木星と土星の「巨大衛星に関する謎」を解くシナリオを提唱 惑星の表面磁場強度の違いに着目【岡山大学】
京都大学、岡山大学、上海交通大学の研究グループは、惑星表面の磁場強度の違いが、木星と土星の巨大衛星に関する謎を解くシナリオを提唱しました。
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研究成果は、4⽉2⽇に英国の国際学術誌 Nature Astronomy にオンライン掲載されました。
「表⾯磁場強度」が衛星系の違いの謎を解く鍵
研究グループは、形成直後のガス惑星の内部構造をシミュレーションし、惑星表⾯における磁場強度を計算しました。
表⾯磁場強度が強い⽊星では、磁気圏降着という⽊星の磁場に沿ったガスの流れが⽣じる⼀⽅、⼟星は磁場が弱いため、磁気圏降着が起きません。
この違いが惑星近くに4つの巨⼤衛星をもつ⽊星と、惑星から離れた位置にひとつだけ巨⼤衛星をもつ⼟星という、衛星系の違いの謎を解く鍵になります。
木星と土星の違い
太陽系には、⽊星と⼟星のふたつのガス惑星があります。
⽊星には 100 個以上の衛星がありますが、なかでもイオ、エウロパ、ガニメデ、カリストの 4 つが他の衛星に⽐べて抜きん出て質量が⼤きく、⽊星の衛星全体 質量のほぼ全てを占めています。
これら 4つは、17世紀にイタリアの科学者ガリレオ・ガリレイによって観測されたことから「ガリレオ衛星」と呼ばれています。
土星の巨大衛星タイタンは少し離れたところにある
いっぽう、⼟星は280個以上の衛星を持つことが知られていますが、それら全ての質量の 95%以上を巨⼤衛星タイタンが占めています。
ガリレオ衛星が⽊星のすぐ近くの軌道を回っているのに対し、タイタンは⼟星から少し離れたところを周回しているという特徴の違いがあります。
このような巨⼤衛星の個数やその軌道の違いがどのようにして⽣じるのかは、よくわかっていません。
形成プロセス
巨⼤衛星系の違いを知る上で重要と考えられるのは、その形成プロセスの違いです。ガス惑星がガスの⼤気を獲得する際には、惑星の周りにガスが円盤状に集まります。
巨⼤衛星は、このガス円盤の中で形成されたと 考えられています。したがって、ガス円盤の構造や組成によって、そこで⽣まれる衛星の特徴が⼤きく影響を受けます。
ガス円盤の構造は、ガスの密度や温度、惑星の質量、惑星が持つ磁場などによって決まります。
ガス円盤の構造やその時間変化の様⼦が惑星磁場から受ける影響を仮定して、⽊星と⼟星の衛星系の違いを説明するという研究はこれまでにもありましたが、その設定が正しいかどうかについての検討は、⼗分ではありませんでした。
衛星形成における惑星磁場の影響を理解するためには、惑星磁場強度を計算し、ガス円盤と磁場と の相互作⽤を調べる必要があります。
内部構造からガス流まで一貫して計算
研究では、ガス惑星の内部構造を数値シミュレーションで解析し、惑星表面における磁場強度を算出しました。
さらに、国立天文台の計算サーバを用いて、惑星を取り巻くガス円盤の構造や衛星形成・軌道進化の数値シミュレーションを行いました。
(岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域 堀安範准教授)
「現在までに木星では100個程度、土星では280個程度の大小さまざまな衛星が発見されています。
このなかで、木星ではイオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト (= ガリレオ衛星と呼ばれています)の4つの巨大な衛星が存在していますが、土星ではなぜか大きな衛星はタイタンの1つしか存在していません。この違いを初めて整合的に説明するモデルを提唱した研究になっています」
──従来との違いは?
(岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域 堀安範准教授)
「誕生直後の木星や土星の磁場の強さをきちんと評価していることと、誕生直後の木星の強力な磁場が本当に衛星たちをそれ以上近づけなかった、そして土星は逆に堰き止められなかったということを、惑星を取り巻くガスの流れを詳細に調べることで明らかにできたことです。
木星と土星の磁場の強さを計算し、さらに惑星周りのガス流の流れと衛星の形成まで追うために、国立天文台の計算機を駆使した大規模計算によって、現在の木星と土星周りの衛星系の違いをようやく明らかにできた点になります」
表面磁場の差と「磁気圏降着」
研究では、内部では数倍の差に留まる磁場が、惑星表面では木星が土星より約100倍強いと算出されました。磁場が強い場合、ガスが惑星磁場に沿って流れ込む「磁気圏降着」が生じます。
木星ではこの磁気圏降着により、円盤内で形成された衛星が内縁で堰き止められ、複数の大きな衛星が近くに定着すると説明されます。
若いときは、木星の強力な磁場の影響で、木星の周囲にできた隙間がストッパーの役割を果たして、衛星がそれ以上近づけなくなっているというわけです。
磁場が弱い土星ではどうなる?
いっぽう、磁場が弱い土星では磁気圏降着が起きません。土星に近づきすぎた衛星は「土星に取り込まれる」あるいは「土星の潮汐力でバラバラに壊れる」、いずれかの運命をたどることになります。
近傍に来た衛星は惑星に飲み込まれやすいため、近傍に巨大衛星が残らず、外側で形成されたタイタンだけが生き残るということです。
波及効果と今後の示唆
研究は土星の環の形成自体は扱っていませんが、提案するシナリオは環生成の材料供給とも整合的だとしています。
また、太陽系外惑星の衛星探索への示唆として、木星サイズ以上の系外惑星の近傍には複数の衛星が見つかりやすく、土星程度の惑星では少数の衛星が少し離れた軌道に1-2個見つかる可能性が高いと予想しています。
(岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域 堀安範准教授)
「いまはまだ太陽系以外の木星や土星のようなガス惑星の周りでは衛星が発見されていないのですが、もし将来の口径30m級の次世代地上望遠鏡※などによって発見されると期待されています。
このとき、我々の研究では木星のような惑星には複数の大きな衛星が、土星のような惑星では少し離れた場所に1-2個の衛星が見つかることを予言しています」
※ 日本が参加する国際チームはハワイ島のマウナケア山頂にTMTという30m級の超大型望遠鏡を建設予定(2030年代前半に完成予定)です。
論文タイトル: Different architecture of Jupiter and Saturn satellite systems from magnetospheric cavity formation
著者: 藤井悠里(京都大学)、荻原正博(上海交通大学李政道研究所)、堀安範(岡山大学)
掲載誌: Nature Astronomy
DOI: 10.1038/s41550-026-02820-x
