この記事をまとめると

■ポルシェの「スピードスター」は軽量オープンの思想を体現する存在だ

■356から911へと受け継がれ70年以上の歴史をもつ

■最新のGT3 S/Cにもその精神が反映されているといえる

長い歴史をもつ特別なオープンポルシェ

 2026年4月16日、ポルシェより「911 GT3 S/C」が発表された。911のなかでも純然たる速さを求めたGT3は、996世代から現行992世代に至るまで設定され続け、GT3 RSを代表とした派生モデルもいくつか生まれたが、オープントップをもつGT3は今回のGT3 S/Cが初となる。

 911の歴史において、オープントップモデルは常に存在し続けてきた。初代こそルーフの一部のみが着脱式となるタルガのみの設定であったが、2代目930世代からはカブリオレが登場。現在では4WDモデルのカレラ4やターボSといった高性能モデルが設定されるほどの人気モデルとなり、今回とうとうGT3までもが登場した形となる。

 だが、オープントップの911において高いパフォーマンスとオープンエアの爽快さを両立したモデルとしては、やはり「スピードスター」を思い浮かべるファンが多いのではないだろうか。

 スピードスターの精神的な原点は911よりさらに古く、1952年に誕生した「356アメリカ ロードスター」に遡る。アメリカ市場向けに開発されたこのモデルは、手作業で製作されたアルミ製ボディを纏い、70馬力の水平対向4気筒エンジンを搭載。最高速度180km/hを叩き出した。

 はめ込み式のウインドスクリーン、折り畳み式レインカバー、軽量バケットシートという構成は、のちの歴代スピードスターに受け継がれる基本的な要素をすでに備えていた。生産台数わずか16台という希少さが、その伝説性をいっそう高めている。

 アメリカロードスターの思想を引き継ぎ、1954年にはじめて「スピードスター」の名を与えられたモデルが「356 1500スピードスター」だ。アメリカで2995ドルという当時としては手の届く価格で販売され、瞬く間にヒット。

 そして1957年登場の「356 A 1500 GSカレラ GT スピードスター」は、ポルシェの市販車として初めて最高速度200km/hの壁を突破するという快挙を成し遂げ、356スピードスター系譜の頂点に達した。

スピードスターの哲学は911に受け継がれた

 1988年、911に初のスピードスターが登場する。いわゆる「Gシリーズ」最終世代にあたる930型をベースにしたこのモデルは、ワイドなターボルック仕様とナローボディ仕様を設定。最高出力231馬力の911カレラをベースに2103台が生産され、911ファミリーのなかでもっともオープンエアを感じられるモデルとして高い人気を集めた。

 1993年には、964型をベースにした新しいスピードスターが登場した。ルーフを手動でより扱いやすく改良し、リヤのプラスチック製カバーのロック機構も最適化。内装にはボディと同色に塗装されたカレラRSバケットシートという特別仕様が奢られた。一方でエアコンやパワーウインドウといった快適装備はオミットされ、当初はエアバッグすら装備されなかった。生産台数は通常ボディが930台、ワイドターボボディが15台となった。

 歴代スピードスターのなかで、桁違いに希少なのが993型をベースにした1995年製だ。生産台数はたった7台。その最初の1台は、ポルシェのデザイン部門を担った巨匠フェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ自身のために開発されたもので、グリーンのボディに17インチホイールとティプトロニックSトランスミッションを組み合わせたカレラボディ仕様だった。2台目は米国の俳優ジェリー・サインフェルドのために製作。こちらはシルバーのターボワイドボディに18インチホイールとマニュアルトランスミッションという仕様で、ファン向けに市販された台数はさらに限られる。

 993に続くスピードスターの登場は、じつに15年後まで待たなければならなかった。2010年10月のパリモーターショーで世界初公開された997型スピードスターは、ポルシェ・エクスクルーシブ・マニュファクトゥール設立25周年を記念した特別モデルとして位置づけられた。3.8リッター水平対向6気筒から408馬力を発生し、手動で操作するフラットなソフトトップとリッド上の特徴的なダブルバブルが個性を主張。先祖へのオマージュとして生産台数は356台に設定され、日本市場にはわずか6台のみが正規輸入された。

 続く991型では、2018年にポルシェスポーツカー70周年記念として発表されたコンセプトカーが絶大な反響を呼んだことから市販化された。911 GT3譲りの500馬力超の自然吸気エンジンに6速MTのみを組み合わせ、独特のウインドウスクリーンとダブルバブルデザインを継承。さらにGT3スタイルのフロントバンパーやセンターロックホイールなど、一気にスポーツ性を高めた。

 現状、スピードスターは991型を最後に、992型では登場していない。だが今回、冒頭で述べたようにGT3シリーズ初のオープンモデル、911 GT3 S/Cが発表された。スピードスターの名こそ冠しておらず、デザイン上の大きな特徴であった手動ソフトトップやダブルバブルデザインも継承されていないものの、実質的にGT3のオープントップ・バージョンだった991スピードスターから考えれば、いたって正当な進化系と見ることもできる。

 余分なものを削ぎ落としオープンエアの疾走感を最大化するという「スピードスター」の哲学は、911 GT3 S/Cに受け継がれ、新たな章へと突入したのかもしれない。