日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞 倍賞千恵子が筆者に明かしていた『男はつらいよ』への思い

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45年ぶり2度目の最優秀主演女優賞

3月13日に都内で開催された『第49回日本アカデミー賞』授賞式で、最優秀主演女優賞を受賞した超ベテラン女優・倍賞千恵子(84)。いまだ実力健在なところを見せたかたちだ。

受賞作は『男はつらいよ』シリーズなどで長年タッグを組んでいる山田洋次監督(94)の『TOKYOタクシー』。都内の自宅を引き払い、タクシーに乗り神奈川・葉山の高齢者施設に向かう道中で、木村拓哉(53)演じるタクシー運転手と心を通わせながら波乱に富んだ人生を振り返る85歳の高野すみれ役を、熟練の演技で演じて存在感を見せた。

1981年の第4回で『遥かなる山の呼び声』と『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』で受賞して以来45年ぶり2度目の最優秀主演女優賞の受賞となった。

受賞のスピーチでは高野すみれの若い時代を演じて優秀助演女優賞を受賞した蒼井優(40)に向かって

「優ちゃん!」

と声をかけると、テーブル席の蒼井が涙を見せて感激する場面も。そして

「タクシーの中でのシーンが多くて、バックミラーに彼(木村)の目が入ると、なんて大きな素敵な目なんだろうって、力を大変いただきました。木村君、どっかでもし聞いてたらありがとうございました」

と木村にも感謝した。

共演者にみせる倍賞の気遣いが目立つスピーチだったが、それは彼女が以前からこだわっていた基本的な姿勢だった。

1976年1月19日、『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』で第18回ブルーリボン賞の助演女優賞を受賞したときに、都内で当時34歳の倍賞をインタビューしたが、そのときにも同じようなことを語っていたのを思い出した。

1969年に始まった『男はつらいよ』シリーズは、当時すでに15作目。渥美清さん演じる寅さんの妹・さくら役の演技が評価されての受賞だった。

「夜知らせを受けたんですけど、何かの間違いじゃないかって。朝になって大変なものをいただいたと実感が湧いてきました。でも私だけじゃなくて、スタッフの方や、おいちゃん(森川信、松村達雄、下條正巳)や、御前様(笠智衆)や、隣の工場の社長さん(タコ社長役の太宰久雄)とか、みんなでもらったんでしょうねえ。なんかそんな感じがします」

とスタッフや共演者に配慮を見せていた。そして

「15作目の『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』(1975年8月公開)と16作目の『男はつらいよ 葛飾立志篇』(1975年12月公開)は苦しかったけど、山田監督が(脚本を)書いていく限り続けたいわね」

と語っていた。

「脇役でもじわっと人気が出るような女優でいたい」

ここで彼女の言う“苦しかったこと”とは

「とらやのセットに入ってほっとしたりもするんですけど、マンネリにならないようにするのって難しいわねえ」

と明かしたマンネリ化のこと。その対策について聞くと

「意外と考えないの(笑)。マイペースでやっちゃいますね」

と笑って話していたのが印象的だった。

「最初は『男はつらいよ』っていうタイトルが良くないということでもめていたくらいですからねえ。(何がヒットするかなんて)分かりませんよねえ」

と彼女もここまで国民的人気シリーズになるとは思っていなかったという。その寅さん人気については、

「私はいつも映画館で見るんですけどね。まず幕が開いて、富士山が出てきて、ジャーン、ジャジャジャジャーンってテーマ曲が流れ、お客さんがざわざわっとすると、なんかほっとするんですよね。あれじゃないかしら」

と渥美さんの魅力を語った。さくら役については

「松竹に入ってから15年になるけど、半分は『男はつらいよ』やってるんだもの」

と言い、

「脇役でもじわっと人気が出るような、そんな女優でいたいわね」

と語った。

倍賞は同シリーズ49作と渥美さんが亡くなった後に製作された50作目『男はつらいよ お帰り 寅さん』(’19年)の全作に出演。さらには、『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)、『遥かなる山の呼び声』(1980年)、『駅 STATION』(1981年)では高倉健との名コンビで人気を呼び、『駅 STATION』で第55回キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞を受賞した。

近年でも『PLAN 75』(’22年)で第65回ブルーリボン賞主演女優賞など数多くの主演女優賞を受賞しており、息の長い活躍を見せている。

日本テレビの特番で、番組ナビゲーターを務めた若林正恭と佐藤栞里のインタビューに

「もう一回、新たなスタートラインに立ってこれからも精進していきたい」

と語っていた倍賞。女優として今後どんな作品で活躍を見せてくれるのか注目される。

取材・文:阪本 良(ライター、元『東京スポーツ新聞社』文化社会部部長)