【鈴木 貴博】イラン危機の陰で進む「本当の3大リスク」…!AI・政治・市場が同時に崩れるとき

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忘れられた危機を取り戻す

アメリカのイラン攻撃で原油価格が一時1バレル=100ドル台に急騰し、日本経済に一段の危機感が広がりました。仮にイラン問題が収束した場合でも経済危機は終わるわけではありません。

前編『イラン攻撃で現在進行中の「経済危機」が何だったのかを忘れかけている日本人のために』では、イラン攻撃によるオイルショックのリスクが、実は「4番目の危機」に過ぎないことを指摘しました。

では、それ以前に私たちが直面していたリスクとは何だったのか。

時間をさらにさかのぼると、日本と世界経済の土台を揺るがしかねない、より本質的な変化がすでに始まっていることに気づきます。

それは、テクノロジーによる産業構造の破壊、そして日本固有の政策リスクです。イラン情勢に気を取られている間にも、これらのリスクは静かに進行しています。

ここからは、忘れられた「本当の危機」を、順を追って見ていきましょう。

AIが「SaaS」と「IT産業」を飲み込む日

・2番目の経済危機懸念「アンソロピックショック」

さて、日付をさらにさかのぼると1月30日に別の経済ショックが起きていました。オープンAIと並ぶ生成AIの有力新興企業であるアンソロピックが、同社の生成AI商品のClaude(クロード)に法務や財務分析を自動化するプラグインを搭載したと発表しました。

このことで株価が急落したのがSaaSと呼ばれるソフトウェアサービス企業です。具体的にはセールスフォースやサービスナウといった企業活動を支援するソフトウェアを提供してきた企業の株価が急落しました。

高価なソフトウェアをサブスクしなくても、AIがそのサービスを代替するのではないかとユーザーが想像したことが原因です。この日を境に「SaaSの死」がやってくるのかどうかがひとつの焦点になります。

その後、2月にはいって今度はグーグルのジェミニが企業の研究やエンジニアリング課題を深く解決する強化機能や、エンタープライズ全域をカバーするAIの統合機能を発表します。そのことでコンサルやIT企業も不要になるのではないかという恐怖が広がります。

さらには2月23日に再びアンソロピックがCOBOLの近代化ツールを発表します。これはレガシーと呼ばれる旧型のシステムを安価にリニューアルさせる可能性を感じさせる発表でした。結果としてこれらレガシーシステムの運用で巨額の利益を上げてきたIBMや富士通などのIT企業の利益源が消失する可能性が生まれました。

こうして2月の一か月で世界のハイテク株がつぎつぎと下落する危機が発生しました。このショックはイラン攻撃でいったん落ち着きを見せていますが、それはわたしたちが「生成AIが既存のサービスを破壊する」という懸念をいったん忘れているだけの話です。

すべての出発点だった「高市ショック」

ではそのアンソロピックショックが起きる1月30日以前のわたしたちはどのような経済危機を警戒していたのでしょうか?

議論の俎上に上がっていたのは、高市内閣が掲げる「責任ある拡張財政」が成立できるかどうかの懸念でした。政府としての拡張財政が一定の責任下で管理され、国のバランスシートを悪化させることなく経済成長につながれば日本経済は良化していきます。

しかしその拡張政策がうまくいかないと市場が判断したときに、経済ショックが起きるのではないかと経済界は警戒をしていました。具体的に起きる可能性があるリスクは円安と長期金利の上昇です。

このふたつの数字は最終的には市場で決まります。もちろん介入という手段はありますが、市場全体が「円の価値は減っている」「日本の国債の価値は低くなっている」と感じれば為替レートは円安に進み、長期金利は上昇します。

そうなると輸入物価は一段と高騰する一方で、企業の投資は減り、結果として不況が訪れます。つい2か月前の日本では、そのような悪い経済シナリオが起きるのではないかと私たちが戦々恐々としていたのです。

なぜ危機を忘れるのか?

さて、もう一度話を整理しましょう。私たちの目の前にはわずか2〜3か月の間に合計で4つの経済危機リスクが出現しました

1 高市ショックによる一段進んだ円安と高金利。それに伴うインフレと景気後退

2 アンソロピックショックによるハイテク株バブルの崩壊

3 トランプ関税の修正による日本の地政学的優位性の消失

4 イラン攻撃にともなうオイルショックリスク

人間という生物はその生命維持の仕組みで、より大きな痛みが生まれるとそれまでの小さな痛みを忘れる傾向があります。今、イラン問題で頭の中がいっぱいになっているビジネスパーソンは、まさにその状態です。

現実にはこれら4つの経済リスクはそれぞれ独立した動きをみせる可能性があるリスクです。未来に備えるためには、ひとつひとつのリスクがついこの間まで存在していたことを忘れてはいけないのです。

さらに連載記事『トランプ政策で「中国EVは絶望の淵」へ…! なぜアメリカは時代に逆行して石油を掘るのか?その過激な言動に隠された「対中戦略」の核心』でも最新の経済事情について解説していますので、ぜひ参考になさってください。

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