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福島県いわき市の市立中学校で、3月11日の給食として出される予定だった「赤飯」について、当日になって教育委員会が「不適切」と判断し、2100食分が廃棄された。

市によると、東日本大震災で家族を亡くしたとする人から中学校に「経緯を知りたい」と問い合わせがあったという。

電話では廃棄まで求められていなかったものの、教育委員会の判断で赤飯は廃棄され、その後、教育長が謝罪する事態となった。

今回の対応について、いわき市としては、いわゆる「クレーム」が寄せられた際、どのような意思決定をおこなうべきだったのか。自治体で働く吉永公平弁護士に聞いた。

●その判断に「適法性」はあったのか

震災の日と卒業式の関係、赤飯の文化的意義、食品廃棄の問題等については、すでに多くの意見が出ています。そこで今回は、あまり議論されていない視点から考えてみます。

自治体がクレームを受けた場合、その対応は主に「適法性」と「妥当性」という2つの観点から検討されます。

まず問題となるのは、学校給食法との関係です。とくに第1条(給食の目的)と第2条(給食の目標)を念頭に置く必要があります。

学校給食は、児童および生徒の心身の健全な発達に資するものであり、食に関する正しい理解と適切な判断力を養う上で、重要な役割を果たすものとされています(1条)。

また、適切な栄養の摂取による健康の保持増進を図ることなどを目的としています(2条)。

さらに、学校給食実施基準(学校給食法8条)、食育基本法や食品ロスの削減の推進に関する法律、いわき市と保護者との間に成立している給食供給契約の問題(※)も考えられます。

簡単に結論を出せる問題ではなく、それゆえに即断は困難であったのかもしれませんが、法的に検討し得るポイントもあったかと思います。

また、報道によれば、いわき市は代替品を後日提供する予定とされています。この対応についても、給食供給契約上の追完的な措置なのか(※ただし、無償契約に民法562条は適用されない:同法551条2項、559条)、それとも公益上必要な寄附または補助(地方自治法232条の2)にあたるのか、法的に整理する余地があるでしょう。

●その判断に「妥当性」はあったのか

一方、妥当性の観点については、教育委員会の判断に厳しい批判が向けられているものの、世論の中には一定の理解を示す声もあるようです。

そもそも「クレーム」とは、本来「主張」や「要求」を意味する言葉です。自治体には、少数の意見であっても真摯に耳を傾け、その妥当性を検討する責務があります。

約3カ月前に話題となった、ギネス世界記録に認定された千葉県市川市の市民納涼花火大会の写真展示問題でも「1件のクレームで自治体が展示を中止する事態」が生じました。

このように、たとえ1件のクレームであっても、自治体が検討するきっかけとなること自体は不自然ではありません。

また、今回の赤飯の廃棄は約2100食に及ぶ大がかりな対応でした。いわば「事なかれ主義」とは真逆の、かなり踏み込んだ判断だったともいえます。

そのため、「たかが1件のクレームに安易に屈した」と単純に評価することには慎重であるべきでしょう。もちろん、その判断の当否自体は当然、検証される必要があります。

●過剰な主張ではなかった点にも留意

さらに、今回の問い合わせは「経緯を教えてほしい」という内容から始まり、「わかりました。来年以降は気をつけてほしい」という形で終わったと報じられています。

このような内容は、過剰な要求とは言いがたく、「クレームを言った人」個人を強く非難することにも注意が必要でしょう。

今回の問題で求められるのは、献立の事前チェック体制や、問題が指摘された場合の検討プロセス、事後の説明や改善策の整備といった仕組みの見直しです。

これらに加えて、公務員でもある私が言うと自己保身のように聞こえるかもしれませんが、私たち国民・住民にも、冷静で慎重な批評が求められているのではないでしょうか。その様子を子どもたちも見聞きしているはずです。

いわき市の学校給食は無償だが、契約の有無、契約違反の有無もまた検討の余地がある

【取材協力弁護士
吉永 公平(よしなが・こうへい)弁護士
名古屋大学法学部卒業、名古屋大学法科大学院修了後、2012年弁護士登録。法律事務所にて勤務した後、2014年愛知県春日井市入庁。2025年から大府市入庁。職員からの法律相談や職員研修、庁内報の発行、政策会議への出席等を主な業務としている。著作に『ズバッと解決! 保育者のリアルなお悩み200』(ぎょうせい)。他の自治体や劇場・病院での研修講師も務める。