若者の帰省離れ? 成長が続いてきた東北新幹線に“異変” JR東日本を襲う人口構造の変化
帰省は「世代ごとの居住地ギャップ」が生み出す
コロナ禍で人々の行動様式は大きく変わりましたが、その一つが帰省といわれています。高齢者の感染は命にかかわることから帰省を見送り、そのまま子どもが大きくなって頻度が減ってしまった人、終息までの間に両親・祖父母が亡くなってしまった人もいたことでしょう。
【成長にブレーキ】低迷している東北新幹線系統の旅客数を見る(推移グラフ)
帰省の機会が減れば、鉄道利用のピークである年末年始やお盆の利用も減少し、鉄道事業者の経営に悪影響を及ぼす可能性があるのではないかとの指摘があります。コロナ禍は帰省を変容させ、帰省文化の変化は鉄道事業に影響を与えているのでしょうか。
帰省文化は1947(昭和22)年から1949(昭和24)年にかけて生まれた、いわゆる「団塊の世代」と密接な関係にあります。彼らは地方から大都市、特に東京に出て就職し、そこで家庭を築きました。地方の両親に子どもを会わせるため、数時間かけて地方に行くのが一般的な帰省のイメージでしょうか。
つまり帰省は、世代ごとの居住地のギャップが生み出します。1990(平成2)年の国勢調査から世代別の地方圏(東京・神奈川・埼玉・千葉・愛知・大阪・京都・神戸以外)居住者の割合を見てみると、当時の団塊の世代が含まれる35〜44歳が55%、その親世代である65〜74歳は63%なので8ポイントの差がありました。これは大雑把な計算ですが、若者ほど大都市におり、長期休暇で地方に向かう構図が分かるかと思います。
ところが、1971(昭和46)年から1974(昭和49)年に生まれた団塊ジュニアになると事情は変わってきます。彼らが41〜43歳だった2015(平成27)年の人口推計では、35〜44歳が50%、団塊世代にあたる65〜74歳は54%、ギャップは4ポイントに縮まっています。団塊世代が現役引退後も大都市圏に残ったことで、団塊ジュニアの帰省先は地方ではなくなりました。
もっとも平均寿命は1990年の男性75.9歳、女性81.9歳から、2020年には男性81.5歳、女性87.1歳まで長寿化しており、乳幼児を連れて祖父母宅に帰省した団塊ジュニアも少なくなかったでしょう。そこにコロナ禍の5年のギャップが生じれば、その間に帰省の機会を失った人もいるかもしれません。
帰省は「限られた人の行事」になる?
若者の大都市集中はさらに進んでいます。2024年の人口推計における地方圏の割合は、45〜54歳と35〜44歳がともに49%、25〜34歳は45%となっており、下の世代はさらに減少しています。団塊ジュニアの子ども世代、1997(平成9)年から2012(平成24)年頃に生まれた「Z世代」と呼ばれる人々が親になる頃には、そもそも地方に帰省先がない、ということになりそうです。
ただし見過ごしてはならないのは、都市集中が進んでいるとしても、未だに人口の半分程度は三大都市圏外にあることです。東京圏の転入超過は過去10年、10〜14万人程度で推移しており、その中心は20代です。彼らはこれからも都心から地方へ帰省するでしょう。
しかし絶対値で見ると帰省者数は必ず減少します。団塊世代が年あたり260万人、団塊ジュニアが200万人いたのに対し、1990年代中盤から2000年代前半に生まれたいわゆる「Z世代」は100万人程度で推移。出生数は2016(平成28)年に100万人を割ると急激に減少ペースが高まり、2025年は70万人に届きませんでした。
1970(昭和45)年を基準とする年少人口(0〜14歳)は、1都3県が1990(平成2)年に97%、2020年に77%だったのに対し、東北6県は1990年の81%から2020年の41%へ急激に低下しています。結婚しない、子どもをつくらない選択をする人も増えており、年末年始・お盆の帰省は限られた人が行う行事になるのかもしれません。
新幹線の利用者数は本当に減っているのか?
では実際に、鉄道利用に影響は出ているのでしょうか。年末年始の路線別利用者数から山形・秋田新幹線の推移を見てみましょう。比較対象は年末年始期間が10日間(金曜日始まり)だった2001年度、2007年度、2014年度、2019年度、2024年度、そして直近の2025年度です。なお年末年始利用者は旅行者なども含みますが、割合は一定と仮定して話を進めます。
秋田新幹線(盛岡〜田沢湖)は2001年度に9.3万人、2007年度に10万人を記録するも、以降は9.4〜9.7万人にとどまっています。山形新幹線(福島〜米沢)は2001年度の12.6万人、2007年度の13.5万人から2019年度に14.3万人まで増加しますが、2024年度は12.6万人、2025年度は12.7万人と低迷しています。鉄道対航空機シェア(全国幹線旅客純流動調査)は大きく変化していないので、航空に奪われたわけでもなさそうです。
問題はミニ新幹線にとどまりません。東北新幹線(大宮〜宇都宮・古川〜北上)は2007年度の178.3万人から2014年度に190万人へ増加しますが、その後は2019年度の200万人までしか伸びませんでした。この間、東海道新幹線は307.5万人から365.1万人、406.9万人、山陽新幹線は156万人から180.4万人、193.9万人へと増加しています。
JR東日本全新幹線の年間輸送量でみても、2007年度は199.2億人キロ、2014年度は209.1億人キロ、ピークの2018年度は237.4億人キロでしたが、2024年度は226.7億人キロ(2025年度計画値は237億人キロ)です。一見、順調に伸びていますが、北陸新幹線の延伸開業効果を差し引くと東北新幹線系統の厳しさが見えてきます。
JR東日本の新幹線は線路容量上、増発が困難であること、天候に左右されやすいことを差し引いたとしても、停滞の背景に人口問題があることは間違いありません。実際、東北6県の人口は2008(平成20)年基準で2019年は9%、2024年は13%も減少しています。日本全体は3%しか減っていないことから見ても、東北新幹線の潜在顧客は減る一方なのが分かります。これは帰省文化の変容以前の、根本的かつ構造的な問題です。
東北地方を例にとれば、コロナ禍以前から人口減少が本格化し、東北新幹線系統の成長は鈍化しつつありました。帰省客の停滞も人口減少の一側面なのは間違いありません。そしてコロナ禍で停滞しているうちに経過した5年で、その変化がさらに鮮明になったというのが真相なのでしょう。
