「4歳の妹が万引き常習犯に」「警察は何もしてくれない」差別的な日本人の食い物にされたクルド人家族の悲劇「もうクルド人とも名乗れない」
〈「お母さん、大変だよ!」SNSで拡散したのは“4歳妹の万引き動画”⋯「クルド人は子どもも犯罪者だ」難民家族を追い詰める『日本製・フェイク動画』の衝撃〉から続く
「お母さん、大変だよ!」――拡散された動画は、4歳の妹を“万引き犯”に仕立てたフェイクだった。再生回数は300万回超。家族を襲ったのは、虚偽と憎悪の連鎖だった。この投稿は誰が、何のために作ったのか? 被害者家族のその後とは?
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ジャーナリスト・池尾伸一の新刊『仮放免の子どもたち 「日本人ファースト」の標的』(講談社)より、一部を抜粋・編集してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty
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「万引き常習犯」にされた4歳の妹
セレンは驚き、とにかく腹が立った。何も悪いことをしていない妹が、「万引き常習犯」にされているのだ。
動画をダウンロードして、両親と川口警察署に行き、動画をアップロードした人物を捜査するよう訴えた。クルド人団体の日本クルド文化協会もそう勧めた。いわれのない誹謗中傷は日本の刑法でも名誉毀損罪にあたるはずだった。
しかし、警察官は言った。
「顔が映っているわけではないですからね。裸でもないので、児童ポルノでもありません。SNSを運営している『X社』も、アカウントの運営者の情報はなかなか出してくれないですしね。これだけでは捜査が難しいですね」
父親のダワンは食い下がった。
「顔が映っていなくても、知り合いならばだれか分かってしまいます。それに、ダイソー店内のモニターカメラには、隠し撮りしていた人間が映っているのではないですか」
日本語があまり得意ではない父親のために、セレンも必死で通訳をした。しかし、警察官は「事件化は難しい」との回答だった。セレンの一家はあきらめて帰った。
「警察が動いてくれないなら、これ以上はどうしようもない」。ダワンは言った。
急拡大するクルド人ヘイト
クルド人を批判するインターネット上の投稿は、前年2023年ごろから急拡大していた。
改正入管難民法の国会審議に際し、クルド人らが記者会見したことがきっかけだった。「不法滞在者のクルド人を強制送還しろ」など単純な批判だけでなく、明らかなニセの情報でクルド人を誹謗するものも多かった。
セレンは、翌年に高校の受験を控え、受験勉強に忙しい中でも、XやYouTubeでクルド人について何が投稿されているのかが気になり、チェックするのが日課になっていた。
「『クルド人』で検索すると、めっちゃ出てくる。知っているクルドの人たちの写真がさらされている。犯罪をしているとか公園を不法占拠しているとか、噓の情報だらけでした」
そのたびに怒りと悔しさで心をかき乱された。「頭にくるのにチェックはやめられない。最悪でした」。そしてついにフェイク投稿の攻撃は自分の妹にまで及んだのだった。
噓の情報を投稿してまでなぜ
投稿から4日経った9月28日、投稿は消え、投稿者のアカウントも凍結されていた。しかし、その時点での再生回数は1000万回を超えていた。
「なぜ噓の情報まで投稿してクルド人を悪く思わせたいのか。もう地元の人だけでなく、日本中の人がクルド人は悪いことをしていると思い込んでしまっています」
セレンはそれまではクルド人であることを恥じたことはなかった。一家はトルコ南東のガジアンテップ出身。少数民族であるクルド人は歴史的にトルコ政府に弾圧され、公的な場所でクルド語を話すことすら禁じられてきた。
父のダワンは抵抗運動に加わり、トルコ政府に勾留されたり、拷問を受けたりしたとして日本に退避。難民申請したが、入管庁から不認定とされ、在留資格がないまま申請を繰り返している。
別に難民申請をしたセレンら残りの家族は、当初は在留資格を与えられていたが、2022年8月に不認定が確定し在留資格を失った。
一家全員が健康保険もないため病気になっても医療機関に自由に行けず、県外にも自由に出られない「仮放免」の状態だった。
しかし、苦しい生活の中でもセレンはクルドの誇りを持って生きてきた。特に毎年3月に開かれるクルドの祭り、ネウロズを楽しみにしている。
「クルド人」と名乗れなくなった少年
「クルドの伝統的な衣装を着て、みんなと手をつないで踊っていると、最高の気分になります」
しかし、いまは「クルド人といったら悪い印象を持たれると思う。いくら相手がいい人でも『クルド人です』と名乗ったら、悪い人だと思われるのが怖い」とおびえる。
2025年の春、セレンは川口市内の県立高校に合格した。学校でクルド人は自分一人だけだった。
「どこの国の人なの?」。入学式で初めて会った日本人の級友が聞いてきた。
「ク……」と言いかけて口ごもり、次の瞬間、答えていた。
「トルコ人だよ」
(池尾 伸一/Webオリジナル(外部転載))
