので、交通費よろしく!

タツオさんの悩みの種は、このジュンコさんの存在です。

ジュンコさんは現在、アルバイトをしながら東京でひとり暮らしをしています。収入は安定しているとはいえず、生活には余裕がありません。そのため、帰省のたびにタツオさん夫婦へ金銭的な援助を求めるのがいつの間にか当たり前になっていました。

「今月ちょっと厳しくて……生活費、少しだけお願いできない?」

「推しのライブがあってさ、どうしても行きたいんだよね」

帰省する際の新幹線代まで「私に会えるんだからいいでしょ」と言わんばかりに、当然のように請求してきます。やがて、帰省のときだけでなく、日々のメッセージのやり取りのなかでも遠回しに援助を求めるようになりました。

これまでの援助額を振り返ると、平均して月10万円以上。現役時代であればそれほど大きな負担ではありませんでしたが、現在は年金生活です。「定年になったんだから少しは気を遣ってくれるだろう」と期待していたタツオさんでしたが、ジュンコさんのスタンスが変わる気配はありません。

なぜ「援助はできない」と言わないのか?

ジュンコさんはタツオさん夫婦にとって、年を重ねてから授かったひとり娘でした。そのため、独り立ちするまでのあいだ、二人は惜しみなくお金をかけて育ててきたといいます。

「娘は悪気なく、『親が援助するのは当然』だと思っているのかもしれません……でも、だからこそ無下にできないんです」

定年直後、退職金と貯蓄を合わせて約2,000万円あった資産は、わずか3年で500万円も減りました。ジュンコさんへの援助で、大事な自身の老後資産がどんどん削られていきます。

かつては溺愛していたひとり娘を心から歓迎できない夫婦の胸中は複雑です。「このままではまずい」と、タツオさんは妻に相談のうえ、ファイナンシャルプランナー(FP)に相談することにしました。

このままでは10年後に老後破産

夫婦の現在の収支や資産状況を整理したうえで、今後の支出も含めたシミュレーションを行います。

FPが夫婦にヒアリングすると、今後想定される主な支出として、タツオさんは次の3つを挙げました。

・車の買い替え(5年後)……約300万円

・自宅のリフォーム……約200万円

・娘への援助……月10万円

FPがこうした支出を反映して資産推移を試算すると、できたグラフにタツオさんは思わず言葉を失いました。79歳時点で資産がマイナスに転じ、このままではあと10年ほどで資産が尽きる計算です。

「そんな……」

老後の家計の特徴として、収入が減る一方、まとまった出費が重なりやすいという傾向があります。こうした出費を見込んでいなかったがために、資金が枯渇してしまう人も少なくないのです。

「シニアの老後破産」の実態

日本弁護士連合会「2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」によると、全破産債務者のうち60代は16.71%、70代は11.84%でした。

[図表]破産債務者の年齢別割合 出典:日本弁護士連合会消費者問題対策委員会「2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」

50代が一番多いものの、老後に入ってからの破産も決して珍しいものではありません。一定の資産があっても支出の見通しが甘いと、資産は“自分が思っている以上のスピード”で減っていくのです。

「老後破産」を防ぐ具体的な対策は?

こうしたリスクを防ぐうえで有効なのが「ライフプラン表」の作成です。

ライフプラン表は、将来の収入・支出・資産残高の推移を時系列で整理します。「いつどれだけお金が必要か」を見える化するイメージです。

老後は次のようなまとまった支出が発生する可能性があります。

・自宅の修繕(外壁や屋根の補修、設備の交換など)

・夫婦での旅行や趣味

・車の買い替え

・親や配偶者の介護

・子どもや孫への資金援助

・医療費や入院費用

こうした支出のタイミングと概算金額を事前に洗い出しておくことで、「いつどれだけお金が必要か」を可視化し、備えることが重要です。

親子の「その後」

そして迎えたGW。

ジュンコさんが帰省したタイミングで、ついにこれまで避けてきた話し合いを行うことにしたのです。

「お、おかえり……ジュンコ、ちょっといいかな」

FPと作成したライフプラン表を見せながら、このまま援助を続けると将来的に家計が立ち行かなくなることを正直に伝えると、ジュンコさんはショックを受けた様子。自分の行動が両親に負担をかけていたことに気づいたようです。

そして親子は、資金援助のルールを決めることに。援助自体は継続するものの金額に上限を設け、双方が無理のない範囲でやりくりできるようにしました。

老後資金の不安は、家族間で共有しなければ解決しにくいのが実情です。タツオさんのケースのように、現状を見える化したうえで話し合うことが、親子の家計を守る第一歩となるでしょう。

辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP